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2009年4月 9日 (木)

「ダブル・トラック」解消のための方策(特許無効審判の制限など)

前回の記事で、NHKの番組の中で、特許の有効性に関する「ダブルトラック」の問題が指摘されていた、ということを書いたので、ついでに記しておきたい。

このダブルトラックについては、政府の知財戦略本部で特許法の改正が議論されており、2011年予定の特許法の抜本改正に含める方向らしい。2009/4/5付け日経ネットの記事を次に一部引用。

「特許権紛争、裁判所処理に一本化 特許庁との対立解消へ

政府は特許を巡る紛争の処理迅速化に向けた法改正の検討に入る。特許権の有効性に関し、裁判所と特許庁の判断が対立しかねない現行制度を改め、無駄な紛争の回避につなげる。知的財産戦略本部が6日に決定する2009年度から5年間の「第3期知的財産戦略の基本方針」で二重構造の問題点を明記。特許庁の無効審判制度の制限と、裁判所の判断への一本化を11年に予定する特許法抜本改正に盛り込みたい考えだ。」

 現在の制度では、特許侵害訴訟で原告勝訴の判決が確定して被告から原告に損害賠償金などが支払われても、その後に、敗訴した被告は、原告の特許について特許庁に何回でも無効審判請求を繰り返すことが可能であり(無効審判は理由が異なる限り同一特許について何度でも請求できる)、その結果、特許庁で特許を無効とする審決が確定すれれば、被告は、今度は裁判所に対して「特許庁が特許を無効にしたこと」を理由として再審請求をして、自分が敗訴した確定判決を取り消してもらって、さらに、その確定判決の取消に基づいて自分が既に支払った損害賠償金とその金利(年5%!)を、不当利得などとして原告に返還請求することも可能となっている(原告としては踏んだり蹴ったりになってしまう)が、それを防ぐための方策が入れられるのは、ほぼ間違いないだろう。

方策としては、①判決確定後に原告の特許が無効になっても再審事由にならないとする、などが考えられる。

さらに進めて、②無効審判請求を制限して(特許成立後何年以内というように請求できる期間を定める、回数を定める、などして)、少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を確定させる(少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を争えないようにする)、これにより特許の安定性を高める、ということも考えられる。

僕の意見としては、そもそも、当事者対立構造の手続、つまり当事者系の審判(現状では、特許では無効審判のみ)は廃止して、その機能は全部、裁判所に移せばよいのでは、と思う。

なぜなら、当事者対立構造の手続(特許庁審判官が裁判官役になる)は、特許庁審判官は慣れていない(特許庁審判官の多くは、もともとは理科系の学位を持つ審査官から出世した人たちであり、例えば弁論主義や自由心証主義などの教育を十分に受けているようには見えない)と思われるから。こういう手続や考え方は裁判官の方が慣れているし適性があるはずなので、裁判所の方がよい。

他方、査定系の審判(拒絶査定不服審判と訂正審判)は、今までどおり、特許庁でやればよいのではないだろうか。また、査定系としての特許付与後の第三者異議申立ても、昔のように復活させてもよいと思う(知財戦略本部でも議論されている)。この第三者異議申立ては、査定系の手続、つまり、第三者がトリガーを引くことができるが、その後の手続はあくまで特許庁と特許権者との間だけで行う、というものだ。つまり、この第三者異議申立ては、特許後は第三者は誰でも申立てはできるが、いったん手続が始まったら、その手続は、当事者が対立する構造(特許庁審判官は裁判官の役割)ではなく、審査と同じ特許権者と特許庁との間の手続という構造(査定系。第三者はタッチできない)、というものだ。こういう査定系の手続ならば、特許庁は慣れているのでよいと思う。

ダプルトラックによる不都合は、主には3つあると思う。第1は、いつまでも特許の有効性が宙ぶらりんのため、侵害者との関係で特許権者が不当に不利になっている(特許権者が最終的に勝ち抜くことが極めて難しい)ということ。第2は、いったん裁判所に特許侵害訴訟を提起した後は、原告としては、その訴訟への対処だけでなく、被告が提起した特許庁での特許無効審判請求への対処も必要になってしまう、つまり、提訴したら直ぐに、裁判所だけでなく特許庁へも戦線が拡大してしまうので、特に中小企業や個人にとっては、弁護士費用や手間などで過大な負担になってしまう、ということだ。以上の2つは特許権者にとっての不都合だが、第3に、裁判所などを含めての不都合として、紛争が長引いてしまうということもある。

追記: なお、上記のように、(a)原告勝訴判決が確定した後に特許庁による特許無効審決が確定したことは再審事由にならないというように法改正をするのなら、(b)原告勝訴判決が確定した後に特許訂正審判が確定した結果として特許請求の範囲が前の確定判決における被告製品をカバーしないものとなってしまった場合でも、そのことは再審事由とはならない、ということも法改正に含める必要がある。なぜなら、特許無効と特許訂正とで、同じように扱わないと、バランスがとれないからだ。

なお、上記と逆のケース、つまり、(c)原告の特許が訴訟において無効と判断されて原告敗訴判決が確定した後に原告による特許訂正審判請求が認められて訂正審判が確定した結果として特許が有効と判断されるようになった(しかも、訂正後の特許請求の範囲も以前として被告製品をカバーしている)場合でも、そのことは、特許法104条の3第2項の趣旨から原則として再審事由とはならない(正確には、再審事由が存在するとしてその判断を争うことは許されない)、というのが最高裁判例だ(最判平成20年4月24日平18(受)1772「ナイフの加工装置事件」)。

また、2009/3/2付けの「社内弁理士のチャレンジクレーム」にこの問題に関する記事があったのを発見したので、その一部を次に引用しておく。

「「特許侵害訴訟後に無効審決が確定した場合、再審事由となるか」という問題は、日本で「海苔異物除去装置事件」などに関連し活発に議論されている。この状況は米国でも同じなのだろうか。なぜなら米国でも訴訟と再審査の両方で特許の有効性を争うというダブルトラックが存在しているためである。

この問題について聴講者の方から質問がなされ、セミナー講師の工藤敏隆弁護士は「米国では訴訟において特許の有効性を争うのが基本であるため、特許訴訟後に無効審決が確定した場合であっても再審事由にはならない」と回答された。ただし、この点が実際に争われた事件は未だないという。

このように米国では訴訟の優位が明確であるため、ダブルトラック問題が生じないのだろうか。この点に関連し聴講者の方が「日本では特許権者による訂正審判・訂正請求の多用がダブルトラック問題の要因となっている。米国では訂正のための再発行などはあまり用いられていない。これが米国でダブルトラック問題が生じない理由ではないか。」という旨の発言をされた。」

このブログでは、訂正審判が、ダブルトラックが問題となる大きな要因だと主張している。確かに、裁判所などを含めての紛争の長期化という面では、それはあるだろう。

しかし、ダブルトラックの問題の本質(最大の不都合)は、特許権者と侵害者との間で特許権者が不当に立場が弱くなっているということだ。つまり、特許権者・原告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での訂正審判があり、被告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での無効審判があるが、特に、訴訟の中で被告側による特許の無効主張が可能になった結果(また、一般に、訂正審判よりも無効審判の方が強力である結果)、原告と被告との間で、武器としてのバランスが取れていない、ということが本質的な問題だと思う。

そして、訂正審判は原告側がイニシアチブを取ってやれることなので、原告は、弁護士費用なども考えて、戦線を訴訟以外には拡大したくないと思えば、特許庁への訂正審判をしなければよいし、それは自由に選択できる(被告による訴訟中での無効主張に対抗するために、つまり「再抗弁」を主張するために、特許庁への訂正審判請求をすることも当然にあってよい)。被告としては、特許庁への無効審判請求ができなくなっても、裁判の中で特許無効の主張はいくらでもできるのだから、特に不利になることは全く無い、と思う。

以上より、「被告側の無効審判請求は制限する、原告側の訂正審判はそのまま制限しない」としても、両者の武器のバランスを考えると、ちょうどよいのでは、と思う。

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