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2009年11月 6日 (金)

特許法の改正(不服審判請求の印紙代の返還)の件で民主党にメールしておきました

特許法の改正(審判請求の印紙代の返還)の件で、民主党にメールしておきました。
少し前にこのブログで2~3回記事にしてたのをまとめた内容です。
民主党議員の事務所に電話して聞いてみたら、民主党本部にメールすればよいとのことだったので。以下、その内容を転載しておきます。少し長い^^;

民主党の特許庁(経済産業省)関連のご担当者様へ
(中略)
提案タイトル:特許法の改正に関する提案(特許法で定める拒絶査定に対する不服審判請求の特許印紙代は、審査官による拒絶査定が不当だったことが審決や判決で判明した場合は、出願人に返還すべきでは?)

はじめに
特許庁は、ちょうど今、2011年に特許法の大改正をすべく準備をしている最中です。そのための特許庁長官の指摘懇談会「特許制度研究会」を、1~2ヶ月に一回のペースで、行っています。
(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/kenkyukai/tokkyoseidokenkyu.htm)
この「特許制度研究会」は、知財高裁判事などを含むメンバーから成り、毎回、的確な議論が行われています。
つきましては、この私の提案に関しても、この特許制度研究会の俎上に乗せて頂き、法改正が妥当かどうかの議論に含めて頂くことを希望いたします。以下、本文です。

1. 特許出願に対して審査官が審査の結果として拒絶査定を出したときは、出願人としては、まだ特許を目指そうとすれば、不服審判請求をやるしかありません。しかし、特許庁に対して拒絶査定不服審判請求をやるとき、その特許印紙代は、例えば請求項の数が50個なら、「49,500円+請求項の数×5,500円」の計算式から、324,500円となってしまいます。
通常の出願は請求項の数が5~10個くらいが多く、その場合は、不服審判請求の印紙代は10万円かそれ以下で済みます。しかし、請求項の数が50個くらいの出願も結構あり、その場合は、30数万円の特許印紙代を納付しなくてはなりません。
しかし、そもそも、特許庁審査官の拒絶査定という行政処分に対する不服審判請求について、何故、「常に」出願人側が特許印紙代を支払う必要があるのだろうか?という疑問があります。

不服審判請求をする場合というのは、
(a)審査官の処分が実際に不当であった場合と、
(b)審査官の処分は実際には妥当なのに出願人側が不当だと誤解していた場合と、
の2つがありえます(実際上は、私の感覚では、(a)が30%、(b)が70%くらいと思います)。

実際に(a)か(b)かどっちだったかは、後に、審判請求の結果である審決、又は、この審決に対する取消訴訟の判決(知財高裁による)などにより、はっきりと、判明します。
少なくとも、(a)のケースだった、すなわち、審査官の拒絶査定が実際に不当であった(審査官が妥当な処分をしていれば出願人は不服審判請求をしなくて済んだはずで、その印紙代も支払わなくて済んだはず)という場合は、特許庁は、審判請求の特許印紙代を出願人に返還すきべだと考えます。

そして、上記の(a)の場合とは、次の①と②の2つが満たされた場合と思います。
①「審判請求時の補正」が為されなかった場合(これと同視し得る場合をも含む。例えば、「審判請求時の補正」は行われたが、その補正の内容が「誤記の訂正だけ」で拒絶査定の理由とは関係の無い補正だったという場合など)。
・・・もし「審判請求時の補正」がなされたら、出願人としては、拒絶査定を一応は受け入れた(是認した)からこそ「審判請求時の補正」をしたのだろうと考えられても仕方ないから、「印紙代の返還」を主張することを放棄したと考えてもよいと思います。

②上記①の場合において、特許を認める審決が為されたこと、又は、審判の中で審判官が(拒絶査定のままでは拒絶を維持できないと判断して)「新たな拒絶理由通知」を出願人側に発したこと。
・・・前者の特許審決が出た場合は、審判官が拒絶査定の誤りを正面から認めた場合だといえます。また、後者の「新たな拒絶理由通知」を発した場合は、審判官は、「拒絶査定は、仮にその拒絶という方向性が正しいとしても、拒絶査定の理由やそれまでの手続が、拒絶を維持するものとして「不十分だった(その限りでは妥当でなかった)」と判断した場合だ、と言えます。

そして、上記①及び②の条件を満たす場合は、「審査官による拒絶査定が妥当でなかった(もし拒絶査定が正当なものだったら、出願人は、不服審判請求を行う必要は無く、その印紙代を支払う必要もなかった)」というケースに当たると確定できるので、その場合は、その審決(上記①の場合は特許審決だけだが、上記②の場合は特許審決の場合と拒絶審決の場合との両方あり得る)の中で、印紙代の返還させるために、その審決の主文の中で、(本件は審査官の審査内容が不当であり本来は審判請求は必要なかったケースなので)印紙代を返還する。という文言を入れればよいと思います。

民事訴訟でも、裁判所が出す判決の主文の中に「訴訟費用(印紙代など)は(敗訴した)被告の(又は敗訴した原告の)負担とする」という文言が入りますが、それと同じ方法で可能です。特許法の改正だけで済むと思います。

2. このような意見に対しては、審判は「続審」(発明が特許されるべき否かを審理対象とするのであって、審査官の行政処分が妥当か否かを直接の審理対象とするのではない)であるから、理論的におかしいという反論があり得ます。

 これについて考えますと、まず、審判が「続審」である(この点で、「審決の当否(審決が妥当か否か)」を対象とする審決取消訴訟とは異なる)という実質的な意味は、出願人側は審判請求のときに権利化に向けて補正ができるし、審判官側も審判中に補正の機会を与えるための拒絶理由通知が出せる、ということです。
 しかし、「審判請求時の補正」がない場合は、審判は、実質的には、「拒絶査定の当否(拒絶査定が妥当か否か)」が対象になっています。したがって、少なくとも、この場合は、「続審」であることは問題にならず、「審決の当否(審決が妥当か否か)」を対象とする審決取消訴訟と同じに考えてよいと思います。

3.  また、そもそも、世間では、「ユーザーの責任で故障した商品の修理は有償とする、しかし、メーカーの責任で故障した不良品の場合の修理は無償とすべき」というのが常識です。
 それなのに、特許庁の取り扱い(現在の特許法)では、「ユーザー(出願人)の発明がもともと進歩性などがないために出された拒絶査定に対する不服審判請求は有償とする(ここまで私も当然と思います)、それだけでなく、審査官の審査内容に不備があったために出された拒絶査定(不良品)の場合でもその修理すなわち不服審判請求は有償とする」としている訳です。これは世の中の常識に反しています。「世の中の常識に反する法律」は改正する必要がある、と思います。

4.  行政処分に対する不服審判請求の制度は、税務署や公正取引委員会にもありますが、いずれも、官庁に支払う印紙代などは、全く必要ありません。例えば、独占禁止法52条は、公正取引委員会の処分(排除措置命令と課徴金納付命令)に対する審判請求を定めているが、所定の審判請求書を出すだけで、印紙代などは必要ありません。

では、なぜ、特許庁の処分に対する不服審判請求だけ、印紙代が必要だとしているのでしょうか。それは、おそらく、特許庁の仕事は、最初に出願人が出願という積極的なアクションを行って(イニシアチブをとる。このときも印紙代が必要)、それに対する応答として審査官が審査の処分を下すという構造をとっているため、拒絶査定不服審判請求の段階でも、漫然と「常に」印紙代が必要だと定めているのだろうと思います。

これに対して、税務署や公正取引委員会の処分は、国民の側から最初に役所に積極的に処分を要請するのではなく、役所の方が勝手に(イニシアチブをとって)国民に対して行政処分をするのであるから、それに対して国民の側(国民から見ると不当な行政処分の被害者の側)から不服審判請求をするためには印紙代が必要だとすると、国民は怒り狂うでしょう。

そういう違いがあるのだろうと思います。

5.  特許庁の拒絶査定不服審判請求の費用は、民事訴訟の裁判と似た構造だと思います。裁判でも、最初にアクションを起こす(イニシアチブをとる)原告が、まず最初に印紙代を裁判所に支払います。しかし、裁判では、原告と被告とのいずれか負けた方(つまり不当であるとされた方)が、最終的に印紙代などの訴訟費用を負担することになっています(判決の主文でそれも定める)。つまり、印紙代は、最初に原告が支払うが、それは「仮の支払い」であって、裁判で負けた側(悪いことをしたか間違った判断をしていた方)が、印紙代を最終的に負担することになっています。

この裁判における印紙代の支払い義務の分配は極めて妥当・公平と思いますが、そうだとすれば、特許庁での不服審判請求でも、審査官の処分と出願人側の判断とのどちらが正しいかを争うのだから、負けた方がその費用を負担するのが妥当・公平のはずです。よって、不服審判請求で出願人が勝ったとき(ただ、「審判請求時の補正」をしてから勝った場合は審査官の審査は妥当だったという場合も多いので、その場合は、「審判請求時の補正」がもしなくても出願人が勝っただろうと言える場合だけ)は、負けた側つまり不当な処分をした審査官の側(特許庁)が印紙代を最終的に負担すべきだから、特許庁は、最初に出願人が仮に支払った印紙代(審判請求の費用)を、出願人に返還すべきだと思います。

また、こうすることによって、特許庁の審査官に、適正な審査を行う方向の「動機付け」を与えることが可能になります。

6.  なお、もし、このような審査が不当であつたために不服審判請求の印紙代を出さねばならなかったことが審決で判明したときは出願人に印紙代を返還するという制度にするときの技術的な方法としては、審判請求の印紙代については審判請求時には特許庁は「預かり金(供託金)」として出願人から受け入れておいて、審決で審査官の審査は正当だったと確定した段階で国庫に帰属させるという方法が妥当ではないかと思います。(印紙代は、いったん国庫に帰属させると返還の手続が大変なようですので、このように考えました)

7.  それから、もし、このような「印紙代の返還」が制度化されれば、印紙代の返還をも視野に入れる出願人側としては、拒絶査定を受けた後に不服審判請求をするとき、補正をしても余り意味がないと思えるときは、「審判請求時の補正」をしないで不服審判請求だけをするというケースが増えるでしょう。それは、不服審判の事件を、前置審査(拒絶査定をした審査官が関与するもの)を介さずに直接に審判官のところに持っていくことになるので、不服審判のためのトータルの期間や手間を短縮・軽減させることに繋がるという制度上のメリットがあると思います。

8.  他方、こういう「印紙代の返還」の制度を作ると、審査官が(印紙代の返還に繋がる拒絶査定を避けて)萎縮して安易に特許査定を乱発するようになるのではないかというデメリットが考えられます。これに対しては、審査官が自信を持って拒絶査定ができない(しかし特許査定もおかしいと感じている)ような難しいケースについては、例えば、(a)審判と同様に3人の審査官のチーム(合議体)で審査するようにする、(b)審査官の裁量で上級の審判官に事件を移したり、審査官が担当したまま審査官が上級の審判官の意見を聴取できるようにする(侵害訴訟の中で裁判所が特許庁の意見を求める「求意見制度」と同じようなもの。できたら、出願人と審判官と直接のやり取りも認める)、などの対策で対処可能と思います。

最後に
以上の内容については、私の方にメールや電話などでお問合せ頂いても構いませんし、内容を公表されたり、コピー・改変されても構いませんが、下に書いています私の住所・氏名などの個人情報は、民主党様の外部に対しては秘密にして頂きますよう、お願い申し上げます。(以下略)

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2009年9月11日 (金)

特許無効審決の効力を遡及効から将来効へ?(ダブルトラックの弊害の解消策)

ダブルトラック(特許の有効性判断が侵害訴訟と特許庁での無効審判との2つのルートで行われ得ること)の弊害の解消策が、特許法改正の重要論点となっている。

この問題は、手続の進行段階により、

裁判所で侵害訴訟を行っている段階において、それと並行して特許庁での無効審判請求がなされると、2つのルートから特許の有効性を攻撃できる被告と比較して原告(特許権者)が不利であり不公平ではないか(また、原告としては特許侵害訴訟を提起しただけなのに、被告の出方によって特許無効審判やその審決取消訴訟などまで戦線が拡大してしまい、弁護士費用などが予想外に膨れ上がってしまう)という問題と、

侵害訴訟の原告(特許権者)勝訴判決が確定した後の段階において、その後に被告が無効審判請求を何回も繰り返した結果、無効審決が確定したら、現行法では再審により確定した勝訴判決が覆ってしまうが、それは原告(特許権者)に酷ではないかという問題と、の2つがある。

これらについて、知財高裁判事などもメンバーとなっている特許庁の特許制度研究会(第4回)で高度な議論が展開されている。

①については、特許侵害訴訟を行っているときは、特許無効審判請求を禁止したらどうかという意見が有力のようだ。

例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理の下、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能とすべきという意見。あるいは、侵害訴訟で特許庁の知見を活かすにも、求意見制度などによれば足り、わざわざ無効審判を並走させる必要はないという意見。

②については、無効審決の効力を現行の遡及効から将来効に変更したらどうかという意見が有力のようだ。将来効にしたら、無効審決の前に確定した侵害訴訟の判決が覆ることはなくなるからだ。

例えば、侵害訴訟では特許の有効性を判断できなかった過去の制度を前提とすれば、事後の審決確定が再審事由となるのは自然。しかし、特許法104条の3が導入され、侵害訴訟で特許の有効性が判断できる現在の制度を前提にしても、事後の審決確定が再審事由に該当すると考えるべきか、または、特許の有効性が判断された侵害訴訟の確定判決は事後の審決確定によっても覆らないとすべきかという問題だという意見。また、侵害訴訟とその後の無効審判での結論が異なる原因には、1)公知技術に関する新たな証拠の発見と、2)侵害訴訟ルートと無効審判ルートとの純粋な判断齟齬による場合が考えられる。最終的には、1)については後出しであるとして、また、2)については侵害訴訟で無効の抗弁を主張する機会が与えられていたとして、蒸し返しを制限するかどうかという価値判断の問題という意見。

以下は私見。

もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正するなら、無効審決の対世効の規定が憲法違反ではないかという問題は解消されるだろう。憲法違反の主張は、対世効が遡及効を含むからこそ問題にしていたのだろうから。将来効だけなら、無効審決も、通常の行政処分の一つに過ぎない。

また、もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正しても、侵害訴訟での無効判断は遡及効を有するまま、とする必要がある(まぁ当然だけど)。なぜなら、差止め請求だけなら将来効だけでよいのだが、損害賠償の問題を判断するには遡及効が必要だから。だから、もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正して、その後に特許庁での無効審決(将来効)が確定したという場合でも、特許侵害に基づく損害賠償請求訴訟が提起されたら、その裁判の中で特許の無効判断(遡及効)を改めて行う必要がある。差止め請求だけの訴訟なら、無効判断は不要(というか、そもそも、特許無効審決が確定した後に差止め請求をする人はいないだろうけど。これに対して、特許無効審決(将来効のみ)が確定した後でも損害賠償請求する人はかなりいるだろう)。

以下に、特許庁ホームページより、特許庁の特許制度研究会(第4回)の議論の一部を引用しておく。

①についての議論の一部の引用

○ キルビー最高裁判決2及び特許法104条の3は、紛争を一回的に解決することが望ましいという理念に基づく。しかし、侵害訴訟の被告の多くは無効審判も請求するため、2つのルートの利用により紛争処理の結果の予測が困難になり、侵害訴訟が紛争解決システムとして機能しなくなっている。現行制度は同じ証拠・理由であっても侵害訴訟の被告に特許を無効とするチャンスを二重に与えており、特許権者に一方的に不利な状況。侵害訴訟か無効審判かのどちらかに絞るのではなく、104条の3によって生じる特許権者のリスクを軽減させる立法措置を講ずるべき

○ 制度としては、特許権の有効な権利範囲の迅速な確定とともに、シンプルで正確かつバランスの取れたシステムが望ましい。例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理の下、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能とし、侵害訴訟における特許無効の判断には対世効を持たせるべき。特許無効の判断の効果は将来のみに及ぶとすれば問題ない。

○ 当事者は、無効審判よりも侵害訴訟の方に力を投じていることが多い。また、特許の有効性の判断は侵害訴訟に集約した方が効率的であると考える。死力を尽くした侵害訴訟での結果については、現状よりも強い効力を当事者間に及ぼしてもよい。

○ 無効審判制度に存在意義はあるが、侵害訴訟で有効性判断をしている場合も敢えて全件について無効審判をやることに意味はあるのか。侵害訴訟で特許庁の知見を活かすにも、求意見制度などによれば足り、わざわざ無効審判を並走させる必要はない。

②についての議論の一部を引用

○ 最終的に決め手となるのは再審の在り方をどうするかである。事後の審決確定が侵害訴訟の再審事由に当たることを認めるかどうかにより、今回議論している他の問題も全て影響を受ける。特許無効の審決の遡及効の考え方を徹底するのか、既存の紛争解決の結果を尊重するのかという現実的な問題であるのみならず、理論的には、特許の効力をどのように考えるべきかという問題である。侵害訴訟では特許の有効性を判断できなかった過去の制度を前提とすれば、事後の審決確定が再審事由となるのは自然。しかし、特許法104条の3が導入され、侵害訴訟で特許の有効性が判断できる現在の制度を前提にしても、事後の審決確定が再審事由に該当すると考えるべきか、または、特許の有効性が判断された侵害訴訟の確定判決は事後の審決確定によっても覆らないとすべきかという問題。制度利用者はどちらを望むのか。

○ 侵害訴訟とその後の無効審判での結論が異なる原因には、1)公知技術に関する新たな証拠の発見と、2)侵害訴訟ルートと無効審判ルートとの純粋な判断齟齬による場合が考えられる。最終的には、1)については後出しであるとして、また、2)については侵害訴訟で無効の抗弁を主張する機会が与えられていたとして、蒸し返しを制限するかどうかという価値判断の問題。公益的な側面と手続的な側面のいずれを強調するかという価値判断とも言える。

現行制度下においては訴訟で特許無効の抗弁および訂正の再抗弁が主張できるのであるから、侵害訴訟判決確定後に再度争う余地を認める必要はない

○ 無効になる確率は、判断基準のばらつきと、新しい証拠の出現に依存する。後者が大きく影響しているのなら、それを制限するという案もある。特許の質に大きく影響する可能性も懸念されるが、一回の紛争処理手続の中で無効理由が出せなければ、無効理由に関する証拠の後出しは認めないという整理もあり得る

○ 侵害訴訟判決確定後に、被告であった者が無効審判を請求することは日常的にあり得る。確定判決が後に覆る可能性があるということは、侵害訴訟は安心感のない紛争解決手段であることを意味し、紛争解決モデルとして問題があることを意味するため、再審は制限されるべき。

○ 日本の特許権は、侵害訴訟で勝っても後に特許が無効化され、権利行使の結果が覆される潜在的なリスクが高いというイメージから、日本での出願を見送るという国際的な動きもあると聞いている。無効審判を廃止すべきとまではいわないが、侵害訴訟で徹底的に争ったら、それで紛争解決は終結し、再審にはならないとした方が良いのではないか。

無効審決の効果は遡及すると定める特許法125条を改正し、将来効のみとするのはどうか。その場合であっても、過去に命じられた差止めが将来にわたって継続するという問題が残るが、それを無効にするための法律上の手当を行えばよい。権利が無効になっても、過去に支払ったライセンス契約のロイヤルティの返還義務はないとするのが有力説であり、すでに特許が無効となった場合の効果を将来のみに及ばせる考え方は存在。

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拒絶査定不服審判請求の特許印紙代は出願人に返還すべきでは?

特許出願に対して審査官が拒絶査定を出したとき、まだ粘ろうとすれば、不服審判請求をやるしかない。

しかし、特許庁に対して拒絶査定不服審判請求をやるとき、その特許印紙代は、例えば請求項の数が50個なら、「49,500円+請求項の数×5,500円」の計算式から、324,500円となってしまう。

通常の出願は請求項の数が5-10個くらいが多く、その場合は、不服審判請求の印紙代は10万円かそれ以下で済む。しかし、請求項の数が50個くらいの出願も結構あり、その場合は、30数万円の特許印紙代を納付しなくてはならない。

しかし、そもそも、特許庁審査官の拒絶査定という行政処分に対する不服審判請求について、何故、出願人側が特許印紙代を支払う必要があるのだろうか?

不服審判請求をする場合というのは、(a)審査官の処分が実際にも不当であった場合と、(b)審査官の処分は実際には妥当なのに出願人側が不当だと誤解していた場合と、の2つがありえる。

実際にどっちだったかは、後に、審判請求の結果である審決により、又は、この審決に対する取消訴訟の判決(知財高裁による)により、はっきりと、判明する。

少なくとも、(a)のケースだった、すなわち、審査官の拒絶査定が実際に不当であった(審査官が妥当な処分をしていれば出願人は不服審判請求をしなくて済んだはず)という場合は、特許庁は、審判請求の特許印紙代を出願人に返還すきべだろう。

すなわち、行政処分に対する不服審判請求の制度は、税務署や公正取引委員会にもあるが、いずれも、官庁に支払う印紙代などは、全く必要はない。例えば、独占禁止法52条は、公正取引委員会の処分(排除措置命令と課徴金納付命令)に対する審判請求を定めているが、所定の審判請求書を出すだけで、印紙代などは必要ない。

では、なぜ、特許庁の処分に対する不服審判請求だけ、費用が必要だとしているのか。それは、おそらく、特許庁の仕事は、最初に出願人が出願という積極的なアクションを行って(このときも印紙代が必要)、それに対する応答として審査官が審査の処分を下すという構造をとっているため、拒絶査定不服審判請求の段階でも、漫然と印紙代が必要だと定めているのだろう。

これに対して、税務署や公正取引委員会の処分は、国民の側から最初に役所に積極的に処分を要請するのではなく、役所の方が勝手に国民に対して行政処分をするのであるから、それに対して国民の側(国民から見ると不当な行政処分の被害者の側)から不服審判請求をするためには印紙代が必要だとすると、国民は怒り狂うだろう。

そういう違いがあるのだろう。

だから、特許庁の拒絶査定不服審判請求の費用は、裁判と似た構造だと思う。裁判でも、最初にアクションを起こす原告が、まず最初に印紙代を裁判所に支払う。しかし、裁判では、原告と被告とのいずれか負けた方(つまり不当であるとされた方)が、最終的に印紙代などの訴訟費用を負担することになっている(判決でそれも定める)。つまり、印紙代は、最初に原告が支払うが、それは「仮の支払い」であって、裁判で負けた側(悪いことをしたか間違った判断をしていた方)が、印紙代を最終的に負担することになっている。

この裁判における印紙代の支払い義務の分配は妥当・公平と思うが、そうだとすれば、特許庁での不服審判請求でも、審査官の処分と出願人側の判断とのどちらが正しいかを争うのだから、負けた方がその費用を負担するのが妥当・公平のはずだ。よって、不服審判請求で出願人が勝ったときは、負けた側つまり不当な処分をした審査官の側(特許庁)が印紙代を最終的に負担すべきだから、特許庁は、最初に出願人が仮に支払った印紙代(審判請求の費用)を、出願人に返還すべきだと思う。そのように特許法を改正すべきだろう。

以上は、最近、個人的に50個くらいの請求項の出願をしてて、それ対して拒絶査定が来てしまったので、高額の印紙代にびっくりして、じっくり考えたことだ。この件については今もうまい手はないか思案中だ(審判請求時に補正して請求項の数を少なくすれば印紙代も安くできるが、もともと権利を十分に確保するために請求項の数を50個にしたのだから)。

ただ、この個別の件は離れて、不服審判請求の費用負担の一般的な問題として上記のことについては特許法の法改正を検討すべきと思ったので、民主党の議員かどこかに、法改正の話をもって行ってみようと考えている(民主党本部へのメール送信はやっておいた)。議員の知り合いは全く居ないし、こういうことはやったことがないんだけどw

追記: コメントを頂いて考えたことを追記しておきます(2009/9/30)。

A  要するに、審査官の拒絶査定が不当であり、もし正当な審査を行っていれば拒絶査定不服審判を行う必要は無かった(印紙代を支払う必要は無かった)といえる場合は、印紙代の返還はあるべきと思う。
その場合とは、①「審判請求時の補正」が無かった場合、②「審判請求時の補正」はあったが、拒絶査定の理由とは関係ない部分の補正だったなど、その補正があってもなくてもいずれでも特許審決が出ただろうと言える場合、などがあると思う。

B  もし、このような、出願人に印紙代を返還するという制度にするときは、審判請求の印紙代については審判請求時には特許庁は「預かり金(供託金)」として出願人から受け入れておいて、審決で審査官の審査は正当だったと確定した段階で国庫に帰属させるという方法が考えられる(コメントで知ったが、印紙代は、いったん国庫に帰属させると返還の手続が大変なようなので)。

C  それから、もし、このような「印紙代の返還」が制度化されれば、印紙代の返還をも視野に入れる出願人側としては、拒絶査定を受けた後に不服審判請求をするとき、補正をしても余り意味がないと思えるときは、「審判請求時の補正」を全くしないで不服審判請求だけをするというケースが増えるだろう。それは、不服審判の事件を、前置審査(拒絶査定をした審査官が関与するもの)を介すことなく直接に審判官のところに持っていくことになるので、不服審判のためのトータルの期間を短縮させ手間(特許庁と出願人側の手間)を軽減させることに繋がるという制度上のメリットを生むと思う。

D  他方、こういう「印紙代の返還」の制度を作ると、審査官が(印紙代の返還に繋がる拒絶査定を避けて)萎縮して安易に特許査定を乱発するようになるのではないかというデメリットが考えられる。これに対しては、審査官が自信を持って拒絶査定ができない(しかし特許査定もおかしいと感じている)ような難しいケースについては、例えば、(a)審判と同様に3人の審査官のチーム(合議体)で審査するようにする、(b)審査官の裁量で上級の審判官に事件を移したり、審査官が担当したまま審査官が上級の審判官の意見を聴取できるようにする(侵害訴訟の中で裁判所が特許庁の意見を求める「求意見制度」と同じようなもの。できたら、出願人と審判官と直接のやり取りも認める)、などの対策が可能と思う。

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2009年4月20日 (月)

パテントトロール対策についての特許庁の特許制度研究会の議論

パテントトロール対策としての「特許権の差止請求権の権利濫用法理による制限」について、特許庁が設営している特許制度研究会の第2回会合の議事録が特許庁ホームページに掲載されていた。

この議事録を見る限りでは、会合のメンバーは、企業、判事、学者、弁護士、弁理士がバランス良く配置されていると思うし、議論の内容も、特に大企業寄りということもなく、かなりバランス良くなされていると感じた。特に、企業との利害関係の無い判事が参加していることがバランスに寄与していると感じる。

この議事録の中で良いなと思った議論を引用すると次のとおり。

・日米の制度の違いは、日本は原則差止めも損害賠償も認められるのに対し、米国は権利侵害に対する救済は懲罰賠償も含み得る損害賠償が原則で、差止めは裁判官の裁量による例外的措置である点。・eBay判決は米国における一般原則を特許権侵害に当てはめたものにすぎない。日米の制度及び実務の違い、差止めを制限した場合の悪影響を考えて慎重に判断すべき。
・特許権侵害の回避努力にもかかわらず、意図せずに他社の持つ特許権を侵害してしまった場合に、その後ライセンス交渉に誠実に対応しているにもかかわらず事業を差し止められるとしたら不当ではないか。
・差止請求権の行使に対応し、製品における寄与度が低い特許を回避するのは一定期間があれば容易ではないか。
・特許の技術的回避にはそれなりの時間がかかる。差止め実施までの猶予期間を適切に設定できるのであればかなりの問題が解決できるのではないか。
・有償譲渡された特許権による差止めは、目的が実施料収入や損害賠償である場合が多いと思われ、裁判で和解を勧奨されれば解決するのではないか。
・小さな企業が市場拡大・独占を目指す場合には、差止請求権が非常に大事。一方、大企業が小さな企業の特許を無視して大規模な事業活動を行った場合に、eBay判決の4要素を考慮したとして、差止請求が認められ得るのか疑問がある。 ・日本は、各国と比較して進歩性の審査基準が厳しいため、価値のない特許権による弊害は抑制されている。また、裁判において無効の抗弁が認容される場合も多く、製品に対する寄与度を勘案して損害賠償額を算出しているため、米国に比べて高額賠償が出にくいなど、特許権が強力であることの弊害は生じにくい。
・特許権の性質について、従来は所有権類似のものと捉えて差止めを認めてきたが、知的財産が土地や建物などの境界線が明確な物を対象とする所有権とは本質的に異なるとすれば、必ずしも特許権を所有権と同様に考える必要はない。例えば、特許権の行使が権利濫用であるか否かを判断する際に考慮すべき要素を、特許制度特有のものとして規定してもよいと思う。
・日本において、理論的には一定の場合に権利の濫用であるとの理由(いわゆる「権利濫用法理」)により差止請求権を制限する余地はあるが、実務的には制限した場合の代替措置などバランスを取る方策を検討すべき
特許権の効力として将来分の金銭的填補と差止請求はセットで考えるべき。特許権が財産権である以上、代替措置やその後に発生する損失を経済的に填補するような制度を整備しなければ、国民の財産権を保障する憲法の規定に違反することにもなり得る
・裁判実務では、他の法域と同様に、一般原則である権利濫用法理により差止請求権を制限するのは困難ではないか。差止請求が相当でない場合には、特許権を無効または権利範囲を狭いと判断し、問題を回避していると言われている。しかし、これでは侵害自体が否定され、損害賠償まで否定することとなり、行き過ぎたこととなる。権利侵害を認めた場合に権利濫用と判断した事例はないのではないか。したがって、現行制度では損害賠償だけ認めて差止請求を認めないという運用を行うのはかなり難しく、これでは硬直的であり立法措置が必要。例えば、損害賠償請求を原則として例外的な場合に差止請求を認める制度があり得るが、特許権の保護のベースが下がることが懸念される。
・差止めを制限したとしても、特許権侵害として損害賠償を認めている場合には、理論上は侵害行為に刑事罰が適用され得るが、それでは行き過ぎであるため、刑事罰を適用されることのないよう、侵害の違法性を打ち消す目的で、裁定と同様の効果を差止制限に伴わせるような制度設計はできないか。

・事務局より、差止めを認めるかを判断する際の考慮事項として、次の4つの要素を示した。  1)侵害を放置した場合、権利者に回復不能の損害を与えるか  2)損害に対する補償が、金銭賠償のみでは不適切か  3)両当事者の辛苦を勘案して差止めによる救済が適切か  4)差止命令を発行することが公益を害するか  (以上の引用で、太字は当ブログによる)

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2009年4月 9日 (木)

「ダブル・トラック」解消のための方策(特許無効審判の制限など)

前回の記事で、NHKの番組の中で、特許の有効性に関する「ダブルトラック」の問題が指摘されていた、ということを書いたので、ついでに記しておきたい。

このダブルトラックについては、政府の知財戦略本部で特許法の改正が議論されており、2011年予定の特許法の抜本改正に含める方向らしい。2009/4/5付け日経ネットの記事を次に一部引用。

「特許権紛争、裁判所処理に一本化 特許庁との対立解消へ

政府は特許を巡る紛争の処理迅速化に向けた法改正の検討に入る。特許権の有効性に関し、裁判所と特許庁の判断が対立しかねない現行制度を改め、無駄な紛争の回避につなげる。知的財産戦略本部が6日に決定する2009年度から5年間の「第3期知的財産戦略の基本方針」で二重構造の問題点を明記。特許庁の無効審判制度の制限と、裁判所の判断への一本化を11年に予定する特許法抜本改正に盛り込みたい考えだ。」

 現在の制度では、特許侵害訴訟で原告勝訴の判決が確定して被告から原告に損害賠償金などが支払われても、その後に、敗訴した被告は、原告の特許について特許庁に何回でも無効審判請求を繰り返すことが可能であり(無効審判は理由が異なる限り同一特許について何度でも請求できる)、その結果、特許庁で特許を無効とする審決が確定すれれば、被告は、今度は裁判所に対して「特許庁が特許を無効にしたこと」を理由として再審請求をして、自分が敗訴した確定判決を取り消してもらって、さらに、その確定判決の取消に基づいて自分が既に支払った損害賠償金とその金利(年5%!)を、不当利得などとして原告に返還請求することも可能となっている(原告としては踏んだり蹴ったりになってしまう)が、それを防ぐための方策が入れられるのは、ほぼ間違いないだろう。

方策としては、①判決確定後に原告の特許が無効になっても再審事由にならないとする、などが考えられる。

さらに進めて、②無効審判請求を制限して(特許成立後何年以内というように請求できる期間を定める、回数を定める、などして)、少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を確定させる(少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を争えないようにする)、これにより特許の安定性を高める、ということも考えられる。

僕の意見としては、そもそも、当事者対立構造の手続、つまり当事者系の審判(現状では、特許では無効審判のみ)は廃止して、その機能は全部、裁判所に移せばよいのでは、と思う。

なぜなら、当事者対立構造の手続(特許庁審判官が裁判官役になる)は、特許庁審判官は慣れていない(特許庁審判官の多くは、もともとは理科系の学位を持つ審査官から出世した人たちであり、例えば弁論主義や自由心証主義などの教育を十分に受けているようには見えない)と思われるから。こういう手続や考え方は裁判官の方が慣れているし適性があるはずなので、裁判所の方がよい。

他方、査定系の審判(拒絶査定不服審判と訂正審判)は、今までどおり、特許庁でやればよいのではないだろうか。また、査定系としての特許付与後の第三者異議申立ても、昔のように復活させてもよいと思う(知財戦略本部でも議論されている)。この第三者異議申立ては、査定系の手続、つまり、第三者がトリガーを引くことができるが、その後の手続はあくまで特許庁と特許権者との間だけで行う、というものだ。つまり、この第三者異議申立ては、特許後は第三者は誰でも申立てはできるが、いったん手続が始まったら、その手続は、当事者が対立する構造(特許庁審判官は裁判官の役割)ではなく、審査と同じ特許権者と特許庁との間の手続という構造(査定系。第三者はタッチできない)、というものだ。こういう査定系の手続ならば、特許庁は慣れているのでよいと思う。

ダプルトラックによる不都合は、主には3つあると思う。第1は、いつまでも特許の有効性が宙ぶらりんのため、侵害者との関係で特許権者が不当に不利になっている(特許権者が最終的に勝ち抜くことが極めて難しい)ということ。第2は、いったん裁判所に特許侵害訴訟を提起した後は、原告としては、その訴訟への対処だけでなく、被告が提起した特許庁での特許無効審判請求への対処も必要になってしまう、つまり、提訴したら直ぐに、裁判所だけでなく特許庁へも戦線が拡大してしまうので、特に中小企業や個人にとっては、弁護士費用や手間などで過大な負担になってしまう、ということだ。以上の2つは特許権者にとっての不都合だが、第3に、裁判所などを含めての不都合として、紛争が長引いてしまうということもある。

追記: なお、上記のように、(a)原告勝訴判決が確定した後に特許庁による特許無効審決が確定したことは再審事由にならないというように法改正をするのなら、(b)原告勝訴判決が確定した後に特許訂正審判が確定した結果として特許請求の範囲が前の確定判決における被告製品をカバーしないものとなってしまった場合でも、そのことは再審事由とはならない、ということも法改正に含める必要がある。なぜなら、特許無効と特許訂正とで、同じように扱わないと、バランスがとれないからだ。

なお、上記と逆のケース、つまり、(c)原告の特許が訴訟において無効と判断されて原告敗訴判決が確定した後に原告による特許訂正審判請求が認められて訂正審判が確定した結果として特許が有効と判断されるようになった(しかも、訂正後の特許請求の範囲も以前として被告製品をカバーしている)場合でも、そのことは、特許法104条の3第2項の趣旨から原則として再審事由とはならない(正確には、再審事由が存在するとしてその判断を争うことは許されない)、というのが最高裁判例だ(最判平成20年4月24日平18(受)1772「ナイフの加工装置事件」)。

また、2009/3/2付けの「社内弁理士のチャレンジクレーム」にこの問題に関する記事があったのを発見したので、その一部を次に引用しておく。

「「特許侵害訴訟後に無効審決が確定した場合、再審事由となるか」という問題は、日本で「海苔異物除去装置事件」などに関連し活発に議論されている。この状況は米国でも同じなのだろうか。なぜなら米国でも訴訟と再審査の両方で特許の有効性を争うというダブルトラックが存在しているためである。

この問題について聴講者の方から質問がなされ、セミナー講師の工藤敏隆弁護士は「米国では訴訟において特許の有効性を争うのが基本であるため、特許訴訟後に無効審決が確定した場合であっても再審事由にはならない」と回答された。ただし、この点が実際に争われた事件は未だないという。

このように米国では訴訟の優位が明確であるため、ダブルトラック問題が生じないのだろうか。この点に関連し聴講者の方が「日本では特許権者による訂正審判・訂正請求の多用がダブルトラック問題の要因となっている。米国では訂正のための再発行などはあまり用いられていない。これが米国でダブルトラック問題が生じない理由ではないか。」という旨の発言をされた。」

このブログでは、訂正審判が、ダブルトラックが問題となる大きな要因だと主張している。確かに、裁判所などを含めての紛争の長期化という面では、それはあるだろう。

しかし、ダブルトラックの問題の本質(最大の不都合)は、特許権者と侵害者との間で特許権者が不当に立場が弱くなっているということだ。つまり、特許権者・原告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での訂正審判があり、被告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での無効審判があるが、特に、訴訟の中で被告側による特許の無効主張が可能になった結果(また、一般に、訂正審判よりも無効審判の方が強力である結果)、原告と被告との間で、武器としてのバランスが取れていない、ということが本質的な問題だと思う。

そして、訂正審判は原告側がイニシアチブを取ってやれることなので、原告は、弁護士費用なども考えて、戦線を訴訟以外には拡大したくないと思えば、特許庁への訂正審判をしなければよいし、それは自由に選択できる(被告による訴訟中での無効主張に対抗するために、つまり「再抗弁」を主張するために、特許庁への訂正審判請求をすることも当然にあってよい)。被告としては、特許庁への無効審判請求ができなくなっても、裁判の中で特許無効の主張はいくらでもできるのだから、特に不利になることは全く無い、と思う。

以上より、「被告側の無効審判請求は制限する、原告側の訂正審判はそのまま制限しない」としても、両者の武器のバランスを考えると、ちょうどよいのでは、と思う。

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NHKの「特許が危ない 知財高裁5年目の課題」を見て

2009/4/9深夜のNHKの「今日のニュース&スポーツ」の中の「特許が危ない 知財高裁5年目の課題」を見たが、その内容は次のようなものだった。

1 知財高裁が発足して5年目になったが、特許侵害訴訟の事件の中で、知財高裁(あるいは知財高裁を含めた裁判所?)により特許を無効と判断した判決は、2005年は31.9%、2006年は51.4%、2007年は42.1%、2008年は46.4%となっている(テレビを見ながらメモしました)。

要するに、特許侵害訴訟を提起したら、原告の特許は、だいたい50%くらいの確率で、無効と判断されてしまうようだ。

2 知財高裁が特許を無効と判断した事件の例として、携帯電話のマナーモードでの着信時のバイブレーション機能について、モーターにより回転する回転板?をわざわざ真円状にしないで偏って回転させることによりブルブルと振動させる発明について、それは自明だから進歩性がなく無効だとした例があるが、そもそも「自明」というのは何かが疑問だ、と解説委員が話していた。

私見としては、これだけで裁判所の判断が不当と決めることはできない、例えば、「モーターにより回転する回転板?をわざわざ真円状にしないで偏って回転させることによりブルブルと振動させる」という技術は既に公知で、「その公知技術を単に携帯電話に適用したこと」が発明の本体であるならば、それは容易・自明だから進歩性がないと判断したのかもしれない。

※この番組の内容を示すブログ(開設委員室)が開設されていたので、一部を引用しておく。

「・・・例えば、携帯電話をマナーモードにすると、呼び出し音が鳴らない代わりに、電話機がブルブルと震えて着信を知らせますが、ブルブルッと震えるのは、モーターに円盤を付けて回転させる際に、わざと不完全な円盤を組み込んで回転を不均衡にさせて振動を起こしています
しかし裁判所は、完全な円盤で振動しないなら、円盤を変形させれば振動が起きるのは自明のことだとしまして、特許庁が認めた特許を覆したという事例があります。特許を巡る裁判は様々な要素が絡み合って極めて複雑なので、余り単純化するのは危険ですが、こういう事例を見ると、「自明のことである」という判断そのものがどこかおかしいと思わざるを得ません。
新しい技術や見たこともない新製品のすべてが、100%新しく革新的なわけではありません。現実のものづくりの世界では、業界の常識をちょっと変えてみるとか、発想を少し転換させることによって、世の中に役に立つ技術が生まれることの方が多いのです。

アメリカ大陸を発見したコロンブスが、「いずれ誰かが見つけていたことだ」という皮肉に対して、「この机の上に卵を立ててみろ」と言い返したといいます。
そしてコロンブスは、誰も立てられなかった卵を立ててみせました。
実際には卵の底を潰して立てたのですが、この話の教訓は、あとから種明かしをされれば、「何だ」ということでも、発想を転換させて最初に立ててみせる事こそが重要なのだという点にあります。しかし携帯電話の事例に見られる裁判所の判断には、コロンブスの卵をそもそも認めない姿勢が窺えます。

もう一つ重要なのは、どんなに素晴らしい発明も、多くの場合、時間が経てば、当たり前のことと見做してしまう傾向がある点です。いわゆる「あと知恵」です。だからこそ特許の有効性を判断する立場にある特許庁や裁判所は、あと知恵という罠があることを常に自覚する必要があります。」(太字は当ブログによる)

上記の引用のように、解説委員は、知財高裁の進歩性判断について批判している。しかし、進歩性はかなり専門的な内容なので、学者や専門家に聞いたりして調べたのだろう。

また、上記の「コロンブスの卵」(あとから種明かしをされれば、「何だ」ということでも、発想を転換させて最初に立ててみせる事こそが重要)と、「後知恵」(どんなに素晴らしい発明も、多くの場合、時間が経てば、当たり前のことと見做してしまう傾向がある)とは、僕は同じことを言ってる問題だと思ってたが、この解説委員は別の問題だと捉えて、話していたようだ。

3 解説委員は、コロンブスの卵のような発明も大切、後智恵で考えれば簡単に思えてもなかなか思い付かないアイデアもあり、そのようなアイデアは保護されるべきだ、というような発言もしていた。

4 特許侵害訴訟が提起されたら、特許の有効性が裁判所と特許庁の双方で争われる「ダブルトラック」により特許の有効性がいつまでも宙ぶらりんのままになってしまうという問題も指摘していた。

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2009年3月27日 (金)

パテントトロールと恫喝訴訟と民主主義

現在、特許庁などで、パテントトロールによる恫喝訴訟を防ぐためなどの目的で特許法改正が議論されているが、恫喝訴訟は、日本ではむしろ、訴訟費用を惜しみなく出せる「大組織」「大企業」によって行われることが多い、ということは認識されるべきだろう。

2009年3月26日、週刊現代の「大相撲の八百長」報道に対する名誉毀損による損害賠償請求訴訟で、日本相撲協会および力士側勝訴の判決が言い渡された。この相撲協会という「公益法人」が訴訟で求めた請求額は、6億1,600万円というどうみても恫喝目的としか思えない金額だが、判決の4,290万円の賠償金というのも、今までにない高額だ。もちろん、大組織であればあるだけ経済的損害が大きくなるだろうから、6億円という損害の「計算」は可能だろうが(つまり、「恫喝目的ではない」という「理由付け」は可能だろうが)、「公益法人」であることも考えれば、むしろ「内部の浄化に役立つので報道してくれてありがとう、報道は公益にかなうもの」という見方もありえる。

以下に毎日jpの記事より一部を引用。

「相撲八百長報道:講談社に4290万円賠償命令 東京地裁

 横綱朝青龍ら力士30人と日本相撲協会が、八百長疑惑を報じた「週刊現代」の記事で名誉を傷付けられたとして、発行元の講談社や執筆者のフリーライター、武田頼政氏らに計約6億1600万円の賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。中村也寸志裁判長は「記事が真実との証拠はない」と述べ、総額4290万円の支払いと記事を取り消す広告の掲載を命じた。名誉棄損訴訟の賠償額としては過去最高とみられる。」

この判決の4,290万円は置いておいても、原告の相撲協会が請求した「6億円」という金額は、週刊現代という決して大きな資産を持っているとは思えない出版社に対しては、報道に対する萎縮効果・恫喝効果は十分過ぎるだろう。週刊現代は、今後、有力なタレコミがあっても、もう2度と大相撲の八百長の記事を書こうとは思わないだろう(相撲協会の思惑どおり)。

こういうことをやっていると、出版社は「萎縮」して、活発な報道ができなくなり、ひいては報道による国民の知る権利の実現も難しくなり、民主主義への脅威となる可能性があると思う(国民の知る権利が確保されないで十分な情報を知らされないまま民主主義が行われると容易に衆愚政治に堕してしまうことから、国民の知る権利は「民主主義の基礎」と言われている)。

以前も、「オリコン訴訟」といって、オリコンチャートの信憑性に関して疑問を呈するコメントを月刊誌「サイゾー」で述べた個人のジャーナリスト(烏賀陽弘道 氏)に対して、オリコンが5千万円という高額の損害賠償を請求して、「恫喝訴訟」として問題となった(参考「ウィキペディア」)。こういうことが許されるなら、資産を持たない個人ジャーナリストや小出版社は、自己破産を恐れて、雑誌等での不正の告発などができなくなってしまう。

パテントトロールの「恫喝訴訟」を阻止しようという手段としては、おそらく民法の「権利濫用」の法理が想定されているのだろうと思うが、特許庁なども、狭い知財の世界のみを見ているだけでなく、もっとより広い世界まで議論の裾野を広げて、民主主義やジャーナリズムにとって極めて大切な上記のような個人ジャーナリストや小出版社への「恫喝訴訟」の問題をも含めて、例えば法務省や日弁連などと連携するなどして、より広い視点で「恫喝訴訟」に対する「権利濫用法理」の有効性などについて議論をしていって欲しい(ってまあ、職務の分掌があるので難しいんだろうけど)。

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2009年2月21日 (土)

特許法の改正-第三者開放で特許料を半分に?

2009/2/20付け日経ネットの記事からの引用

「特許料、第三者開放なら半減 法改正を政府検討

政府は、第三者への開放を条件に企業が登録した場合の特許料を従来の半額にする方向で検討する。特許の開放をあらかじめ明らかにして中小・ベンチャー企業や研究者などが使いやすい仕組みにするのが狙い。特許が未使用のまま放置される事態を改善する効果も期待できる。3月末にもまとめる2009年度から3年間の「第三期知的財産戦略の基本方針」に盛り込み、10年の通常国会に特許法改正案の提出を目指す。」

これを最初に見たとき、はあ?と思った。なぜなら、「第三者に開放」して特許料(年金)が半分減るだけなら、特許権を「放棄」するか、特許料(年金)を支払わないで特許権を「消滅」させる方がずっとましだから。

その後、ちょっと考えて、これは記事が不正確なのであり、「第三者に開放」というのは、「差止め請求の部分は放棄して損害賠償の部分(ライセンス料の請求の部分)だけを残す(またライセンス料が高額だと実質的に差止めと同じになるからライセンス料も低額に抑える)こと」、という意味なのだろう、と推測した。

著作権におけるクリエイティブ・コモンズ(CC。下記参照)と同じような考え方で、特許権が有るか無いかの2つだけでなく、中間的な第3の権利内容を作る、というものだろう(予想)。

しかし、余り魅力は感じない。なぜなら、今の特許料は9年目まではせいぜい年間3万円以下(平均)、10年目を超えても年間10万円以下(平均)に過ぎず、それが半分になっても、大きな影響はないから。

それよりも、初めから「差止請求なし(損害賠償だけ)の特許権」を目指して出願するという制度を作ったら? そのような権利でよいと考える出願人に対しては、出願審査請求などの印紙代を半額にする(既に減免を受けて半額になっている企業にはさらにその半額とする)、進歩性などの特許要件を緩めるなどのメリットを与えることを検討したらどうだろうか?

クリエイティブ・コモンズ(cc)とは(リンク先は音声が出るので注意)から一部抜粋

著作権者の権利を守りつつ著作物の流通を促進するための仕組み。著作権者は、自分の著作物を所定の条件を満たすなら他人に利用してもらってもよいと考えるとき、①帰属(著作者名の表示を条件に利用を許諾)、②非営利(商用利用しないことを条件に利用を許諾)、③派生禁止(作品を改変しないことを条件に利用を許諾)、④同一条件許諾(元の作品と同じ条件で改変作品を他人に利用させることを条件に利用を許諾)、の4条件の中から選択して、Web上の操作で作品に所定のマークをつけられる。

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2009年2月14日 (土)

特許法改正とパテントトロール対策

特許庁が特許制度研究会を立ち上げた記事をみると、パテントトロール対策を最大の目玉としているようだ。でも、米国と違って、日本ではまだパテントトロールが大企業から大金を収奪したという事例は全くないのに、心配性というか準備が早いというか・・・よっぽど予算が余っているのかな(特許庁は独立会計なので)。

このパテントトロールだが、特許庁は、個人や中小企業から発明・特許を安く買い漁ってそれらをネタに大企業を恫喝して大金を獲得するという場合を問題としているようだ。

しかし、日本では、逆の側面の方が問題が大きいと思う。つまり、個人や中小企業の特許を大企業が侵害しているので個人や中小企業が大企業と交渉したいと希望しても大企業は相手にしてくれない、弁護士に頼む費用もない、泣き寝入りしかないという場合が日本では多い。このような場合は、泣き寝入りするしかない個人や中小企業にとって、パテントトロールは白馬の騎士となりえるのでは? 

パテントトロールの出現を阻止しようとする対策は、海賊品対策と同様に、大企業のニーズに応えるものだ。

「海賊品(デッドコピー)対策」(日本と海外での)は、特許庁・発明協会・ジェトロなどが協調して立ち上げているが、これは事実上、大企業・有名企業のニーズに応えるものだ。

なぜなら、「海賊品(デッドコピー)」は大企業・有名企業のブランドやヒット商品の外観にただ乗りするものであり、被害者は大企業・有名企業しかないからだ。ブランドのない中小企業の商品の外観にただ乗りしても経済的意味はない(まあ中には、しょぼいヒット?商品のデッドコピーで中小企業同士が不正競争法違反などで争っていることもあるが)。

確かに、グローバル市場では国内の大企業といえど苦戦しているので、特許庁などが側面支援することは悪いことではない。しかし、それだけでは片手落ちではないだろうか?

個人や中小企業が自分の特許を大企業に侵害されてるのに泣き寝入りしている例は多いし、運良く大企業と契約できた場合でも交渉の駆け引きに踊らされて不利な契約内容を締結させられる例は少なくない。これは弱肉強食の世界なら仕方ないといえばそれまでだが、しかし、「個人や中小企業が特許を大企業に侵害されたまま泣き寝入り」というのは「法の支配」(正義)が実現されていないということだ。

特許侵害訴訟で弁護士に依頼しようとしても、現状の知財弁護士は着手金400以上を要求するのが相場だし、訴訟が開始された後も日当などで毎月数万円以上かかる、大企業が相手だと控訴審まで行くことが多いのでそのときにまた弁護士を代えるかどうかにもよるがかなりの費用がかかる。成功報酬は除いて考えても(成功報酬は勝ったときにその賠償金から払えばよいとして)、印紙代も含めれば1千万円は超えるだろう(裁判所に関係する費用だけで、特許庁に関係する費用は含めないで計算)。しかも、今の特許侵害訴訟は原告の敗訴率8割(しかも敗訴したとき特許も無効になってしまう率は全敗訴件数の中の約6割)で、個人や中小企業には負担もリスクも大きすぎる。

特許庁は、豊富な財政で海賊品対策やパテントトロール対策を行って大企業のニーズに税金を使って応えようとするのなら、同じように中小企業や個人のニーズにも応えてほしい。

特に、中小企業や個人の特許を大企業が侵害しており交渉にも応じてくれないとき、中小企業や個人の支援をしてくれるような組織を用意することは社会的に有意義だと思う。費用の点で弁護士に依頼できないときの弁護士の代わりになり得るような組織だ。

消費者と企業との間でのトラブルで消費者を支援する国民生活センターがあるが、ああいうのと似たもので、中小企業や個人を支援して大企業との交渉などを手助けしてくれるというものだ。是非検討して欲しい。まあ、今度、パブリックコメントがあれば、意見を出してみよう。

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2009年2月 1日 (日)

特許法改正の論点

http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200901270084a.nwcによると、

特許庁は2009年1月26日、特許制度研究会(座長・野間口有三菱電機会長)を発足させ、1年後のこの研究会の報告をもとに審議会を立ち上げ、2011年に特許法を抜本改正することを目指す、ということです。

また、この記事によると、この特許制度研究会の議論のテーマ・論点は、(1)特許の活用促進、(2)迅速・効率的な紛争解決、(3)特許審査の方法を見直し特許の質を高める、(4)迅速・柔軟な審査制度の構築、(5)国際的な制度調和の推進、などだそうです。具体的には、特許に基づく商品を製造していないのに他社による特許侵害を訴え、多額の賠償金を狙う“パテント・トロール”の権利制限や、ベンチャーなどが、出願中の特許に質権を設定できるようにして、資金調達を支援する枠組みなども検討される、ということです。

上記の(1)特許の活用促進と(2)迅速・効率的な紛争解決のどちらかで「“パテント・トロール”の権利制限」が検討されるのでしょう。

おそらく、米国のeBay事件(MercExchngeがeBayに対して”Buy It Now”機能が特許侵害だとして訴えた事件)に関して2006年5月15日に出された米国連邦最高裁判決が判示したような制限、つまり、「英米法におけるコモン・ローの原則から、特許権侵害に対して差止めを認めるかどうかは個々の事件ごとに決める」という考え方(その結果、自分で製品化していない企業や個人の特許については、原則として損害賠償だけが認められ差止めは認められないということが多くなる)を、日本で採用するための規定を新設しようというのが特許庁の腹案ではないかなと予想されます(違うかな)。

米国の最高裁がこのような判決をしたのは、それまでパテントトロールが差止め命令を脅し(交渉手段)に使って、企業から不相応に多額の賠償金での和解をすることを繰り返していたことが一つの理由だということです。

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