最近の発明(発明の方法論)
最近は発明を思い付くことが少なくなったが、それでも、1か月に1個くらいは思い付く。しかし、最近は、出願することが極めて少ない。というか、出願に値する発明が極めて少ないのだ。それだけ発明のカンが鈍っているのだろう。そういう、自分のダメな発明の一つを、今回は書いてみたい。
今年の初め頃、親戚の通夜があって行ったのだが、そこは本当の山奥だった。僕も田舎育ちだが、通夜から帰る時の夜9時頃の、そのあたりの「漆黒の闇」は経験したことが無かった(子供の頃はあったかもしれないが、全く忘れていた)。通夜のあった家から車を置いてある場所まで約100mくらいを移動するとき、月も星も出てなくて、周囲に全く照明がないので、道が全く見えない。自分の手も見えない。通夜に来たときはまだ少し明るかったので、道の側に溝があったと記憶していたが、その溝がどこにあるのか、道がどこにあるのか、全く見えなくて、慣れている近所の人に先導してもらったが、すごく怖かった。
このときの経験が元で、緊急の場合など何時でもでも使える懐中電灯が欲しい、携帯電話に内蔵させれば良い、と思い付いた。「携帯電話+懐中電灯」、これで発明は完成だ。付加的要素として、LCD(液晶表示装置)のバックライトの光の一部をある部分に集中させて照射させるようにしてもよい。このくらいは、20~30秒で思い付いた。
それで、IPDLで先行公報を検索してみた(キーワードは「携帯電話」と「懐中電灯」のみ)。そしたら、既に日本電気グループが出願していた。
ただ、この調査をやる前に、自分では、「出願しても市場性・ニーズはないのでは?」と思っていた。なぜなら、僕は上記の山奥での経験で懐中電灯が欲しいと思ったのだが、そんな山奥に住んでいる人はどのくらい居る? 今の日本では人口の半分以上は首都圏・近畿圏・東海圏の3大都市圏が占めているというし、地方都市でも24時間化は進んでいる。とすると、あえて懐中電灯を必要とする場面は極めて限られているように思われた(まあ、外国、特に発展途上国などでは需要はあるだろうが、外国出願は費用の点で難しい)。それで、あまり調査には気が乗らなかったのだが、類似の先行公報は直ぐに見つかった。
検索して得られた先行公報は20~30件あった。普通はここで、ああダメかで終わることが多いのだが、今回は、これらの先行公報を少し検討してみた。そして、先行公報の中の一番古い埼玉日本電気の出願(特開平10-215302号)と、同じ日本電気のグループ会社(NECアクセステクニカ)の出願(特開2004-153571号)の2つに注目した。前者は審査請求をして拒絶査定となっていた。後者は、拒絶査定になった後に拒絶査定不服審判請求(不服2006-15655)をしてなお特許化しようとしつこく頑張っている(現在進行形)。
このように、審査請求や拒絶査定不服審判請求などのコストを掛けても権利化を目指していることから考えると、日本電気側の知財部や事業部は、この「携帯電話+懐中電灯」の発明は市場性・ニーズがあると考えているようだ。それは何故か。
後者のNECアクセステクニカの出願(特開2004-153571号)の公報を見ると、暗所中での動画撮影を可能にすることを中心としているが、携帯電話のストロボを連続点灯させることにより懐中電灯代わりにすることもポイントにしており、「暗部での鍵穴の確認や探し物などに便利だ」とある。また、地震のときも懐中電灯は必要。そういうニーズは、田舎だけではないというか、都会の方にこそあるのかもしれない。
僕の場合、自分が発明したとき、気になった先行公報は、このように、IPDLで、その出願経過などまで見ることが多い。特にそれが大企業の場合は。そして、出願経過を見ながら、その大企業の知財部や事業部(勝手に自分のライバルと見立てている)がどのようなことを考えてそういう手続をしたのか、推測してみる。
僕は前に書いたように個人発明家のビジネスモデルの2番目を目指しているのだが、そのためには、つまり大企業と同じ技術分野で発明して競り勝っていくためには、「方向性」と「スピード」が最も大切だと思っている。「方向性」については、今回のように、自分の発明と類似のものをIPDLで検索して、大企業も自分と同じ発明をしているかどうか、審査請求もしているかどうか、で検証できる。
つまり、自分の発明と同じ発明を自分の前にも後にも大企業が出願していない場合、又は出願していても審査請求はしないで見做し取下で終わらせている場合は、大企業はその発明は市場性・ニーズが無いと見ている(市場性はあるがコストなどで実現できないとか進歩性がないと見ている可能性もある)と予測できる訳で、もし自分がそういう発明(市場性・ニーズが無い発明)をしていたなら、自分の「方向性」が間違っている可能性が高いのだから、自分の発明センス(方向性)を修正して行く必要がある。
他方、自分の発明と同じ発明を自分の前か後に大企業も出願しており且つ審査請求などのコストも掛けている場合は、大企業もその発明の市場性・ニーズはあると見ていると予測できるから、少なくとも方向性は正しい。しかも、もし、その発明について大企業よりも自分の方が早く出願している場合は、その発明は大金星となる可能性が高いので、何としても特許化すべきだろう。
また、自分の発明と同じ発明を大企業が自分よりも早く出願していた場合は、自分の発明は少なくとも「方向性」は正しかったが「スピード」で負けたということだから、スピードを上げるように頑張れば良い訳で、頑張ればスピード勝負でも勝てる可能性はあるということだ(とはいっても、今回の発明では、埼玉日本電気は12年前の出願で、僕の方が遅れたといっても12年はダメすぎだが)。
このように、僕は、自分の発明をするとき、自分の仕事の専門などは考えないで、日常生活の中でのニーズの発見を重視している。そして、そのニーズによる発明の「方向性」が正しいかどうか、「スピード」はどうか、を常に検証するようにしている。それが、僕の発明の方法論なのである。
なお、前述のような「大企業へのライセンスを目指す」とは、大企業と発明分野が競合している発明を目指すという意味だ。「大企業へのライセンスを目指す発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえるが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえる。その意味でも、大企業へのライセンスを目指す発明家は、通常のパテントトロールとは違うと思う。
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