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2009年3月 3日 (火)

かんぽの宿に関する慶応大学・岸博幸教授の主張について

2009/2/6付けの慶応大学・岸博幸教授の主張「「かんぽの宿」への政治対応はモラルハザードの塊」(ダイヤモンド・オンライン)を読んだとき、支離滅裂なところや矛盾が多いのでげんなりしてすぐ他のページに移ったままだったのだが、ちょうど、前の記事のコメントで似たような意見をもらったので思い出した。それで、今回、少し遅れたけど、この岸教授の主張の幾つかの点に関して、反論というかコメントを記しておきたい。

1 この岸教授の主張の2/3の後半に「政府の審議会全体に関わる問題」という小タイトルで、次のような文章がある。

「第二の問題は、オリックスの宮内会長が規制改革会議の議長だったことを以てオリックスの入札を否定するならば、政府のすべての審議会について同様の見地からメスを入れるべきではないか、ということです。

 そもそも規制改革会議は郵政民営化について検討していません。従って、その議長だった人間の会社が入札すべきでないというのは、ひどい言いがかりです。ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。そして、関係すると今の政権が判断するなら、同様の基準から政府のすべての審議会のメンバー構成などを洗い直し、問題を徹底的に排除すべきではないでしょうか。

 例えば、厚生労働省の審議会である中医協(中央社会保険医療協議会)は、診療報酬の改訂や薬価の算定方式などを決めていますが、そのメンバーには日本医師会や日本歯科医師会など直接の利害関係者がたくさん入っています。他にもこうしたひどい事例は山ほどあります。」

・上記の文章の中の「そもそも規制改革会議は郵政民営化について検討していません。従って、その議長だった人間の会社が入札すべきでないというのは、ひどい言いがかりです。ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。」という部分について。

・・・「ひどい言いがかり」とは「合理的理由のない文句・いちゃもん」というような意味だろうが、「規制改革会議の議長だった人は入札すべきでない」というのは、「出来レースになりやすいから(関係者が入札するのは避けるべきだ)」という合理的理由に基づいた一つの「価値判断・主張・見識」であり、「ひどい言いがかり」とは言えない。

・・・また、「ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。」とあるが、規制改革会議が郵政民営化に関係した(と見る)かどうかは、事実認定の問題であって価値判断の問題ではない。

・・・ここで、岸教授は、「ひどい言いがかりです」という結論の理由として、「そもそも規制改革会議は郵政民営化について検討していません。(従って、)」という「事実認定」を挙げている。しかし、岸教授は、その直後に、「ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います」として「規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかの事実認定」ははっきりしませんというようなことも書いている。

つまり、ここで、岸教授は、まず(1)「規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかの事実認定」についてNoという立場を前提として、「ひどい言いがかりです!」と言いながら、その直後に、(2)ただ、「規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかの事実認定」についてYesかNoかは、「価値判断の問題になると思います」という表現で、事実認定ははっきりしていないと書いている。しかし、これは、議論の順序が全く逆転している。まともな議論の仕方では、まず事実認定を議論し、次に価値判断・結論を述べるという順序でやる必要があるのに、その順序が逆になっている。

つまり、まともな議論の仕方としては、(1)「規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかの事実認定」の問題は、はっきりしていない、(2)ただ、もし「規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかの事実認定」についてNoという立場が正しいと仮定すれば、「ひどい言いがかりです」という順序になるべきだろう。それなら少しは分かるのだが。

・上記の文章の「・・・と見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。そして、関係すると今の政権が判断するなら、同様の基準から政府のすべての審議会のメンバー構成などを洗い直し、問題を徹底的に排除すべきではないでしょうか。 例えば、厚生労働省の審議会である中医協(中央社会保険医療協議会)は、診療報酬の改訂や薬価の算定方式などを決めていますが、そのメンバーには日本医師会や日本歯科医師会など直接の利害関係者がたくさん入っています。他にもこうしたひどい事例は山ほどあります。」という部分について

・・・「規制改革会議などを通じて事実上郵政民営化に関係した人物が、出来レースでかんぽの宿を安値で購入するなど私腹を肥やそうとした」のが「ひどい事例」になるのは当然だが、「中医協(中央社会保険医療協議会)は、診療報酬の改訂や薬価の算定方式などを決めていますが、そのメンバーには日本医師会や日本歯科医師会など直接の利害関係者がたくさん入っています」というのが、なぜ「こうしたひどい事例」になるのだろうか? 

中医協(中央社会保険医療協議会)のメンバーには日本医師会や日本歯科医師会などの利害関係者がたくさん入っているとしても、「私腹を肥やそうとした」のでないなら、全く問題はない。医師会の代表などの利害関係者が中医協で自分たちの利害つまり医師グループの利害を主張したとしても、それは社会保険制度全体の中での医師の立場=「制度利益」(社会的利益、広い意味での公共の利益の一つ)を主張しているだけであり、自分だけの「個別利益」(個人的利益)を狙おう(=自分の私腹を肥やそう)としている訳ではない。この岸教授の主張は「制度利益」と「個別利益」を混同した議論に過ぎない。

2 この岸教授の主張の3/3の後半に次のような文章がある。

「鳩山総務大臣は権限を持っているのですから、疑念が晴れるまで徹底的に調査すれば良いと思います。ただ、調査が終わるまではメディアで喧伝することは控えるべきではないでしょうか。総選挙を見据えた部分もあるのでしょうが、今のやり方は日本郵政いじめ、オリックスいじめにしか映りません。何でも陰謀史観で考えたがる評論家もどきの人を興奮させるだけです。両社のレピュテーション・リスクに配慮できないのは、政治のモラルハザードです。」

・・・個人や企業の風評被害と報道・公表との関係をどのように考えるかについては、刑法の名誉毀損罪が参考になると思う。名誉毀損罪では、政治家や公務員などについては(通常の個人と異なって)ある程度の資料に基づいて報道などすることは公益性があるので違法ではないとしている。一般の個人や中小企業については、風評被害は十分に考慮すべきだろう。これに対して、政治家、公務員、大企業などのような、権力を持ち公益的性格を有している個人や団体については、むしろ世論に訴えてその問題点を世論に認識してもらい、国会での調査や検察の捜査に繋げていく方が望ましい。なぜなら、特に相手が権力者の場合、世論の後押しがなければ、検察といえども簡単には捜査に着手できないからだ。また、権力や公益的性格を有する個人や団体に関する情報は、なるべく一般の国民に知らされる必要がある(国民の知る権利=民主主義・国民主権の基礎)。

オリックスは私企業とは言え、大企業だ。しかも、宮内さんは規制改革会議議長=政府委員という公務員に準じる地位と権力を持っていた人物であり、オリックスはその宮内さんをトップとする大企業だから、通常の大企業と比べても、公益的性格は極めて大きい。日本郵政も政府が100%出資だから公益的性格は極めて大きい。したがって、オリックスや日本郵政に関しては「両社のレピュテーション・リスクに配慮」する必要性よりも両者の不透明な関係などの情報を公表する必要性の方がずっと大きいと思う。

だから、「調査が終わるまではメディアで喧伝することは控えるべき」という態度は取るべきではない。そのような態度は、権力や公益的性格を有している個人や団体に気兼ねして国会での追及や検察の捜索を遅らせるのと同じ結果になり妥当でないし、そういう態度こそ「政治のモラルハザード」に繋がるのではないだうろか。

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