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2009年1月31日 (土)

テレビ放送番組の録画・海外送信サービスは著作権法上適法だとした知財高裁判決を見て

静岡県浜松市の「日本デジタル家電」による「ロクラク」サービス(日本国内のテレビ放送番組を受信・録画・送信する機器(親機ロクラク)をサービス提供者の会社内で設置・管理し、それを利用者に貸与し、利用者は、海外の子機ロクラクから日本国内の親機ロクラクを遠隔操作して好きな番組を録画して、それをインターネット経由で海外に送信させることにより、海外に居ながら日本のテレビ番組が視聴できるというサービス)について、利用者個人による適法な(著作物の)私的利用行為にすぎないから適法だとする知財高裁判決が出ました(平成20年(ネ)第10055号 平成21年1月27日知財高裁判決)。  

著作権については判決を読んだことはなく、カラオケ法理の判決の内容なども詳しくは知らないのですが、今回の判決は、ざっとですが、読んでみました。何故そういう気になったのかというと、この事件は、知財の専門家のほとんどが「日本デジタル家電が負ける」と、予想というか決め付けていました。そして「日本デジタル家電」という小企業を訴えた原告は、日本を代表するNHKと民放10社という、そうそうたる顔ぶれです。そういう知財業界や放送業界という既存のある種のエスタブリッシュメント層の予想・決め付けを見事に打ち砕いた判決だったからです。

こういう、「強い者が常に勝つとは限らない、小が大に勝つこともある」、というのが、裁判だけに限りませんが、勝負事の面白いところです。

中村修二氏の青色ダイオード訴訟で升永英俊弁護士と一緒に戦った荒井裕樹弁護士も「大きな人の味方して勝つのは、簡単なんですよね。弱い人を助けて・・・強い人に勝つということが弁護士の醍醐味だと思うんです。」と言っていました(以前にテレビの情熱大陸に出たとき)。

それで、この判決に、少し興味を持ちました。

この判決が扱った争点は唯一つ、「本件サービスにおいて、日本デジタル家電は、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているか否か」ということです。つまり、親機ロクラクにより番組を録画・送信している主体は、実質的に見て、日本デジタル家電と利用者のどちらなのか、という問題です。主体が日本デジタル家電なら、複製権侵害と公衆送信権侵害になります。主体が利用者なら、その利用者の行為は著作物の私的利用に過ぎないので適法、日本デジタル家電の行為もその利用者の適法な私的利用の行為を支援するサービスをしているだけなのでこれまた適法、という論理になります。

これに関する判決の論理としては、僕の見たところ、4つくらいがポイントと思いましたので、この4つを、自分の備忘録としてですが、以下にコピーしておきます。これらを読んで感じたことは、この「番組録画送信(の支援)サービス」を適法とする結論は妥当だと思いました。ただ、この論理をそのまま貫くとカラオケボックスも適法となる可能性がある(そういう結論は妥当でない)ので、これこれの点で違うからカラオケボックスとは結論が異なってよいのだという論理を別個に用意しておくことが必要になるのではと感じました(おそらく、料金が定額か時間などによる従量制か、利用者の行為に対する店舗側の支配・管理の度合いの違いなどから結論が異なってよいということになるのでしょう)。

「イ 機器の設置・管理について
被控訴人らは,本件サービスにおいては,控訴人が,親機ロクラクとテレビアンテナ等の付属機器類とから成るシステムを一体として設置・管理している旨主張する。
しかしながら,被控訴人らが主張する上記事実は,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情たり得ない。その理由は,次のとおりである。
すなわち,本件サービスの利用者は,親機ロクラクの貸与を受けるなどすることにより,海外を含む遠隔地において,日本国内で放送されるテレビ番組の複製情報を視聴することができるところ,そのためには,親機ロクラクが,地上波アナログ放送を正しく受信し,デジタル録画機能やインターネット機能を正しく発揮することが必要不可欠の技術的前提条件となるが,この技術的前提条件の具備を必要とする点は,親機ロクラクを利用者自身が自己管理する場合も全く同様である。そして,この技術的前提条件の具備の問題は,受信・録画・送信を可能ならしめるための当然の技術的前提に止まるものであり,この技術的前提を基に,受信・録画・送信を実現する行為それ自体とは異なる次元の問題であり,かかる技術的前提を整備し提供したからといって直ちにその者において受信・録画・送信を行ったものということはできない。ところで,親機ロクラクが正しく機能する環境,条件等を整備し,維持するためには,その開発・製造者である控訴人において親機ロクラクを設置・管理することが技術上,経済上,最も確実かつ効率的な方法であることはいうまでもないところ,本件サービスを受ける上で,利用者自身が,その管理・支配する場所において親機ロクラクを自ら設置・管理することに特段の必要性や利点があるものとは認め難いから,親機ロクラクを控訴人において設置・管理することは,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の合理的意思にかなうものということができる。そして,そうであるからといって,前述したとおり,このことが利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
さらに,控訴人において親機ロクラクを管理する場合,控訴人においてその作動環境,条件等(テレビアンテナとの正しい接続等)を整備しない限り,親機ロクラクが正しく作動することはないのであるから,テレビアンテナ等の付属機器類を控訴人が設置・管理することも,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の意思にかなうものであることは前同様であるが,前同様の理由によりこれをもって利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
他方,本件サービスにおけるテレビ番組の録画及び当該録画に係るデータの子機ロクラクへの移動(送受信)は,専ら,利用者が子機ロクラクを操作することによってのみ実行されるのであるから,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を設置・管理すること自体は,当該録画の過程そのものに対し直接の影響を与えるものではない。
そうすると,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。」

「オ 複製のための環境整備について
被控訴人らは,①本件サービスにおいては,子機ロクラクを用い,これが示す手順に従わなければ,親機ロクラクにアクセスしてテレビ番組の録画や録画されたデータのダウンロードを行うことができず,また,②控訴人は,親子機能を実現するための特別のファームウェアを開発して,これを親子ロクラクに組み込み,かつ,控訴人のサーバ等を経由することのみによって録画予約等が可能となるように設定しており,さらに,③親子ロクラクは,本件サービス又はこれと同種のサービスのための専用品とみることができる旨主張する。
しかしながら,これらの事情は,いずれも,利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎないから,これらの事情をもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。」

「カ 控訴人が得ている経済的利益について
被控訴人らは,控訴人が,①初期登録料(3000円),②毎月のロクラクⅡのレンタル料(本件Aサービスにつき8500円,本件Bサービスにつき6500円),③毎月の「ロクラクアパート」の賃料(2000円)の名目で,利用者から本件サービスの対価を受領している旨主張する。
しかしながら,本件サービスは,機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等を伴うものであるから当然これに見合う相当額の対価の支払が必要となるところ,上記(1)エ(ウ)によれば,上記①及び②の各金員は,録画の有無や回数及び時間等によって何ら影響を受けない一定額と定められているものと認められるから,当該各金員が,当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまで認めることはできず(なお,被控訴人NHKの番組を視聴する場合には,上記の料金とは別に受信契約の締結が必要となる旨控訴人サイトに記載されている。),その他,当該各金員が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
また,仮に,控訴人が上記③の金員を受領しているとしても,それが,「ロクラクアパート」の賃料の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
以上からすると,控訴人が上記①ないし③の各金員を受領しているとの事実をもって,控訴人が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価を得ているものということはできない。」

「キ 小括
以上のとおり,被控訴人らが主張する各事情は,いずれも,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。加えて,上記(1)のとおりの親子ロクラクの機能,その機能を利用するために必要な環境ないし条件,本件サービスの内容等に照らせば,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法30条1項(同法102条1項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,被控訴人らの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。」

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