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2009年3月29日 (日)

「串なし焼き鳥」の発明(引き算の発明)

日経ビジネス2009年3月30日号28頁の「ワタミ 串なしの焼き鳥 固定観念を捨てる」の記事によると、居酒屋大手のワタミは、今年2月9日から、「和民」などで提供する「串に刺さっている焼き鳥」を、「串に刺さずに鉄板の皿の上に載せた焼き鳥」に変えたらしい。

その理由は、原価低減。「焼き鳥の原価を70円だとすると、35円が食材費で、残りの35円は串の材料費と串打ちの人件費、串を無くせば原価の半分を低減できる」からだそうだ。また、「そもそも、串を抜いて食べる人の方が多い」ことも理由の一つ。現場からは「焼き鳥のイメージを損なう」などの反発もあったようだが、実際に提供してみると、むしろ売れ行きは伸びているらしい。

日経ビジネスでは、これを「イノベーション」(革新)の一つとして紹介していた。確かに、なかなかこういう「発想の転換」はできない。これを思い付いた人は相当に発明家の才能があると思う。

でも、これで特許を取ることはできるだろうか?

答えはNoだ。今の特許法は、先人が蓄積してきた技術に何か「プラス・アルファ」を付加した「足し算の発明」が「進歩性のある発明」なのだという前提に立っている(但し、新規物質の発明などはこの前提から少し外れており、「(先人が蓄積してきた技術とは無関係の)ゼロからの発明」という場合もあり得る)。

「バラバラの鶏肉をバラバラのまま焼く」という従来技術に、「串に刺す」というプラス・アルファの要素を付加して「バラバラの鶏肉を串に刺して焼く」というように進化させた点に進歩性が認められて特許になり得るのだ。

つまり、「バラバラの鶏肉をバラバラのまま焼く」 → 「バラバラの鶏肉を串に刺して焼く」という進歩の流れが認められることによって、特許になり得る。

それが、今回の「串なし焼き鳥」は、「串に刺す」という要素を引き算することによって、「バラバラの鶏肉を串に刺して焼く」 → 「バラバラの鶏肉をバラバラのまま焼く」という「進歩とは逆の流れ」=「退歩の流れ」になっている。言わば、「昔に戻る」という「先祖返りの発明」だ。

こういう従来技術から「退歩」させた技術=「引き算の発明」については進歩性は認められていない(社会的には進歩だと思えても、技術的には進歩していないから)。

つまり、今の特許法では、「A+B」という従来技術に「+C」の要素(プラス・アルファ)を付加して「A+B+C」の発明としたとき、進歩性が認められ得る。

「A+B+C」に「-C」(Cを引き算)して「A+B」にしても、それは「退歩」に過ぎないから、進歩性は認められない。

他方、「A+B+C」に「+D」(プラス・アルファを付加)すると共に「-C」(Cを引き算)して「A+B+D」にしたときは、進歩性は認められ得る。例えば、「D」が「C」より安価であれば、「D」をプラスすることにより「C」がマイナス(引き算)できて、製品全体として低コスト化できるという効果が得られるからだ。

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