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2008年10月30日 (木)

和製パテントトロールが米国で特許訴訟

あるサイトの記事「ソニー、任天堂、MSがゲーム機の特許侵害で日本企業に提訴される」からの引用です。

「ゲーム機世界大手のソニー、任天堂、マイクロソフトの3社が、ビデオゲームの通信システムに関する特許侵害で提訴された。訴えを起こしたのは、愛知県名古屋市に本社を置く特許ライセンス企業のエイディシーテクノロジー(ADC Technology)。
 ADCは同社が保有する5つの米国特許(5,775,995、6,193,520、6,488,508、6,702,585、6,875,021)をゲーム機大手3社に侵害されたと主張している。2008年10月27日付けで、米国ワシントン州の西部連邦地方裁判所に提訴した。」

ADCテクノロジーは名古屋の会社(CEOは弁理士)だが、パテントトロールとしても有名で、去年だったか日経新聞にも紹介されていた。個人発明家などから特許を買い取ることもしているらしい。数年前は、「2画面ケータイ」特許を取得したとして、NTTドコモやNECと東京地裁で訴訟をしていたが敗訴していた。

でも、海外、特に特許権者に有利な判決が出やすい米国で「2画面ケータイ」などをも含めてかなりの数の特許を持っているらしい。そして、今回は、米国ワシントン州の西部連邦地方裁判所にソニー、任天堂、マイクロソフトの3社を提訴。

さすが、僕なんかが考えてること比べてスケールがでかいですね^^;)

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発明は必要の母・必要は発明の母

栗原潔さんのブログ、よく見ているのですが、「発明は必要の母」というタイトルの記事が出てました。

その中から引用(元ソニーコンピュータサイエンス研究所の暦本純一さんの言葉らしい)。

「(発明は必要の母だというのは)イノベーションは最初の発明者が想定したのとは違う方向に進むことが多いからだ。蒸気機関は最初は炭鉱用のポンプとして生まれ、長い間交通機関には使われておらず、エジソンは録音技術をボイスメモとしか捉えておらず、音楽産業を想像できなかった。つまり発明は予測の範疇を超える。」

普通は「必要は発明の母」だけど、発明は「必要の母」つまり「発明の母の母」になる、ということだ。

これは、基礎科学の分野、大発明・大発見を見ると、当然だね。アインシュタインの相対性理論など革新的な理論が発表されると世界中の人々が触発されてあちこちで議論が沸き起こって新しい理論が次々に生まれたみたいな。

コンピュータの発明も、最初は数学者のチューリングが設計した計算モデル(チューリング機械)から始まったけど、トランジスタの発明と半導体の発明が結婚してコンピュータに適用されて小型で高速のコンピュータになって、徐々に通信の世界(インターネット)やロボットの世界まで進出してきた。

本当の科学者は「何のため」なんか考えないで「ただ面白いから」という好奇心だけで突き進む。本当の大発明はニーズなんかすっとばして、そのニーズは数百年掛けて徐々に多様に生まれていく、そして、その次々と生まれるニーズのためにその大発明が数百年掛けて使われていく。

これに対して、僕のような普通のレベルの発明家や通常の企業の研究者や開発者がやる発明は、まずニーズをつかまえてそれを解決するために何とかひねり出すというだけで、大発明のような雄大なロマンや発展性はない。一つのニーズを解決したらそれで終わりという単発の発明だ。

もう一度生まれてきたら、今のようなチマチマした発明ではなく、一生に一つだけでもいいから、大発明をやれるような人間になってみたい。

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2008年10月19日 (日)

アイデア社長 2

以前、発明仲間のアイデア社長について書いたけど、もう一人、親しくしていたアイデア社長がいた。

そのアイデア社長、Mさんとはここ1年くらい、連絡してなかったのだけど、思い出した。ある人から、最近、破産したらしいと聞いたので。

Mさんは、建築関係資材の製造販売の仕事をしていた。自分で発明をして特許も取っていた。しかも、その発明を基に実際に建築資材を作って、自社の独自製品(特許製品)として販売していた。従業員は営業マンが何人か居ただけで、自分で製造する設備はなかったので、多分、受注を受けてから製造委託してたのだろう。

Mさんは、僕より5歳くらい年上で、建築関係の仕事は長いらしく、すごく成功したという訳ではないが、そこそこ儲かっているらしかった。

Mさんとは、6年くらい前にちょっとしたことで知り合って、最初に会ったときは、昼の2時頃から夜の11時頃まで、途中でお茶や食事のために場所を移動しながらトータルで9時間くらい話し続けた。若い頃はそういうことは珍しくないが年を取ってからはオジサン2人だけで酒なしで9時間も一緒に話し続けるというのは数年に一度あるかないかだ。まあ、そういう風に意気投合した。バイタリティがあって、ユーモアがあり、話がうまくて人を飽きさせない、頭も切れる、という印象だった(ただ、僕を含めて多くの発明家に共通の特徴だが、自分のことを過大評価するという面もあったかもしれない。)。

Mさんも、僕のことを気に入ったようだった。というのは、最初に会ってからまだ半年も経っていないときに、「中国に商談に行くので、一緒に付いて来ないか」と誘われたから。

聞いてみると、「Mさんの会社の独自製品(建築資材)は素晴らしいので、現地の企業と一緒に提携してやるなら何社か紹介しますよ」という話が、たまたま知り合ったブローカーのような日本人から、持ちかけられたらしい。そのブローカーの知り合いの日本人が上海でコンサルタント会社の雇われ社長をしていて、日本企業と現地企業の橋渡しをしているとのこと。

Mさんは、僕に「一部始終をアンタの目で見て、総合的な感想を言ってくれんか」と言った。まあ、その頃はちょうど忙しくなかったし、旅費や食費などの一切の費用は見ると言われたので、冬だったけど(死亡者が出たサーズ騒動はその翌年だった)、付いていくことにした。

商談で会う相手は全部コンサルタント会社の社長がお膳立てしていた。日程は、1週間くらいで、その間に青島→上海→湖南省→上海→青島というような日程で、とにかく飛行機とタクシーで動き回った。メンバーは、Mさんと僕と、日本人のブローカーのような人と、上海のコンサルタント会社の雇われ社長(日本人)と、補助者の中国人と、通訳アルバイトの日本学生(30歳代)という「ちょっと大袈裟な人数」で移動した。しかも、商談した後は必ず会食やカラオケなどで深夜まで飲んでたので、それらは全て(おそらく商談の相手の数人の飲食代も)Mさんの出費だったろうから、これだけでも相当の散財だったと思う。

そんな感じで1週間が経ったが、商談する企業は1日当たり1~2社で、従業員数十人から数百人程度の中小企業という感じで、こんなチンケな企業に会うためにわざわざ湖南省まで飛行機で飛んでいって意味あるのか、と疑問を持った。というか、企業はいっぱいあるだろうが、そのコンサルタントが知っている企業だけが相手なので、限られている。コンサルタントの費用もバカにならない(商談の打ち合わせのためにMさん抜きで勝手に顧客と飲みに行って、その飲み代だけをMさんに請求したりということも、しょっちゅうあったらしい)。こんなんなら、商工会議所やジェトロなどの公的機関がコンサル料はほぼ無料で中国企業との商談会とかやっているから、その方がよっぽど費用は掛からないのに、と思った。

どうも、Mさんは、コンサルタントとブローカーに利用されてるのような気がした。また、Mさんの製品が日本で成功したので中国に進出しようというのなら分かるが、日本で長年やってて特に成功してないのに中国で成功しようというのは順序がおかしいような気もした。

帰国してから、「あのコンサルタントとブローカーは胡散臭いというか怪し過ぎるので、もう止めたら?」と言いたかったけど、Mさんは、コンサルタントとブローカーのことを物凄く気に入ってたようで、ちょっと言い難い雰囲気があったので、言わなかった。Mさんが相当の余裕資金を持っているように僕からは見えたのも、言わなかった原因だ。今から思えば、きちんと言っておいた方が良かったと思う(そのためにこそ僕に一緒に付いて来てくれと言ったのだろうから)。「商工会議所とかでも同じことはやってくれるのでは」ということは言ったが、「ああいうのはダメだ」という答えだった。

まあ、僕はよく分からないし、一緒に行ってもほとんど役に立てることはないと思ったので、それ以後、同行することは無かった。その後も、Mさんとは、中国の話しは抜きで親しく付き合っていたが、2~3年過ぎる頃から徐々に付き合いは薄くなって行った。

Mさんは、その後も、例のコンサルタントやブローカーとは親密に付き合ってて、1~2ヶ月に一度くらいは、中国に行って同じような感じで商談していたらしい。幾つかは話が進んだりしたらしいが、そのためにかえって出費がかさんだりして(例えば合弁会社を作ろうということになればそのことでまたMさんの出費がかさんでしまう)、とにかく動けば動くほど金が出て行ってしまうのだが、金が入ってくることはほとんど無かったようだ。

しかし、当時は、中国五輪まで数年という建設ラッシュで、建設業界ではユーフォリオ(バブル的な陶酔)があって、Mさんもそれに乗せられていたのかもしれない。そんな感じで、数年が経ったが、中国五輪も終わってみたら、ほとんどプラスは無くマイナスだけが残ったということかも知れない。

まあ、そんな感じでMさんとの付き合いは5年くらい続いたが、今は連絡が付かない。先日、携帯電話に電話してみたが、繋がらなくなっていた。

確かに、Mさんは破産したらしいけど、それは、僕を含めて自営とか会社を経営している人の宿命というか良くあることなのだろうと思う。Mさんは、失敗に終わったとは言え、果敢に挑戦した結果なのだから立派だと思う。

あれだけバイタリティのある人だから、今もどこかで元気に仕事をしたり発明を考えたりしているのだろうと思う。

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2008年10月18日 (土)

年と独創性とやる気

「日経エレクトロニクス」を購読してるのだけど、その2008/10/20号に、慶応大学理工学部大学院の中村維男教授が出てました。

この人は64歳なのだけど、「これからが研究者人生の華」で、(今のプログラム型の)ノイマン型コンピュータをひっくり返したいと言っていた。

この教授によると、独創性は知識と経験の組み合わせにより生まれる(発明と同じだ)が、年を取るほど知識と経験は豊富になるので独創性に有利なはずだ、とのこと。

脳科学者の茂木健一郎さんも、「やる気がある人なら、年を取るほど頭は冴える」と言われているそうです。

要は、「やる気」だということです。
この中村教授は、自分は普通の人とはやる気が10倍くらい違う、と自分で言っていた。

確かに、自分や周りを見てて、年をとると、働くのに疲れてきたとか、自分の限界とか諦めることが多くなったとかで、性格が丸くなって、「やる気」がなくなる、というのはある。それが独創性が無くなったり発明が出なくなったりする原因なのかも。

まあ、やる気を無くして丸い人生を送るのも幸せな老後なのだろうし、その方が良いのかなとも思うけど、何とか「やる気」を出して、(上の中村教授は人生で何回目かの花をこれから咲かそうというのだろうけど、僕も場合)人生で一回くらい、花を咲かせたいと思います。

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2008年10月17日 (金)

機能的クレームの解釈

僕の出願では結構、機能クレームが多いのですが、これの解釈はどうなのか、ずっと気になってました。機能クレームの解釈についてちょっと突っ込んで調べてみたので、メモしておきます。
1 機能的クレームの解釈手法
(1)機能的クレームとは、発明の構成を、その課題や作用効果の側面から、機能的・抽象的な表現で記載している特許請求の範囲(クレーム)、を言う。

(2)磁気リーダー事件判決
機能的クレームについては、有名な平成10年12月22日東京地裁判決(平成8年(ワ)第22124号 磁気リーダー事件)がある。この判決を書いた裁判官は、例の青色発光ダイオード事件(中村修二VS.日亜化学)の1審で200億円の判決を書いた三村量一判事だ。何冊か読んだ参考書でも必ず紹介されている。いろんな参考書でグダグダ書いてるけど、要はこの判決の一部を紹介・要約しているだけで、それ以上の情報はほとんどない。

そこで、この判決の一部を要約しつつ引用しておく。
「請求の範囲に記載された考案の構成が機能的・抽象的な表現で記載されている場合には、その記載のみによって考案の技術的範囲を明らかにすることは出来ず、請求の範囲の記載に加えて、明細書の詳細な説明を参酌し、『明細書の詳細な説明に開示された具体的な構成』に示されている技術思想に基づいて、考案の技術的範囲を確定すべきである。但し、このことは、考案の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するというものではなく、実施例としては記載されていなくても、『明細書(の発明の詳細な説明)に開示された考案に関する記述の内容から当業者が実施し得る構成』であれば、考案の技術的範囲に含まれると解すべきである。」

私見としては、おそらく、上記判決の「当業者が実施し得る範囲」というのは、特許法36条4項1号の「明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しなければならない」という規定と関係している。つまり、『当業者が実施し得る』ように明確かつ十分に開示された発明であるならばその公衆への開示の代償として独占権を付与するという特許法の理念からは、機能的クレームにより独占権が認められるべき範囲は、『明細書(の発明の詳細な説明)に開示された考案に関する記述の内容から当業者が実施し得る構成』でなくてはならない、ということになるからだ(トートロジーだけど)。

なお、「座談会 特許クレーム解釈の論点をめぐって」(2003/3/3発明協会より発行)の128頁以下に、三村量一判事がこの事件について発言されている。それによると、この事件では、クレーム自体が「解決すべき課題」に非常に近い形で書かれたものだった、したがって、機能的クレームの権利範囲は、「出願時の明細書で具体的に開示されているもの、プラス、そこから当業者が当然に読み取れるところ」までだ、と述べておられる。別の設楽判事は、この事件のようなクレームは、今なら特許無効論で無効なので権利行使不可となるのではないかと指摘されている。

(3)「当業者が実施し得る範囲」について
「知的財産関係訴訟」(青林書院より2008/5/15発行)の高木龍教授執筆部分によると、この判決は、米国連邦特許法112条6段落目の「機能的クレームは、明細書に記載された構造、材料、作用、及び『それらと等価(equivalents)な範囲』として解釈しなければならない」という意味の規定の考え方を参考にしたものと指摘されている。

また、「知的財産関係訴訟」(青林書院より2008/5/15発行)の高木龍教授執筆部分では、上記の「等価」を「当業者が容易推考な部分」と表現している。上記判決では、「当業者が実施し得る範囲」と表現していますが、両者はほぼ同じ意味なのでだろうか。なお、特許判例百選でもこの判決は同じ高木龍教授が執筆してて、内容も同じだ。

2 機能的クレームの解釈に関する主張立証責任の分配
「知的財産関係訴訟」(青林書院より2008/5/15発行)の高木龍教授執筆部分は、機能的クレーム解釈に関する主張立証責任の分配についても述べています。これによると、原告は、被告製品が特許請求の範囲の機能的表現による構成要件を充足することを「評価根拠事実」として主張立証すれば足り、被告において機能的クレームは「明細書で開示された構造+等価(当業者が容易推考な部分)」に限定解釈されるべきことを「評価障碍事実」として主張立証すべきことになる、とされている。

3 機能的クレームと均等論
「座談会 特許クレーム解釈の論点をめぐって」(2003/3/3発明協会より発行)の130頁に、三村量一判事がこの問題について述べている。
これによると、機能的クレームの文言そのものについて均等論を適用するのではなく、機能的クレームの技術的範囲として限定解釈された「出願時の明細書により実施例等として開示されている具体的な構成」について、その後(侵害時=製造販売時まで)の技術進歩により一部置換することが可能なものが出てきたという場合には、その「具体的な構成」を基にして均等論を適用する可能性はある。

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2008年10月13日 (月)

損害賠償請求(実施料相当額)

特許侵害訴訟を調べてましたが、個人発明家から見ると、差止め請求より損害賠償請求の方が大切だが、この損害賠償請求の内容も、個人がやる場合と企業がやる場合とでかなり違うと思いました。以下に、調べてて印象に残ったことを書いてみます。
 
1 実施料相当額
まず、 個人は事業をしていないので、「逸失利益」としての損害金は「実施料相当額」(特許法102条3項)に限られる。この場合の「実施料相当額」は「通常(世間相場)のライセンス料率によるもの」である必要はないので、世間相場の(通常の)実施料率よりも高い料率が妥当であることを基礎付ける「個別の特殊事情」(例えば相手方が不当にライセンス交渉を拒否したという悪性の酷さ、特許発明の新機能による製品全体の付加価値の増加、特許発明の新機能によって製品全体の話題性が増大したことによる広告宣伝効果、それらによる被告の利益の増加の程度など?)を主張・立証することが有効。
この「実施料相当額」は、「侵害製品の売上高×寄与率×実施料率」により計算される。以下に個別にみよう。
 
(1)侵害製品の売上高
この計算は帳簿を見るしかなく、後述の文書提出命令や損害額計算鑑定人の利用が大切だろう。
 
(2)寄与率
寄与率とは、例えば特許発明が「ハンドル」の発明だけど、被告としてハンドルのメーカーでなく自動車メーカーを選んだ場合、完成品としての自動車の価格の全体について実施料率を掛けるのは不合理なので、ハンドルという部品の特許が自動車という完成品の中でどのくらいの価値を持っているかを示す数値だ。昔は、この寄与率を多く見せかけるために、特許クレームを「・・・のハンドル」とはしないで「・・・のハンドルを備えた自動車」とすることが行われていたらしいが、こういう形式的なことで損害額が左右されるのは不合理なので、最近は実質的に考えられているという。
従来の裁判では、完成品の製造原価に対する特許の部品の製造原価の割合を寄与率として計算する例が多かったらしいが、これも形式的で妥当でない。
そこで、最近は、より実質的に、その部品の特許発明(例えば新機能)を利用することによって完成品の商品価値や競争力がどれだけ高まったか、具体的には、仮想的ライセンス交渉を考えて、特許発明のライセンスを受けることによりどれだけの利益が見込めるかを予想して、そのライセンスにより増加するであろう予想利益の半分とか1/3とかを実施料として算定するのが妥当という考え(仮想的ライセンス交渉の理論)が提示されている。この段落部分は、「特許・実用新案の法律相談」(青林書院より2004/2/20発行)の427頁の近藤恵嗣弁護士執筆部分を参考にした。
 
(3)実施料率
実施料率は、従来の裁判では、社団法人発明協会発行の「実施料率」という本に多数の産業分野別の聞き取り調査による世間相場が記載されているので、それを参考にすることが多かった。しかし、それだけでなく、最近は、「個別事情」が考慮されて、世間相場よりも高い金額になる方向にある。
「個別事情」は、よく分からないが、上にも書いたような、例えば相手方が不当にライセンス交渉を拒否したという悪性の酷さ、特許発明の新機能による製品全体の付加価値の増加、特許発明の新機能によって製品全体の話題性が増大したことによる広告宣伝効果、それらによる被告の利益の増加の程度などだろうか。
 
2 不当利得返還請求権
次に、不法行為(民法709条)による損害賠償請求権は消滅時効が3年(民法724条)なので、それよりも遡る分については不当利得返還請求権(民法703条)に基づいて請求できる。この不当利得返還請求権の時効は10年だが、訴訟提起を故意に遅らせたなどの場合は、米国の判例ではラッチス(懈怠)として権利行使が認められない場合がある(日本の判例にはまだない)。不当利得返還請求権の場合も不法行為による場合と同じ実施料率を適用してもらえるかは、分からない。
 
3 一部請求
印紙代を考えると「一部請求」は必須。ただ、一部請求で訴訟を提起して、その中の侵害論で侵害ありとなって損害論に移行した後、請求額を増額する「請求の拡張」を何時やるかなどは、いろいろ考える必要があるのだろう。
 
4 文書提出命令と損害額計算鑑定人
実施料相当額の計算は、売上額と実施料率と寄与率で決まる。実施料率は大体1~10%で、分野によるが5%前後が最も多いようだ。売上額は、侵害製品ごとの売上額なので、正確な額は帳簿を見るしかない。大手企業で有名な商品なら、公開情報から推測もできるだろうが。帳簿を見るためには、訴訟の中の侵害論の中で侵害ありということになって損害論に移行した段階で、損害の計算をするための書類を提出させるための「文書提出命令」(特許法105条)を求める「文書提出命令申立書」を出すとか、「損害額計算鑑定人」(特許法105条の2)を求める「鑑定申出書」を出すことが行われている。鑑定人(公認会計士)の場合は、選任するのは裁判所だが鑑定料(数十万円以上)は原告が負担することになるのだろう。
 
「文書提出命令」は、民訴法の規定では営業秘密であることが除外事由となっているが、特許法105条では正当な理由があることが除外事由となっている。したがって、被告が営業秘密であることを理由に提出を拒んだときは、インカメラ手続で裁判所が正当理由があるかどうかを判断する。判例では、少なくとも損害の計算のための書類については(侵害を立証するための書類とは異なって)、侵害に関係する文書であれば秘密として守られる正当性はない(損害の計算に関係しない部分はマスクして出せばよい)としている。(この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の143頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を部分引用)
 
「損害額計算鑑定人」は、予め裁判所の期日において、鑑定人が被告の会社に出向く日、被告が準備すべき帳簿類、鑑定人に説明を行ってもらう被告側の経理担当者などを決めた上で、鑑定人が被告の会社に出向いて帳簿類を調査・検討し「計算鑑定書」を作成して裁判所に提出するので、極めて有意義らしい(青林書院より2008/4/15発行の「知的財産関係訴訟」34頁を参考)。また、(a)被告は鑑定人から聞かれたら鑑定に必要な事項の説明をする義務がある(特許法105条の2)ので、被告からの説明を強制できる、(b)鑑定人が鑑定を進めている中で必要な書類が新たに判明したとき、原告が文書提出命令の申立てができる、つまり、どのような書類を提出させればよいかが分からないときに鑑定人の鑑定作業の中でそれを判明させることができる、などのメリットもあるとのこと(「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の146頁の尾崎英男弁護士執筆部分を参考)。
 
まあ、要するに、個人の場合で実施料相当額のみの場合は売上額が分かればよいという単純なもので、侵害製品の売上額は帳簿を見れば分かるだろうから、「売上高」のみなら、鑑定人は必要ないような気がする。ただ、上記の「寄与率」を定めるときの計算、例えば部品の原価の製品全体の原価に占める割合とか、特許発明の新機能により製品全体の売上げがどの程度増加したと言えるかなどの算定は、鑑定人が必要かもしれない。
 
5 一つの侵害製品(群)について複数の特許権の侵害がある場合
通常のライセンス契約では一つの製品(群)について複数の特許権を許諾する場合でも、その複数の特許権ごとに実施料を定めることはしないで一括で定める。よって、一つの侵害製品に対して複数の特許権の侵害に基づいて訴訟をしている場合(訴訟物の複数となる)でも、一つの侵害製品(群)に対する複数の特許権の全体についての実施料相当額を算定するのが妥当。ただ、複数の特許権の侵害を主張していて、それらの中の一部の特許権が無効と判断されたり侵害していないと判断されたときは、実施料相当額の変動はありうる(控訴審で変動することもありうる)。この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の153頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を参考にした。
 
6 一つの侵害製品(群)について複数の被告を相手とする場合
(1)一つの侵害製品(群)について、そのメーカーA社と小売業者B社とを共同被告とする場合がある。その場合、メーカーの相手に計算するときは製品価格(売上高)は低いが実施料は高い、小売業者を相手に計算したときは製品価格(売上高)は高いが実施料は低い、ということで、どちらを相手にしても実施料相当額はあまり変わらないだろう、ということだ。そして、同一製品について特許料の二重取りはできない。だから、メーカーと小売業者の共同被告に対して損害額の支払い判決をもらった場合は、どちらからでも支払いを受けることができるが、一方から支払われた価格の分だけ他方の賠償支払い義務は消滅する(メーカーと小売業者との間の求償の問題が残るだけ)。この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の154頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を参考にした。
 
個人としては、メーカーと小売業のどちらも一緒に訴えるとメーカーに対してプレッシャーを掛けることになってよいのかなという気持ちもあるが、他方で2社以上を相手にすると面倒くさいというのもある。メーカーと小売業者の共同被告とするか、メーカーだけを被告とするか、小売業者だけを被告とするか、そのメリットとデメリットはよく分からないところだ。
 
(2)ただ、結論的には、どれを取っても、特に個人の場合の実施料相当額の場合は、「獲れる損害金」は同じになるのだろう。
なぜなら、特許料の二重取りはできないから、複数の被告に対する損害賠償請求権は、誰かが支払えばその分だけ全ての被告に関して消滅する(民法719条の共同不法行為が認められた場合の連帯責任と同じことになる)。
 
つまり、民法719条の共同不法行為は、複数の被告の各人に責任額が異なる場合(特許法102条の1項か2項か3項かの適用が異なる場合)は意味があるが、個人で実施料相当額しかない場合は複数の被告でも皆同じ金額になるので、おそらく、共同不法行為を主張する実益はないのだろう。
 
また、「実施料相当額の場合は複数の被告が皆同じ金額になる」というのは、メーカーの「製造」に対する実施料相当額と、小売業者の「販売」に対する実施料相当額は同じ額になるべきだ、ということだ。なぜなら、実質的に考えて、メーカーを訴えるか小売業者を訴えるかで損害金の額が変動するのはおかしい。理論的には、小売業者の侵害品の販売価格の中にはメーカーが本来は支払うべき実施料の価格が含まれているのに侵害によりその分だけ仕入価格が安くなったので、「小売業者は本来は『メーカーが本来支払うべきだった実施料』を含めた仕入価格を支払うべきだったのにそれをしなかったこと」による損害額はメーカー実施料と同一の額ということになる。この(2)の部分は、「特許・実用新案の法律相談」(青林書院より2004/2/20発行)の433頁の近藤恵嗣弁護士執筆部分を参考にした。

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2008年10月 7日 (火)

一部請求

前回と同じく特許侵害訴訟を勉強してて思ったこと。

訴状に貼付する印紙代は訴額によるがかなりの額になるようです。例えばこのページに出てますが、300万円だと2万円とちょっと、1千万円だと5万円だけど、5千万円だと17万円、1億円だと32万円となって、額が大きくなると相当の金額になってしまいます。

特に特許侵害訴訟では、原告が勝訴する確率は1~2割と言われているので、いきなり1億円の損害賠償をして32万円の印紙代を払うのはもったいないということになります。

それで、こういう場合は、例えば3億円の損害賠償を請求するが、とりあえず印紙代を考えてその3億円の一部の1千万円だけ請求する、という「(明示的)一部請求」の形をとることが多いようです。こうすれば、印紙代は1千万円についての5万円だけなので、もし判決で負けても、印紙代の損は5万円だけで済みます。

「(明示的)一部請求」のやり方は、訴状の請求の趣旨の中で「1千万円(及び利息)を支払え」とした上で、請求の原因の中で「原告は、損害額(3億円を下らない)のうち、一部請求として、1千万円(のみ)を請求する。」と記載すればよいようです。

有名な青色発光ダイオード訴訟(中村修二VS.日亜化学工業)でも、1審では200億円という判決が出たが、1審の訴状は一部請求の形だったのだろうと思う(確認していない)。それが、2審になってから、原告側は強気になって印紙代を補充した(数千万円の印紙代だったらしい)が、結局、和解(8億円)で終わったので、多額の印紙代が無駄になってしまった。印紙代の問題はばかにできない。

最高裁判例によると、明示的一部請求の場合としては、「一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合」(昭和37年8月10日最高裁判決)と、「基準時までに発生した部分に限って訴えを提起していることが明らかである場合」(昭和42年7月18日最高裁判決)と、の2つがこれまで認められている。そして、最高裁判例によると、明示的一部請求の場合、その既判力は残部には及ばない、とされている(参考)。

したがって、明示的一部請求を認める判例の立場からは、(明示的)一部請求で勝訴判決が確定した場合でも、一部請求の判決の既判力は残部には及ばないから、勝訴した原告が残りの額(残部)について改めて訴訟を提起することは可能、とされている。ただ、第1審で勝ったら、判決が確定する前に、青色発光ダイオード訴訟の場合のように、第2審で「請求の拡張」をすることが多いのだろう。

他方、明示的一部請求を認める判例の立場からは、(明示的)一部請求で敗訴判決が確定した場合は、敗訴原告が残りの額について改めて後訴を提起すること(残部請求)は、既判力は及ばないが信義則に反し許されないという理由から、(前訴基準時以後の新たな事由がない限り)請求棄却される。

なお、判例の立場で、「一部請求の明示」がなかったために前訴が一部請求として認められない場合は、前訴が勝訴で確定しても敗訴で確定しても、いずれの場合でも、後訴の残部請求は、「前訴は全部請求であり、その全部が認められた(又は認められなかった)→そもそも残部は存在しない」という前訴の既判力が及ぶという理由から、(前訴の基準時以後の新たな事由がない限り)請求棄却される。ただ、前訴が原告勝訴の場合の残部請求の後訴は、既判力を問題とする前に、原則として訴の利益がないという理由から訴却下される。

また、判例の立場では、一部請求をした場合、その一部については訴訟中は消滅時効の進行が停止されるが、残りの額(残部)については消滅時効が進行して消滅することがあり得る。もっとも、特許侵害訴訟の場合で特に個人発明家の場合は、その損害は実施料相当額として算出することになる。とすると、実施料相当額の場合は、不法行為の消滅時効(3年)にひっかかっても、不当利得の返還請求権(消滅時効10年)でも行ける(おそらく)ので、消滅時効の問題はそれほど気にしなくても良いのではと思う。

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