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2009年9月11日 (金)

拒絶査定不服審判請求の特許印紙代は出願人に返還すべきでは?

特許出願に対して審査官が拒絶査定を出したとき、まだ粘ろうとすれば、不服審判請求をやるしかない。

しかし、特許庁に対して拒絶査定不服審判請求をやるとき、その特許印紙代は、例えば請求項の数が50個なら、「49,500円+請求項の数×5,500円」の計算式から、324,500円となってしまう。

通常の出願は請求項の数が5-10個くらいが多く、その場合は、不服審判請求の印紙代は10万円かそれ以下で済む。しかし、請求項の数が50個くらいの出願も結構あり、その場合は、30数万円の特許印紙代を納付しなくてはならない。

しかし、そもそも、特許庁審査官の拒絶査定という行政処分に対する不服審判請求について、何故、出願人側が特許印紙代を支払う必要があるのだろうか?

不服審判請求をする場合というのは、(a)審査官の処分が実際にも不当であった場合と、(b)審査官の処分は実際には妥当なのに出願人側が不当だと誤解していた場合と、の2つがありえる。

実際にどっちだったかは、後に、審判請求の結果である審決により、又は、この審決に対する取消訴訟の判決(知財高裁による)により、はっきりと、判明する。

少なくとも、(a)のケースだった、すなわち、審査官の拒絶査定が実際に不当であった(審査官が妥当な処分をしていれば出願人は不服審判請求をしなくて済んだはず)という場合は、特許庁は、審判請求の特許印紙代を出願人に返還すきべだろう。

すなわち、行政処分に対する不服審判請求の制度は、税務署や公正取引委員会にもあるが、いずれも、官庁に支払う印紙代などは、全く必要はない。例えば、独占禁止法52条は、公正取引委員会の処分(排除措置命令と課徴金納付命令)に対する審判請求を定めているが、所定の審判請求書を出すだけで、印紙代などは必要ない。

では、なぜ、特許庁の処分に対する不服審判請求だけ、費用が必要だとしているのか。それは、おそらく、特許庁の仕事は、最初に出願人が出願という積極的なアクションを行って(このときも印紙代が必要)、それに対する応答として審査官が審査の処分を下すという構造をとっているため、拒絶査定不服審判請求の段階でも、漫然と印紙代が必要だと定めているのだろう。

これに対して、税務署や公正取引委員会の処分は、国民の側から最初に役所に積極的に処分を要請するのではなく、役所の方が勝手に国民に対して行政処分をするのであるから、それに対して国民の側(国民から見ると不当な行政処分の被害者の側)から不服審判請求をするためには印紙代が必要だとすると、国民は怒り狂うだろう。

そういう違いがあるのだろう。

だから、特許庁の拒絶査定不服審判請求の費用は、裁判と似た構造だと思う。裁判でも、最初にアクションを起こす原告が、まず最初に印紙代を裁判所に支払う。しかし、裁判では、原告と被告とのいずれか負けた方(つまり不当であるとされた方)が、最終的に印紙代などの訴訟費用を負担することになっている(判決でそれも定める)。つまり、印紙代は、最初に原告が支払うが、それは「仮の支払い」であって、裁判で負けた側(悪いことをしたか間違った判断をしていた方)が、印紙代を最終的に負担することになっている。

この裁判における印紙代の支払い義務の分配は妥当・公平と思うが、そうだとすれば、特許庁での不服審判請求でも、審査官の処分と出願人側の判断とのどちらが正しいかを争うのだから、負けた方がその費用を負担するのが妥当・公平のはずだ。よって、不服審判請求で出願人が勝ったときは、負けた側つまり不当な処分をした審査官の側(特許庁)が印紙代を最終的に負担すべきだから、特許庁は、最初に出願人が仮に支払った印紙代(審判請求の費用)を、出願人に返還すべきだと思う。そのように特許法を改正すべきだろう。

以上は、最近、個人的に50個くらいの請求項の出願をしてて、それ対して拒絶査定が来てしまったので、高額の印紙代にびっくりして、じっくり考えたことだ。この件については今もうまい手はないか思案中だ(審判請求時に補正して請求項の数を少なくすれば印紙代も安くできるが、もともと権利を十分に確保するために請求項の数を50個にしたのだから)。

ただ、この個別の件は離れて、不服審判請求の費用負担の一般的な問題として上記のことについては特許法の法改正を検討すべきと思ったので、民主党の議員かどこかに、法改正の話をもって行ってみようと考えている(民主党本部へのメール送信はやっておいた)。議員の知り合いは全く居ないし、こういうことはやったことがないんだけどw

追記: コメントを頂いて考えたことを追記しておきます(2009/9/30)。

A  要するに、審査官の拒絶査定が不当であり、もし正当な審査を行っていれば拒絶査定不服審判を行う必要は無かった(印紙代を支払う必要は無かった)といえる場合は、印紙代の返還はあるべきと思う。
その場合とは、①「審判請求時の補正」が無かった場合、②「審判請求時の補正」はあったが、拒絶査定の理由とは関係ない部分の補正だったなど、その補正があってもなくてもいずれでも特許審決が出ただろうと言える場合、などがあると思う。

B  もし、このような、出願人に印紙代を返還するという制度にするときは、審判請求の印紙代については審判請求時には特許庁は「預かり金(供託金)」として出願人から受け入れておいて、審決で審査官の審査は正当だったと確定した段階で国庫に帰属させるという方法が考えられる(コメントで知ったが、印紙代は、いったん国庫に帰属させると返還の手続が大変なようなので)。

C  それから、もし、このような「印紙代の返還」が制度化されれば、印紙代の返還をも視野に入れる出願人側としては、拒絶査定を受けた後に不服審判請求をするとき、補正をしても余り意味がないと思えるときは、「審判請求時の補正」を全くしないで不服審判請求だけをするというケースが増えるだろう。それは、不服審判の事件を、前置審査(拒絶査定をした審査官が関与するもの)を介すことなく直接に審判官のところに持っていくことになるので、不服審判のためのトータルの期間を短縮させ手間(特許庁と出願人側の手間)を軽減させることに繋がるという制度上のメリットを生むと思う。

D  他方、こういう「印紙代の返還」の制度を作ると、審査官が(印紙代の返還に繋がる拒絶査定を避けて)萎縮して安易に特許査定を乱発するようになるのではないかというデメリットが考えられる。これに対しては、審査官が自信を持って拒絶査定ができない(しかし特許査定もおかしいと感じている)ような難しいケースについては、例えば、(a)審判と同様に3人の審査官のチーム(合議体)で審査するようにする、(b)審査官の裁量で上級の審判官に事件を移したり、審査官が担当したまま審査官が上級の審判官の意見を聴取できるようにする(侵害訴訟の中で裁判所が特許庁の意見を求める「求意見制度」と同じようなもの。できたら、出願人と審判官と直接のやり取りも認める)、などの対策が可能と思う。

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特許法(の改正)」カテゴリの記事

コメント

そういう論理構成で行くと、審判段階での補正が認められなくなるのでは?

審判段階で補正をすれば、審査官の判断が不当な場合でなくても、出願人側が勝つことができる訳ですから。

そもそも、拒絶査定不服審判の意義が審査官の判断の当・不当を判定するものとすると、補正して判断対象を変更してしまうことは、おかしい訳です。

投稿: T | 2009年9月29日 (火) 20時32分

Tさん
コメントありがとうございます。大切な点ですね。

まず、補正しないで特許審決が出た場合は「審査官の審査が100%不当だった(よって、本来、正しい審査を行っていたら、審判請求する必要は無かった)」ということになると思いますので、問題ないですね。

次に、補正して特許審決が出た場合、審判請求時の補正の範囲は相当限定されてますので「審判対象が変更された」とまで言える場合はあまり多くないとは思いますが、補正して特許審決が出た場合は、「審査官の審査が100%不当だった」とはいえませんね。

この場合は、審決の主文の中で、70%の印紙代を返還せよ、30%の印紙代を返還せよ、などとしたらよいと思います。

裁判でも、100%の勝ち負けではなく、請求の一部だけが認められる(例えば1億円の損害賠償請求に対して2千万円の限度で認める)という、両者が痛み分けという場合が多いので、訴訟費用の負担は○○が○○%だけ負担、というようにしていると思います。
裁判の中でも、相殺の主張など、審理対象を変えてしまうこと、つまり特許庁での補正に類似したことは、あると思いますので、結局は裁判と同じに考えてよいのではと思いますが・・・。

投稿: 寝たろう | 2009年9月29日 (火) 20時51分

いや、無理があると思います。

特許法に規定された拒絶理由が一つでも残っていれば、拒絶査定になるのは法律通りの正しい運用なのですから、それは法的には100%出願人と代理人の責任な訳です。そこを一部にしても、審査官の責任に帰するのは論理に無理があります。

それを補正によって拒絶理由が解消した場合も、返還が有り得るとするには、根拠が欠けていると思います。

審査官の責任に帰すことができるのは、その処分が特許法に反している時に限られます。例えば、適用条文に誤りがあるとか、進歩性の判断そのものに問題があったとか。

そもそも、色々と新しい法律が必要と思われ、実現可能性が低いとは思いますが、もしも実現するなら、審判段階の補正は無くなるか、そうでなければ、補正があれば返還は無いという制度になると思います。

投稿: T | 2009年9月30日 (水) 06時28分

Tさん
コメントありがとうございます。

>特許法に規定された拒絶理由が一つでも残っていれば、拒絶査定になるのは法律通りの正しい運用なのですから、それは法的には100%出願人と代理人の責任な訳です。そこを一部にしても、審査官の責任に帰するのは論理に無理があります。

確かに、そうですね。100%かどうかでないとマズイでしょうね(まだ、少し迷ってますが)。

>審査官の責任に帰すことができるのは、その処分が特許法に反している時に限られます。例えば、適用条文に誤りがあるとか、進歩性の判断そのものに問題があったとか。

このような、審査官の拒絶査定が不当であり、もし正当な審査を行っていれば拒絶査定不服審判を行う必要は無かった(印紙代を支払う必要は無かった)といえる場合は、印紙代の返還はあるべきと思います。
その場合とは、①「審判請求時の補正」が無かった場合、②「審判請求時の補正」はあったが、拒絶査定の理由とは関係ない部分の補正だったなど、その補正があってもなくてもいずれでも特許審決が出ただろうと言える場合、などがあると思います。

>そもそも、色々と新しい法律が必要と思われ、実現可能性が低いとは思いますが

特許法の改正でいいと思いますが、欧米でもこういう制度はないんでしょうかね?

また、何かありましたら、コメントお願いします。本文も少し追加しておきました。

投稿: 寝たろう | 2009年9月30日 (水) 10時05分

①、②の切り分けなら、正当性はあるように思われます。

私も詳しくありませんが、一度国庫に収められた費用の返還ということになるので、そこら辺で新たな立法が必要になると思います。この部分が、私人間での裁判費用の分配とは違う面倒な話になるのではないかと。

ちなみに、その制度が出来た時に懸念される問題点が二つあります。

1.拒絶査定の取り消し審決が今よりも出難くなる方向性のインセンティブが審判官に加わること
2.審判請求の費用が実費相当額まで値上げされる可能性があること

2については、トータルでは減収となるだろうからです。
1については、費用返還という特許庁のデメリットが生じるようになると、進歩性等の判断が是か非か微妙な時には非の方に軍配を上げる審判官が増えてもおかしくないからです。

この問題については、ユーザーサイドでも、個人出願人、中小企業、大企業、弁理士等々の立場で意見が分かれるような気もします。


以上、長々とお付き合いいただいて申し訳ありませんでした。それでは、寝たろうさんのアクションが良い結果に結びつくことを祈念しています。

投稿: T | 2009年9月30日 (水) 19時45分

Tさん
こんにちは

>私も詳しくありませんが、一度国庫に収められた費用の返還ということになるので、そこら辺で新たな立法が必要になると思います。この部分が、私人間での裁判費用の分配とは違う面倒な話になるのではないかと。

そうですね。今ひとつ考えたこととして、審判請求の印紙代については審判請求時には特許庁は「預かり金(供託金)」として出願人から受け入れておいて、審決で審査官の審査は正当だったと確定した段階で国庫に帰属させるという手もあるかなと思いました。

>ちなみに、その制度が出来た時に懸念される問題点が二つあります。
1.拒絶査定の取り消し審決が今よりも出難くなる方向性のインセンティブが審判官に加わること
2.審判請求の費用が実費相当額まで値上げされる可能性があること

1.については、審決を正しいものにするためのインセンティブの手段として知財高裁の審決取消訴訟が用意されていますので、審判官が「印紙代の返還をしないように」という方向に歪んだ審決をするようになるという恐れは余りないのではと思います。まぁそのためには、もう少し手軽に審決取消訴訟ができるようにすべきですが。

2.については、そもそも多くの審査の内容が正当ならば「印紙代の返還」という事態は無くなる訳なので、「審査官への職業倫理を含めた教育で対応する」というのが筋(ユーザー側からみたときの)ではないかと思いますが・・・。

それから、もし「印紙代の返還」が制度化されれば(まぁ可能性は低いでしょうが)、印紙代の返還をも視野に入れる出願人側としては、補正が余り効果がないと思えるときは、「審判請求時の補正」をしないで審判請求するというケースが増えるでしょうね。それは、審判の前置審査をスルーさせて、審判のためのトータルの期間や手間を短縮・軽減させるという制度上のメリットがあると思います。

いろいろ、私のつたない意見にご教授頂いてありがとうございます。何かありましたら、是非、またコメント下さい^^

投稿: 寝たろう | 2009年9月30日 (水) 22時33分

拒絶査定不服審判請求の特許印紙代は出願人に返還すべきでは?

拒絶査定が不当であると判定されたものについては、返還すべきだと思います。

投稿: 審判不服人 | 2009年10月26日 (月) 14時15分

審判不服人さん
コメントありがとうございます。
同じ意見の人がいると心強いです。

投稿: 寝たろう | 2009年10月26日 (月) 22時25分

登録査定を勝ち取ったとしてもバッティングした特許とトラブルになるケースもまだ残されていることになりますよね。個人で特許を活用したビジネスをする準備をするのにお金がかかりすぎます。最近の助成制度に拒絶査定時の費用も個人や中小企業は補助してくれるとよいと思います。
日本は実用性のない特許が多すぎる評価があることから拒絶を意図的に増やしているかなと勘繰ってしまいます。出願時に調査した先行特許と公知技術について登録するアメリカの制度は出願側の出願価値判断に一役買っていると思いますので日本でも採用すれば拒絶が少なくなるのかなと考えます。ともかく印紙代論議が発端になるので応援します。

投稿: のっぽのサリー | 2009年11月11日 (水) 10時16分

すみません。資本金3億以下、設立5年未満、他の会社に支配されていなこと、法人税が課されていないことの要件を満たす法人は審査請求費用が半分になるそうです。個人の記載は審査請求についてはありませんでした。

投稿: のっぽのサリー | 2009年11月11日 (水) 10時23分

のっぽのサリーさん
コメントありがとうございました。
米国では個人や中小企業は印紙代が半分になるようです。日本にも似た制度はありますが、要件が厳格で、適用し難いですね。
もう少し、印紙代のことも話題にすべきと思います。

投稿: 寝たろう | 2009年11月11日 (水) 10時30分

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