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2009年4月15日 (水)

郷原信郎・元検事の「小沢代表が今、行うべきこと」を読んで

2009/4/14付けの日経ビジネスオンラインの郷原信郎・元検事による「小沢代表が今、行うべきこと」の記事は、内容がよくできていると思う。以下に一部引用する。

検察捜査を巡る問題が先決事項である理由

(中略) そして、もう1つ重要なこと、小沢代表の秘書が逮捕され起訴された事実が、果たして、政治資金規正法違反になるのかどうか、違法なのかどうかについて、根本的な疑問があるということだ。

 3月11日の「代表秘書逮捕、検察強制捜査への疑問」 でも述べたように、政治資金規正法では、収支報告書に「寄附をした者」、つまり寄附の外形的行為を行った者を記載するよう求めているだけで、寄附の資金を 誰が出したのかについては記載する義務はないというのが、これまでの一般的な解釈だ。小沢氏の秘書が、寄附の資金が西松建設から出たものだと知っていたとしても違反にはならない違反になるとすれば、寄附名義の政治団体には全く実体がなく寄附行為者になり得ない場合、しかも、それを小沢氏側が認識していた場合だ。しかし、事務所を賃借し、常勤の役員もいると言われるこの団体が政治団体としての実体がないとは言い難い。それが実体がないと言うのであれば、全国に何千、何万とある政治献金を行うだけの目的の団体の設立届が虚偽で、それを寄附者と記載した収支報告書は虚偽記載ということになる。

 もう1つ、あえて検察の解釈論を忖度するとすれば、今回の寄附名義の政治団体は、実体があっても、人的にも資金的にも西松建設のダミーであって、 西松建設と一体のものだから、このような政治団体の実体を認識した以上、西松建設を寄附者と記載すべきだという、脱税事案などでよく用いられる「法人格否認の法理」のような考え方を取ろうとしている可能性もある。

 しかし、実質的な所得の帰属に応じて課税しようとする税の世界の問題、その中で、実質的に多額の所得を得ているのに、それを形式上ごまかして税を免れよ うとしている人間を処罰する脱税事犯の摘発の問題と、政党・政治家が共通のルールによって政治資金の透明化を図り、健全な民主主義を実現していこうとする 政治資金の世界とは全く異なる。従来の解釈を逸脱した法解釈による罰則適用は捜査機関による不当な政治介入を招く恐れがある、もし、そのような解釈論を取るのであれば、事前にそのことが明示される必要があろう

 このように考えると、小沢氏の資金管理団体の収支報告書について虚偽記載罪が成立するのか否かについて重大な疑問があり、そもそも、これを政治資金規正法違反だとする検察の主張自体が、公判審理に入る前の段階で崩壊する可能性すらある

(中略)検察には、今回の起訴の前提となる法解釈について説明すべきだ。

 (1)政治資金収支報告書には「資金の拠出者」の記載も義務づけられている、(2)「実体がない政治団体」は「寄附者」として記載してはならない、(3)特定の法人・団体のダミーのような存在の政治団体は「寄附者」として記載してはならないこのいずれかの法解釈を取らない限り、本件について虚偽記載罪が成立することはあり得ない。」(太字は当ブログによる)

この記事では、郷原さんは、現在の小沢さんの辞任の是非や検察捜査の不当性の有無の問題を議論するためには、その前に、今回の小沢秘書について本当に政治資金規正法違反の「虚偽記載」という形式犯が成立するのかどうか(有罪かどうか)の問題を先決問題として議論すべきであり、この問題と小沢氏の辞任や検察捜査の妥当性の問題とを別個に議論してよいという考え方は妥当でない、と主張しているのだが、僕もこれには全く同感だ。

つまり、現状では、多くの論者は、「(従来の有罪率99%の実績から考えて)検察が起訴した以上は小沢秘書は有罪になるのは間違いない」という前提で議論していると思える。例えば、今月号の「文芸春秋」を立ち読みしたのだが、「小沢一郎の罪と罰?」(正確な題名は覚えてない)で立花隆と朝日新聞の何とか委員の人が対談していたが、朝日の人が「検察は有罪であることについて自信満々のようですね」と言うだけで、この問題は簡単にスルーして、有罪になることを前提に、小沢氏は辞任すべきかなどについていろいろと議論していた。

また、最近の世論調査などでは、「小沢氏は辞任すべき」という人が7割くらい(毎日新聞)、「総選挙が近づいたこの時期の検察の行動は問題なかった(国策捜査ではない)」という人も半分くらい、居るらしい。

しかし、私見だが、これらの世論調査の結果の具体的な内容は、

小沢秘書が有罪になると確信しながら、秘書は有罪になるのだから(そして、政治資金規正法違反は5年の禁固で、決して軽い罪ではないのだから)、小沢さんも同じ責任があるとみて辞任すべきという人が7割、また、この時期の捜査・起訴と言っても有罪の人間を捜査・起訴しただけだから検察の行動は問題ない(国策捜査ではない)という人が半分くらい、ということだろうと思う。

他方、②小沢秘書が無罪になるだろうと考えながら、秘書が無罪になるとしても、小沢さんには政治的・道義的な責任があるから辞任すべき、また、無罪の人をこの時期に捜査・起訴したとしても検察の行動は問題ない(国策捜査ではない)という人たちは、ほとんど居ないのではないかと思う(そもそも、「無罪となる」と考えている人はほとんど居ないから)。

また、逆に、③小沢秘書は有罪になるだろうと考えながらも、なお、小沢氏は辞任しなくてよい(政治資金規正法違反と多額の献金受領は大目に見る)という人が3割、また、検察の捜査は政権交代を邪魔する国策捜査的なものでおかしいと考える人たちが半分くらい、居るということも言えると思う。僕には、「有罪になる」と思いながらも③のような回答をしている人たちが「かなり居る」ということは、驚くべきことだと思える。

他方、④小沢秘書は無罪になるだろうと考えながら、だから、当然に小沢氏は辞任しなくてよい、また、当然に検察の捜査は国策捜査的でおかしいと考える人たちは、ほとんど居ないと思う(そもそも、「無罪となる」と考えている人はほとんど居ないから)。

上記の①~④の中で、ボリュームが多いのは、共に「有罪になる」と考えている①と③で、特に①が多いと思う(そもそも、「無罪となる」と考えている②と④は、ほとんど居ない)。

特に、①の人たちは、「小沢秘書が有罪になると確信しながら、小沢氏の辞任や検察の捜査について答えた人たち」だ。それが、「小沢秘書は無罪になる」ということになれば、①の人たちの相当部分は逆の答えになる可能性が高いと思う。

だからこそ、小沢秘書が政治資金規正法違反かどうかは、最初に検討すべき極めて大切な論点になるのだ。ただ、この形式犯の法解釈は難しいので、マスコミも詳しく解説できていない。この点で、郷原さんの今回の記事は大いに参考になると思う。

つまり、僕が今まで新聞などで見た情報では、従来の検察が「虚偽記載」で逮捕・起訴した事案は全て、埼玉県知事の親族や鈴木宗夫議員などの事案を含めて全て、金額の虚偽記載(少なくとも一部の記載漏れ)があった場合(少なくとも一部が「裏献金」の事例)だった。つまり、少なくとも一部の金額の「記載漏れ」があればそれは必ず「(金額の)虚偽記載」となる。だから、「虚偽記載」の事実が存在することは明らかであり、後はその認識(故意)があったかどうかだけが有罪(形式犯だが)かどうかの決め手になる。

これに対して、今回の小沢秘書の事案は、金額の点での虚偽記載は全くない(全て「表献金」)。今回、検察は、(政治団体には有る程度の実体はあったため)、「寄附者(献金をした者)」としては「背後で資金を提供した企業」の名前を書くべきなのに「実際に銀行から振込みをした団体(有る程度の実体はある団体)」の名前を書いたのが虚偽記載だという法解釈(すなわち、「有る程度の実体があっても企業(西松建設)のダミーのような存在である政治団体」は「寄附者」として記載してはならないという法解釈)を考え出して、それをいきなり主張して、逮捕・起訴したものと思われる。しかし、このような法解釈は、従来の検察や法務省などによる一般的解釈とは全く異なる特異なものであり、今回の事件では、従来の一般的解釈からは「虚偽記載」の事実はないので、その認識(故意)を問題にする前に、無罪なのではないか、というのが郷原さんの考え方だと思う。僕も同意見(参考1参考2)。

つまり、今回の小沢秘書の検察による起訴内容は、次のようになっている。「大久保被告は、03~06年、西松建設から計3500万円の企業献金を受領しながら、陸山会と第4区総支部の政治資金収支報告書に、新政治研と未来研からの献金との虚偽の記載をした」(毎日jpの3月25日付けの記事から引用)

この起訴内容の中では、「背後で資金を提供した西松建設から、献金を受領した」のか「実際に銀行から振込みをした政治団体から、献金を受領した」のか、法的に見てどちらと評価すべきかにより、「虚偽記載」かどうかが決まるのだが、この点についての事実関係はそれほどの争いはないだろう(政治団体が有る程度の実体を有していたという事実認定ではほぼ争いはないだろう)から、法解釈論が最大の争点となるだろう。このように、検察の新しい、従来の一般的解釈から逸脱した法解釈論が妥当かどうかという「虚偽記載」の法解釈が決め手になるということは、それだけでも、今回の検察の逮捕・起訴は、極めて特殊・特異なものだと思う。

なお、私見としては、前述のような検察の解釈は、従来は検察や法務省により適法だと解釈されていた行為を、検察内部の解釈の変更(公表もされていない)だけで、いきなり、不意打ち的に違法として逮捕・起訴するものであるから、「刑事法規に該当しなければ刑罰を課されることはないとし、この観点から類推解釈などをも否定する罪刑法定主義」からみても、極めて問題だと思う。

また、私見としては、前述のような検察の解釈は、「虚偽記載」の罪になりたくなければ「献金をしてくれる団体について、その内部の実態が何処かの企業のダミーなのかどうか、もしダミーとすればその背後に居る企業は何処かをいちいち詮索して確認せよ」と政治家側に要求するものであり、憲法が保障する「結社の自由」「団体自治」「団体の政治活動の自由」「団体の構成員のプライバシー(個人情報)の保護」などの侵害に繋がる結果を惹起させる可能性のある法解釈であり、妥当でない、と思う。

いずれにせよ、この虚偽記載の罪の法解釈の問題は、極めて大切な問題だが、別に、検察と裁判所だけに任せるべきものではないし、公判が始まらないと検討してはいけない問題ではない。学問的見地からも検討してよい問題だ。民主党は、早急に、郷原さんを含めた複数の弁護士や刑法学者のチームを結成して、このチームに法解釈について検討してもらって一般に公表したらどうだろうか? (2009/4/16追記:この件は、郷原さんなどの第三者委員会のホームページに意見投稿ボタンがあったので、そこから意見として投稿しておいた。)

次に、郷原さんの上記の記事では、「小沢氏は早く公判を開始して早期の無罪判決を目指すべき(総選挙前の今年7月頃の判決を目指すべき)」と主張している。以下に一部引用。

「小沢代表は、今回の事件が政治資金規正法違反に該当しないと一貫して主張してきた。 しかも、筆者が指摘するように検察の起訴事実について重大な疑念が生じている。そうである以上、最も重要なことは、公判の場で早急に結論を出すことだ。選挙違反事件について公職選挙法で「100日裁判」が要求されているのと同様に、今回の事件についても、早急に公判前整理手続で争点を整理し、集中審理によって、早期に判決が出せるようにするべきだ。私は、起訴直後から、「選挙との関係を考慮し遅くとも7月ぐらいまでには判決が出せるようにすべきだ」と述べてきた(3月25日付朝日新聞など)。

 弁護側が、早急に手続きを進めることを強く求めれば、裁判所も、検察もそれに応じざるを得ないはずだが、報道されている限りでは、小沢代表秘書の起訴から20日余り経過した現在まで、保釈に関する動きも公判手続きに関する動きも全くない。違反に該当するかどうかも微妙な形式犯で40日以上も秘書の身柄拘束が続いているのは、決して容認できることではないはずだ。」(太字は当ブログによる)

この公判の開始時期の点は、小沢氏側の戦術により変動するのだろう。公判になって、またいろいろマスコミに出るとイメージが悪くなることなども考えているのかもしれない。しかし、5月からは、裁判員制度が始まる関係で、マスコミの報道姿勢はかなり変わる可能性はある。僕も、郷原さんの意見に同感だ。

小沢氏の側は、有罪の判決が出る可能性もゼロではないので、判決は総選挙の後にしたいという考えもあるのだろうか。しかし、どんなに引き伸ばしても、総選挙前に、公判が開始されて冒頭陳述はあるだろうから、そのときにまたいろんなことがマスコミから書かれてしまってイメージが低下することは避けられない。とすれば、早めにやって、早めに無罪判決を得るようにした方がよいのではないだろうか。

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コメント

寝たろうさん
こんにちは(いま16日11:10頃です)

僕が一番心配なのは、大久保さんのことです。
こんな容疑で、もう40日以上拘束されているんですから。
精神的にも、肉体的にもかなり追い込まれていることは確かでしょう。
もうどうなってもいいと、検察のいうことを追認してしまうってこともなくはないでしょう。

これは、人権蹂躙にも繋がる暴挙だといわなければならない。
(それが文春にあった検察は自信満々の正体ではないかと感じてしまうのは、考えすぎでしょうか)。
それにしても、恐ろしいことです。
はやく、決着をつけなければなりませんね。

投稿: xtc4241 | 2009年4月16日 (木) 11時15分

xtcさん、こんにちは。

小沢秘書がまだ保釈されていないことは僕もよく分からないのですが、どこかで、まだ弁護団が保釈請求していないのではないかというのを読んだ記憶があります(確か、「モトケンブログ」だったかどうか)。

つまり、弁護団と小沢さんとによる戦術の結果として、大久保秘書も承諾の上で、今も拘置が続いているのかもしれません。

小沢さんが依頼した弁護団は優秀そうなので、かなり高度なことを考えている可能性もあり、まぁ僕には分かりません。

投稿: 寝たろう | 2009年4月16日 (木) 16時48分

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