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2008年10月 7日 (火)

一部請求

前回と同じく特許侵害訴訟を勉強してて思ったこと。

訴状に貼付する印紙代は訴額によるがかなりの額になるようです。例えばこのページに出てますが、300万円だと2万円とちょっと、1千万円だと5万円だけど、5千万円だと17万円、1億円だと32万円となって、額が大きくなると相当の金額になってしまいます。

特に特許侵害訴訟では、原告が勝訴する確率は1~2割と言われているので、いきなり1億円の損害賠償をして32万円の印紙代を払うのはもったいないということになります。

それで、こういう場合は、例えば3億円の損害賠償を請求するが、とりあえず印紙代を考えてその3億円の一部の1千万円だけ請求する、という「(明示的)一部請求」の形をとることが多いようです。こうすれば、印紙代は1千万円についての5万円だけなので、もし判決で負けても、印紙代の損は5万円だけで済みます。

「(明示的)一部請求」のやり方は、訴状の請求の趣旨の中で「1千万円(及び利息)を支払え」とした上で、請求の原因の中で「原告は、損害額(3億円を下らない)のうち、一部請求として、1千万円(のみ)を請求する。」と記載すればよいようです。

有名な青色発光ダイオード訴訟(中村修二VS.日亜化学工業)でも、1審では200億円という判決が出たが、1審の訴状は一部請求の形だったのだろうと思う(確認していない)。それが、2審になってから、原告側は強気になって印紙代を補充した(数千万円の印紙代だったらしい)が、結局、和解(8億円)で終わったので、多額の印紙代が無駄になってしまった。印紙代の問題はばかにできない。

最高裁判例によると、明示的一部請求の場合としては、「一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合」(昭和37年8月10日最高裁判決)と、「基準時までに発生した部分に限って訴えを提起していることが明らかである場合」(昭和42年7月18日最高裁判決)と、の2つがこれまで認められている。そして、最高裁判例によると、明示的一部請求の場合、その既判力は残部には及ばない、とされている(参考)。

したがって、明示的一部請求を認める判例の立場からは、(明示的)一部請求で勝訴判決が確定した場合でも、一部請求の判決の既判力は残部には及ばないから、勝訴した原告が残りの額(残部)について改めて訴訟を提起することは可能、とされている。ただ、第1審で勝ったら、判決が確定する前に、青色発光ダイオード訴訟の場合のように、第2審で「請求の拡張」をすることが多いのだろう。

他方、明示的一部請求を認める判例の立場からは、(明示的)一部請求で敗訴判決が確定した場合は、敗訴原告が残りの額について改めて後訴を提起すること(残部請求)は、既判力は及ばないが信義則に反し許されないという理由から、(前訴基準時以後の新たな事由がない限り)請求棄却される。

なお、判例の立場で、「一部請求の明示」がなかったために前訴が一部請求として認められない場合は、前訴が勝訴で確定しても敗訴で確定しても、いずれの場合でも、後訴の残部請求は、「前訴は全部請求であり、その全部が認められた(又は認められなかった)→そもそも残部は存在しない」という前訴の既判力が及ぶという理由から、(前訴の基準時以後の新たな事由がない限り)請求棄却される。ただ、前訴が原告勝訴の場合の残部請求の後訴は、既判力を問題とする前に、原則として訴の利益がないという理由から訴却下される。

また、判例の立場では、一部請求をした場合、その一部については訴訟中は消滅時効の進行が停止されるが、残りの額(残部)については消滅時効が進行して消滅することがあり得る。もっとも、特許侵害訴訟の場合で特に個人発明家の場合は、その損害は実施料相当額として算出することになる。とすると、実施料相当額の場合は、不法行為の消滅時効(3年)にひっかかっても、不当利得の返還請求権(消滅時効10年)でも行ける(おそらく)ので、消滅時効の問題はそれほど気にしなくても良いのではと思う。

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