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2008年10月13日 (月)

損害賠償請求(実施料相当額)

特許侵害訴訟を調べてましたが、個人発明家から見ると、差止め請求より損害賠償請求の方が大切だが、この損害賠償請求の内容も、個人がやる場合と企業がやる場合とでかなり違うと思いました。以下に、調べてて印象に残ったことを書いてみます。
 
1 実施料相当額
まず、 個人は事業をしていないので、「逸失利益」としての損害金は「実施料相当額」(特許法102条3項)に限られる。この場合の「実施料相当額」は「通常(世間相場)のライセンス料率によるもの」である必要はないので、世間相場の(通常の)実施料率よりも高い料率が妥当であることを基礎付ける「個別の特殊事情」(例えば相手方が不当にライセンス交渉を拒否したという悪性の酷さ、特許発明の新機能による製品全体の付加価値の増加、特許発明の新機能によって製品全体の話題性が増大したことによる広告宣伝効果、それらによる被告の利益の増加の程度など?)を主張・立証することが有効。
この「実施料相当額」は、「侵害製品の売上高×寄与率×実施料率」により計算される。以下に個別にみよう。
 
(1)侵害製品の売上高
この計算は帳簿を見るしかなく、後述の文書提出命令や損害額計算鑑定人の利用が大切だろう。
 
(2)寄与率
寄与率とは、例えば特許発明が「ハンドル」の発明だけど、被告としてハンドルのメーカーでなく自動車メーカーを選んだ場合、完成品としての自動車の価格の全体について実施料率を掛けるのは不合理なので、ハンドルという部品の特許が自動車という完成品の中でどのくらいの価値を持っているかを示す数値だ。昔は、この寄与率を多く見せかけるために、特許クレームを「・・・のハンドル」とはしないで「・・・のハンドルを備えた自動車」とすることが行われていたらしいが、こういう形式的なことで損害額が左右されるのは不合理なので、最近は実質的に考えられているという。
従来の裁判では、完成品の製造原価に対する特許の部品の製造原価の割合を寄与率として計算する例が多かったらしいが、これも形式的で妥当でない。
そこで、最近は、より実質的に、その部品の特許発明(例えば新機能)を利用することによって完成品の商品価値や競争力がどれだけ高まったか、具体的には、仮想的ライセンス交渉を考えて、特許発明のライセンスを受けることによりどれだけの利益が見込めるかを予想して、そのライセンスにより増加するであろう予想利益の半分とか1/3とかを実施料として算定するのが妥当という考え(仮想的ライセンス交渉の理論)が提示されている。この段落部分は、「特許・実用新案の法律相談」(青林書院より2004/2/20発行)の427頁の近藤恵嗣弁護士執筆部分を参考にした。
 
(3)実施料率
実施料率は、従来の裁判では、社団法人発明協会発行の「実施料率」という本に多数の産業分野別の聞き取り調査による世間相場が記載されているので、それを参考にすることが多かった。しかし、それだけでなく、最近は、「個別事情」が考慮されて、世間相場よりも高い金額になる方向にある。
「個別事情」は、よく分からないが、上にも書いたような、例えば相手方が不当にライセンス交渉を拒否したという悪性の酷さ、特許発明の新機能による製品全体の付加価値の増加、特許発明の新機能によって製品全体の話題性が増大したことによる広告宣伝効果、それらによる被告の利益の増加の程度などだろうか。
 
2 不当利得返還請求権
次に、不法行為(民法709条)による損害賠償請求権は消滅時効が3年(民法724条)なので、それよりも遡る分については不当利得返還請求権(民法703条)に基づいて請求できる。この不当利得返還請求権の時効は10年だが、訴訟提起を故意に遅らせたなどの場合は、米国の判例ではラッチス(懈怠)として権利行使が認められない場合がある(日本の判例にはまだない)。不当利得返還請求権の場合も不法行為による場合と同じ実施料率を適用してもらえるかは、分からない。
 
3 一部請求
印紙代を考えると「一部請求」は必須。ただ、一部請求で訴訟を提起して、その中の侵害論で侵害ありとなって損害論に移行した後、請求額を増額する「請求の拡張」を何時やるかなどは、いろいろ考える必要があるのだろう。
 
4 文書提出命令と損害額計算鑑定人
実施料相当額の計算は、売上額と実施料率と寄与率で決まる。実施料率は大体1~10%で、分野によるが5%前後が最も多いようだ。売上額は、侵害製品ごとの売上額なので、正確な額は帳簿を見るしかない。大手企業で有名な商品なら、公開情報から推測もできるだろうが。帳簿を見るためには、訴訟の中の侵害論の中で侵害ありということになって損害論に移行した段階で、損害の計算をするための書類を提出させるための「文書提出命令」(特許法105条)を求める「文書提出命令申立書」を出すとか、「損害額計算鑑定人」(特許法105条の2)を求める「鑑定申出書」を出すことが行われている。鑑定人(公認会計士)の場合は、選任するのは裁判所だが鑑定料(数十万円以上)は原告が負担することになるのだろう。
 
「文書提出命令」は、民訴法の規定では営業秘密であることが除外事由となっているが、特許法105条では正当な理由があることが除外事由となっている。したがって、被告が営業秘密であることを理由に提出を拒んだときは、インカメラ手続で裁判所が正当理由があるかどうかを判断する。判例では、少なくとも損害の計算のための書類については(侵害を立証するための書類とは異なって)、侵害に関係する文書であれば秘密として守られる正当性はない(損害の計算に関係しない部分はマスクして出せばよい)としている。(この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の143頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を部分引用)
 
「損害額計算鑑定人」は、予め裁判所の期日において、鑑定人が被告の会社に出向く日、被告が準備すべき帳簿類、鑑定人に説明を行ってもらう被告側の経理担当者などを決めた上で、鑑定人が被告の会社に出向いて帳簿類を調査・検討し「計算鑑定書」を作成して裁判所に提出するので、極めて有意義らしい(青林書院より2008/4/15発行の「知的財産関係訴訟」34頁を参考)。また、(a)被告は鑑定人から聞かれたら鑑定に必要な事項の説明をする義務がある(特許法105条の2)ので、被告からの説明を強制できる、(b)鑑定人が鑑定を進めている中で必要な書類が新たに判明したとき、原告が文書提出命令の申立てができる、つまり、どのような書類を提出させればよいかが分からないときに鑑定人の鑑定作業の中でそれを判明させることができる、などのメリットもあるとのこと(「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の146頁の尾崎英男弁護士執筆部分を参考)。
 
まあ、要するに、個人の場合で実施料相当額のみの場合は売上額が分かればよいという単純なもので、侵害製品の売上額は帳簿を見れば分かるだろうから、「売上高」のみなら、鑑定人は必要ないような気がする。ただ、上記の「寄与率」を定めるときの計算、例えば部品の原価の製品全体の原価に占める割合とか、特許発明の新機能により製品全体の売上げがどの程度増加したと言えるかなどの算定は、鑑定人が必要かもしれない。
 
5 一つの侵害製品(群)について複数の特許権の侵害がある場合
通常のライセンス契約では一つの製品(群)について複数の特許権を許諾する場合でも、その複数の特許権ごとに実施料を定めることはしないで一括で定める。よって、一つの侵害製品に対して複数の特許権の侵害に基づいて訴訟をしている場合(訴訟物の複数となる)でも、一つの侵害製品(群)に対する複数の特許権の全体についての実施料相当額を算定するのが妥当。ただ、複数の特許権の侵害を主張していて、それらの中の一部の特許権が無効と判断されたり侵害していないと判断されたときは、実施料相当額の変動はありうる(控訴審で変動することもありうる)。この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の153頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を参考にした。
 
6 一つの侵害製品(群)について複数の被告を相手とする場合
(1)一つの侵害製品(群)について、そのメーカーA社と小売業者B社とを共同被告とする場合がある。その場合、メーカーの相手に計算するときは製品価格(売上高)は低いが実施料は高い、小売業者を相手に計算したときは製品価格(売上高)は高いが実施料は低い、ということで、どちらを相手にしても実施料相当額はあまり変わらないだろう、ということだ。そして、同一製品について特許料の二重取りはできない。だから、メーカーと小売業者の共同被告に対して損害額の支払い判決をもらった場合は、どちらからでも支払いを受けることができるが、一方から支払われた価格の分だけ他方の賠償支払い義務は消滅する(メーカーと小売業者との間の求償の問題が残るだけ)。この段落部分は、「特許権侵害訴訟の実務」(東京弁護士会弁護士研修委員会編 2000/2/15発行)の154頁(尾崎英男弁護士執筆部分)を参考にした。
 
個人としては、メーカーと小売業のどちらも一緒に訴えるとメーカーに対してプレッシャーを掛けることになってよいのかなという気持ちもあるが、他方で2社以上を相手にすると面倒くさいというのもある。メーカーと小売業者の共同被告とするか、メーカーだけを被告とするか、小売業者だけを被告とするか、そのメリットとデメリットはよく分からないところだ。
 
(2)ただ、結論的には、どれを取っても、特に個人の場合の実施料相当額の場合は、「獲れる損害金」は同じになるのだろう。
なぜなら、特許料の二重取りはできないから、複数の被告に対する損害賠償請求権は、誰かが支払えばその分だけ全ての被告に関して消滅する(民法719条の共同不法行為が認められた場合の連帯責任と同じことになる)。
 
つまり、民法719条の共同不法行為は、複数の被告の各人に責任額が異なる場合(特許法102条の1項か2項か3項かの適用が異なる場合)は意味があるが、個人で実施料相当額しかない場合は複数の被告でも皆同じ金額になるので、おそらく、共同不法行為を主張する実益はないのだろう。
 
また、「実施料相当額の場合は複数の被告が皆同じ金額になる」というのは、メーカーの「製造」に対する実施料相当額と、小売業者の「販売」に対する実施料相当額は同じ額になるべきだ、ということだ。なぜなら、実質的に考えて、メーカーを訴えるか小売業者を訴えるかで損害金の額が変動するのはおかしい。理論的には、小売業者の侵害品の販売価格の中にはメーカーが本来は支払うべき実施料の価格が含まれているのに侵害によりその分だけ仕入価格が安くなったので、「小売業者は本来は『メーカーが本来支払うべきだった実施料』を含めた仕入価格を支払うべきだったのにそれをしなかったこと」による損害額はメーカー実施料と同一の額ということになる。この(2)の部分は、「特許・実用新案の法律相談」(青林書院より2004/2/20発行)の433頁の近藤恵嗣弁護士執筆部分を参考にした。

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