組織力と発明力
元検察官で今は法律事務所を運営されておられる落合洋司弁護士が、ブログで、検察の組織力に対して弁護士は対抗できていないという文脈で、組織力について、次のように述べています。http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080527#1211899042
上記のような「組織力の差」は、私のように、「組織」からドロップアウトしてしまうと、痛いほどよくわかります。裁判所、検察庁といった組織の中に身を置いていれば、日々、次々と新たな最先端情報が舞い込んできて、それを着実に身につけておくだけで十分仕事がこなせますが、そうではない環境においては、そもそも、情報を取ることが大変であり、常にアンテナを張り巡らせ、意識して努力するようにしないと、組織力に対抗することは相当困難です。
組織に属していると、知らぬまにいろんな情報が入ってくるし、何かあれば直ぐ隣の同僚に聞けるので、組織内の成員のレベルが自動的に上がっていきます。これに対して、一人だと、そういうことがないので、日常的な努力を意識してやらないと、とんでもない勘違いや無知や独善に陥ったり、そこまでいかなくてもレベルが落ちるということは多いと思います。
それは、発明でも同じでしょう。ただ、発明は、芸術と同様に、「組織の中」ではなく「個人の頭の中」で生まれるという特徴があります。
この点、池田信夫さんは、そのブログで、次々と革新的な製品を生み出すアップルの「スティープ・ジョブズの頭の中」について、次のように述べています。http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/ee22ecd32ef1eb7943165c11673dfc22
「科学的マーケティング」なんて神話にすぎない。ヒットをマーケティングの成果として説明するのは、ただの結果論だ。ポラニーが、科学の理論が帰納から生まれるのではなく科学者の直観から生まれるとのべたように、イノベーションを生むのも統計や分析ではなくcoolな才能だから、それを作り出すハウツー的な方法はない。しかしイノベーションは、単なる思いつきではない。それをgreat productとして実現するデザインへのジョブズの執念も尋常ではない。
「科学的マーケティング」でヒット商品が生み出されるなら、チームの力で発明をすればよいのでしょう。そして、確かに、「改善的・周辺的な発明」はチームで話し合っているときに生まれることも多いと思います(トヨタの改善活動など)。しかし、斬新で根本的な基本発明は、あくまで「個人の頭の中」で生まれるものだと思います。
そこにこそ、組織力のない個人が、巨大組織と戦うときの勝機があるのではないかと思います(以前に述べた個人発明家のビジネスモデルの第2の道、つまり、大企業が研究している分野と同じメジャーな分野で大企業の研究者と競争してより早く基本発明をして基本特許を取得しようとする場合の話です)。
なお、「大企業へのライセンスを目指す発明家」とは、大企業と発明分野が競合している発明家という意味です。「大企業へのライセンス型発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえますが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえます。その意味でも、「大企業へのライセンス型発明家」は、通常のパテント・トロールとは違うと思います。
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