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2009年4月の6件の記事

2009年4月22日 (水)

日本漢字能力検定協会の元理事長側の意外な知財・特許戦略?

昨日(2009/4/21)付け日経新聞の「文科省 漢検 後援 取りやめ」の記事の中で、日本漢字能力検定協会の新理事長の鬼追明夫氏の記者会見の内容として、次のような事実が載っていた(スポニチでも同様の報道あり)。

記者会見した鬼追理事長によると、・・・(中略)・・・「前理事長とは距離を置く」と強調。しかし、親族企業2社のうち1社は検定の採点や統計などをしているため「特許権の帰属問題などもあり、好ましくないと思っても短絡的に(取引中止を)やろうというわけにはいかない部分もある」と述べた。(太字は当ブログによる)

漢検の話の中で急に「特許権の帰属問題などもあり・・・」という場違いな話が出てきたので気になって、少し調べてみた。

すると、確かに、この漢字検定協会の前理事長側(大久保昇氏と大久保浩氏)は「株式会社日本統計事務センター」の名前で、今まで(データベースに出ているものだけで、最近の出願はデータベースには出てない)に、計14件の特許出願を行い、その中で4件が特許されている(他は、既に拒絶されたり、まだ審査中など)。

この特許された4件を見ると、漢字検定と関連するものとしては3件がある(この3件の特許の内容は末尾に示した)。他に、株式会社オークの名義でも数件の出願と特許があるが、それらは、ネットワークを使用した商品の販売に関する発明などで、漢字検定とは関係ないようだ。

「株式会社日本統計事務センター」による最近の出願と特許には、コンサル会社の「日本総合研究所」と共同出願している(発明者も双方から出している)ものが多い。

これらの特許や出願が実際上どれだけの力を持っているのか、漢字検定の採点や統計の業務を他社に委託するとこれらの特許権の侵害になってしまうのかどうか、ここで簡単に判断することはできない。ただ、一般的には、漢字検定の採点と統計だけなら、大学のセンター試験や予備校の模試などの採点や統計と基本的に変わるところはないと思われるので、そういう試験の採点や統計をしている大手の業者に委託することは特許侵害にはならないのではと思う(もちろん、業者ごとにやり方が違うので、今までの漢字検定と全く同じやり方での採点と統計にはならないだろうが)。下記の特許3件の内容はざっと見たが、この3件の特許だけなら、特に問題は生じないと思う。ただ、他の出願中のものについては中身を見ていないので、何ともいえない。

なお、僕は漢字検定はやったことないので分からないが、例えば漢字の筆順とか跳ね上がりなども採点するようにし、その採点方法のやり方を特許又は特許出願しているのならば、かなり手ごわい特許になる可能性はある。下記の3件の特許にはこのような要素はない。出願中のものについては、中身を見ていないので分からない。

一応、他社に委託すると大久保元理事側の特許権の侵害になってしまうかどうか、検討する時間は必要だろう。

「うちはこういう特許を持っていますので、これからもずっとうちに委託された方が良いですよ(もし他社に委託するとうちの特許権の侵害の問題が生じる可能性がありますよ)」というのは、良く使われる脅し?営業の手口だ(例えばゼネコンなどが特許に詳しくない役所などを相手に良く使っている)。

そう考えると、大久保元理事長側が以前からこういう特許出願をかなり大量に( 「株式会社日本統計事務センター」だけで14件以上)行っていたということは、見かけによらず、かなり知的な戦略を採用していたということだろう。

【特許番号】特許第3687785号(P3687785)
【登録日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【発明の名称】採点処理方法および採点処理システム
【出願番号】特願2001-246762(P2001-246762)
【出願日】平成13年8月15日(2001.8.15)
【特許権者】
【氏名又は名称】株式会社日本統計事務センター
【住所又は居所】京都府京都市西京区川島有栖川町51番地
【発明者】
【氏名】大久保 浩
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力手段により入力された解答データを集信し、採点処理を行って採点コンテンツデータを作成する採点処理手段により採点処理する方法であって、
試験において複数の受験者が解答を行った解答データを収集するステップと、
前記受験者の各種属性データを収集するステップと、
入力手段により入力された解答データを、変換手段により採点処理可能な形式に変換するステップと、
記憶手段によって記憶されている各設問に対して正答または誤答が解答された場合に生成される最も小さい解答データのデータ容量と、前記受験者が解答を行った解答データとを比較対照して、前記最も小さい解答データのデータ容量より小さいデータ容量の解答データを無解答と判断することを含む、解答判断手段により前記解答データが正答、誤答、無解答のうちいずれに該当するかを判断するステップと、
解答判断手段により正答または誤答であると判断された解答データについてのみ採点処理をするステップと、
前記解答データの内容毎に前記受験者の各種属性データの集計を行うステップとを含むことを特徴とする、採点処理方法。

【特許番号】特許第4004299号(P4004299)
【登録日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【発明の名称】試験問題提供システム、試験問題提供装置、試験問題提供方法およびその方法をコンピュータに実行させるプログラム
【出願番号】特願2002-26156(P2002-26156)
【出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【特許権者】
【氏名又は名称】株式会社日本統計事務センター
【住所又は居所】京都府京都市西京区川島有栖川町51番地
【特許権者】
【氏名又は名称】株式会社日本総合研究所
【住所又は居所】東京都千代田区一番町16番
【発明者】
【氏名】大久保 浩 (他、株式会社日本総合研究所内を住所とする3人)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いておこなう試験において試験問題を提供する試験問題提供システムであって、
ネットワークに接続されたサーバーが、
前記試験問題の一つの問題を構成する文書情報を一つのコンテンツとして、または、前記試験問題の一つの問題を構成する図形情報および前記試験問題の一つの問題を構成するイメージ情報の少なくとも一つと前記文書情報との組合せを一つのコンテンツとして、前記コンテンツを複数記憶する記憶手段と、
前記記憶手段によって記憶された複数のコンテンツの中から任意のコンテンツを選択する選択手段と、
前記選択手段によって選択されたコンテンツを前記記憶手段によって記憶された複数のコンテンツの中から抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出されたコンテンツのレイアウトを指定するレイアウト指定手段と、
を備え、
前記ネットワークに接続された受験者用端末装置が、
表示画面を制御して、前記レイアウト指定手段によって指定されたレイアウトに基づいて前記抽出手段によって抽出されたコンテンツを表示するとともに前記コンテンツに対応する解答欄を表示する表示制御手段と、
前記表示画面に表示されたコンテンツを指示するコンテンツ指示手段と、
前記コンテンツ指示手段によって指示されたコンテンツに対応する前記解答欄にカーソルを移動するカーソル制御手段と、
を備えたことを特徴とする試験問題提供システム。

【特許番号】特許第3887525号(P3887525)
【登録日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【発明の名称】オンライン試験システム
【出願日】平成12年7月11日(2000.7.11)
【公開番号】特開2002-23610(P2002-23610A)
【特許権者】
【氏名又は名称】株式会社日本統計事務センター
【住所又は居所】京都府京都市西京区川島有栖川町51番地
【発明者】
【氏名】大久保 浩
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受験会場サーバと試験管理サーバと採点サーバとを有するサーバと、サーバにネットワークを介して接続された受験端末とを含む、オンライン試験システムであって、
受験端末は、
受験者数に応じて複数設置され且つ受験会場毎に設置された受験会場サーバに接続され、
ネットワークを介して受験会場サーバから配信された問題を示す文字・記号を記録した試験コンテンツデータに対応して入力された解答に基づいて、OMRによる処理及び/又はOCRによる処理に使用される解答コンテンツデータを作成する解答コンテンツデータ作成手段を備え、
受験会場サーバは、
受験会場毎に設置され、
ネットワークを介して、受験端末と、試験管理サーバ及び/又は採点サーバと接続され、
受験会場毎に抽出された受験者の個人情報及び受験会場で実施される受験者が受験する試験を特定するための情報を記憶する手段と、
受験端末から受験者により入力される受験票に記載されている情報と前記記憶する手段に記憶されている受験者の個人情報とに基づいて、演算処理して受験者の認証を行うとともに、前記認証した内容に基いて、試験管理サーバから配信され記憶された試験コンテン
ツデータから抽出し、受験会場で実施される試験の種類に対応し且つ各受験者が受験する試験の種類に対応した内容であって、少なくとも問題を示す文字・記号を記録したテキストデータを含む試験コンテンツデータを、ネットワークを介して受験端末に配信する問題コンテンツデータ配信手段と、
受験端末で作成された解答コンテンツデータを、ネットワークを介して受験端末から集信する解答コンテンツデータ集信手段と、
前記集信した解答コンテンツデータを、ネットワークを介して採点サーバに配信する解答コンテンツデータ配信手段とを備え、
試験管理サーバは、
受験者データベースに記憶されている全受験者の氏名,住所,電子メールアドレス等の個人情報と、受験する試験の種類を特定する情報とを、演算処理して受験者及び試験の種類を特定する手段と、
試験コンテンツデータベースに記憶されている試験コンテンツデータを、前記試験の種類の条件に基いて、演算処理して受験会場サーバに配信する試験コンテンツデータを抽出する試験コンテンツデータ抽出手段と、
試験コンテンツデータを、ネットワークを介して受験会場サーバに配信する試験コンテンツデータ配信手段と、
採点サーバにより作成された採点コンテンツデータを受験者に提供する採点コンテンツデータ配信手段とを備え、
採点サーバは、
ネットワークを介して受験端末から集信した、OMRによる処理及び/又はOCRによる処理が可能なOMR用及び/又はOCR用の画像データを含む解答コンテンツデータと、前記試験コンテンツデータの画像データを含む解答データとに基づいて、OMR処理アプリケーション及び/又はOCR処理アプリケーションにより採点処理を行ない、OMR処理アプリケーション及び/又はOCR処理アプリケーションにより作成された採点結果によって採点コンテンツデータを作成する採点コンテンツデータ作成手段を備え、
前記採点コンテンツデータ作成手段は、
WWWサーバで閲覧可能なデータを作成するデータ作成手段及び/又は受験した試験に合格したことを証明する書類を印刷することができる印刷データを作成する印刷データ作成手段と、
入力された試験管理サーバの受験者データベースを検索・抽出して、受験者のメールアドレスを検索するメールアドレス検索手段と、
前記採点コンテンツデータを前記受験者の電子メールアドレスに送信する電子メールアドレス送信手段とを有し、
更に、前記解答コンテンツデータ作成手段は、
前記問題コンテンツデータ内に含まれている解答選択肢を選択・入力する入力手段及び/又は解答を示す文字や記号等を手書きにより入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された内容をOMRによる処理が可能な画像データとして保存する画像データ保存手段及び/又は前記入力手段により入力された内容をOCRによる処理が可能な画像データとして保存する画像データ保存手段とを有する解答コンテンツデータ作成手段とを備える、
オンライン試験システム。

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2009年4月20日 (月)

パテントトロール対策についての特許庁の特許制度研究会の議論

パテントトロール対策としての「特許権の差止請求権の権利濫用法理による制限」について、特許庁が設営している特許制度研究会の第2回会合の議事録が特許庁ホームページに掲載されていた。

この議事録を見る限りでは、会合のメンバーは、企業、判事、学者、弁護士、弁理士がバランス良く配置されていると思うし、議論の内容も、特に大企業寄りということもなく、かなりバランス良くなされていると感じた。特に、企業との利害関係の無い判事が参加していることがバランスに寄与していると感じる。

この議事録の中で良いなと思った議論を引用すると次のとおり。

・日米の制度の違いは、日本は原則差止めも損害賠償も認められるのに対し、米国は権利侵害に対する救済は懲罰賠償も含み得る損害賠償が原則で、差止めは裁判官の裁量による例外的措置である点。・eBay判決は米国における一般原則を特許権侵害に当てはめたものにすぎない。日米の制度及び実務の違い、差止めを制限した場合の悪影響を考えて慎重に判断すべき。
・特許権侵害の回避努力にもかかわらず、意図せずに他社の持つ特許権を侵害してしまった場合に、その後ライセンス交渉に誠実に対応しているにもかかわらず事業を差し止められるとしたら不当ではないか。
・差止請求権の行使に対応し、製品における寄与度が低い特許を回避するのは一定期間があれば容易ではないか。
・特許の技術的回避にはそれなりの時間がかかる。差止め実施までの猶予期間を適切に設定できるのであればかなりの問題が解決できるのではないか。
・有償譲渡された特許権による差止めは、目的が実施料収入や損害賠償である場合が多いと思われ、裁判で和解を勧奨されれば解決するのではないか。
・小さな企業が市場拡大・独占を目指す場合には、差止請求権が非常に大事。一方、大企業が小さな企業の特許を無視して大規模な事業活動を行った場合に、eBay判決の4要素を考慮したとして、差止請求が認められ得るのか疑問がある。 ・日本は、各国と比較して進歩性の審査基準が厳しいため、価値のない特許権による弊害は抑制されている。また、裁判において無効の抗弁が認容される場合も多く、製品に対する寄与度を勘案して損害賠償額を算出しているため、米国に比べて高額賠償が出にくいなど、特許権が強力であることの弊害は生じにくい。
・特許権の性質について、従来は所有権類似のものと捉えて差止めを認めてきたが、知的財産が土地や建物などの境界線が明確な物を対象とする所有権とは本質的に異なるとすれば、必ずしも特許権を所有権と同様に考える必要はない。例えば、特許権の行使が権利濫用であるか否かを判断する際に考慮すべき要素を、特許制度特有のものとして規定してもよいと思う。
・日本において、理論的には一定の場合に権利の濫用であるとの理由(いわゆる「権利濫用法理」)により差止請求権を制限する余地はあるが、実務的には制限した場合の代替措置などバランスを取る方策を検討すべき
特許権の効力として将来分の金銭的填補と差止請求はセットで考えるべき。特許権が財産権である以上、代替措置やその後に発生する損失を経済的に填補するような制度を整備しなければ、国民の財産権を保障する憲法の規定に違反することにもなり得る
・裁判実務では、他の法域と同様に、一般原則である権利濫用法理により差止請求権を制限するのは困難ではないか。差止請求が相当でない場合には、特許権を無効または権利範囲を狭いと判断し、問題を回避していると言われている。しかし、これでは侵害自体が否定され、損害賠償まで否定することとなり、行き過ぎたこととなる。権利侵害を認めた場合に権利濫用と判断した事例はないのではないか。したがって、現行制度では損害賠償だけ認めて差止請求を認めないという運用を行うのはかなり難しく、これでは硬直的であり立法措置が必要。例えば、損害賠償請求を原則として例外的な場合に差止請求を認める制度があり得るが、特許権の保護のベースが下がることが懸念される。
・差止めを制限したとしても、特許権侵害として損害賠償を認めている場合には、理論上は侵害行為に刑事罰が適用され得るが、それでは行き過ぎであるため、刑事罰を適用されることのないよう、侵害の違法性を打ち消す目的で、裁定と同様の効果を差止制限に伴わせるような制度設計はできないか。

・事務局より、差止めを認めるかを判断する際の考慮事項として、次の4つの要素を示した。  1)侵害を放置した場合、権利者に回復不能の損害を与えるか  2)損害に対する補償が、金銭賠償のみでは不適切か  3)両当事者の辛苦を勘案して差止めによる救済が適切か  4)差止命令を発行することが公益を害するか  (以上の引用で、太字は当ブログによる)

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2009年4月15日 (水)

ワンタイムパスワードの一方式の発明・特許

ITベンチャーのパスロジ株式会社(所在地:東京都千代田区、代表取締役 小川 秀治)のプレスリリースによると、同社は、この度、トークンレスワンタイムパスワード製品『 PassLogic (パスロジック)』に関する日本では3件目(米国や韓国の特許を含めると6件目)の特許を取得した、らしい。

以下に一部引用。
「「パスロジック方式」は、1997年に発明された技術で2000年に米国特許が成立しています。「パスロジック方式」では、ブラウザ上に表示される乱数表の中から、各ユーザごとに設定されている“位置”および“順番”(この部分が認証情報)で数字を抽出しパスワードを生成します。乱数表は取得するたびに表内の数字が変わるため、認証毎にパスワードが変化する「ワンタイムパスワード」を実現できます
(中略)

【取得済みの Passlogic関連特許】
米国 2000年 「乱数表から抜き出してパスワードを生成するシステム(パスロジック方式)」(US6141751)
日本 2006年 「パスロジック方式に2経路を追加してセキュリティを強化したシステム」(JP3809441)
米国 2007年 「パスロジック方式をシングルサインオンとして利用するシステム」(US7206850)
韓国 2007年 「パスロジック方式に2経路を追加してセキュリティを強化したシステム」(KR10-0716082)
日本 2008年 「パスロジック方式をUSB等のデバイスで利用するシステム」(JP4090251)
日本 2009年 「ユーザが抜き出し位置を登録するシステム」(JP4275080)
※「」内は、特許の内容をわかりやすく表現したもので、実際の特許名称ではありません。」

今回の特許を取得した方式については、ここに詳しい。

また、ワンタイムパスワードの関係で同社が最初に取得した日本特許第3809441号の特許クレームは次のとおり(ちょっと長い)。

【請求項1 】
 認証サーバが、所定のパターンを構成する要素群の中から選択された特定の要素に基づくパスワード導出パターンを登録する登録ステップと、
 認証サーバが、ユーザの情報端末装置から送信された、利用対象システムに割り当てられたシステム識別情報を受け付ける受付ステップと、
 認証サーバが、前記情報端末装置から前記システム識別情報を受け付けた場合に、前記所定のパターンを構成する要素群のそれぞれに所定のキャラクタを割り当てた提示用パターンを生成する生成ステップと、
 認証サーバが、前記情報端末装置に、前記生成した提示用パターンを含む所定の画面を提示させて、前記パスワード導出パターンに対応する特定の要素に割り当てられたキャラクタの入力を前記ユーザに促す入力ステップと、
 認証サーバが、前記利用対象システムから入力された前記キャラクタを受け付け、前記提示用パターンと前記ユーザのパスワード導出パターンとに基づいて、前記受け付けたキャラクタが正当であるか否かを判断する判断ステップと、
 認証サーバが、前記情報端末装置から受け付けたシステム識別情報に基づいて、前記キャラクタを受け付けた前記利用対象システムが正当であるか否かを判断する判断ステップと、
 認証サーバが、前記判断ステップにおいて判断した結果を前記利用対象システムに通知する通知ステップと、
を備えることを特徴とするユーザ認証方法。

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2009年4月10日 (金)

知財高裁への審決取消訴訟の件数などの統計(2007年)

審決取消訴訟(侵害訴訟ではない)の統計(特許のみ)について、少し特許庁ホームページを見たので、纏めておきたい。以下は、特許だけの数字(商標や意匠は含んでいない。ただ、商標や意匠についての審決取消訴訟や無効審判の数は極めて少ない)。

1 「知財高裁への審決取消訴訟」の統計
a.査定系(拒絶査定不服審判、訂正審判など)の審決(請求不成立)取消訴訟
(a1)2007年の査定系(拒絶査定不服審判、訂正審判など)の審決(請求不成立)取消訴訟の出訴件数は、192件
(a2)2007年になされた査定系の審決取消訴訟の全ての判決の件数は、188件、その中の原告勝訴判決の件数は25件で、原告勝訴率は13%(=25件÷188件)。

b.当事者系(無効審判請求など)の審決取消訴訟
(b1)2007年の当事者系(無効審判など)の審決取消訴訟の出訴件数は137件
(b2)2007年になされた当事者系(無効審判など)の審決取消訴訟の全ての判決の件数は、108件、その中の請求棄却(審決維持)判決の件数は79件、請求認容(審決取消)判決の件数は29件。

2 「特許庁審判部への審判請求」の統計
(a)特許拒絶査定不服審判請求の請求件数は、2007年は32,586件。この請求件数の中の半分は前置審査で特許され、残りの半分が審判官による審理に付される。2007年において、前置審査で特許されずに審判官の審理に付されて審判の結果が出た件数は16,725件、その中で請求成立(特許成立)審決が出されたのは前記17,725件中の38%の6,290件、請求不成立の件数は7,963件、審判途中での取下・放棄の件数は2,472件。

(b)無効審判請求の請求件数は、2007年で284件。2007年の無効審判の結果は、請求成立(無効成立)の件数は142件、請求不成立(無効不成立)の件数は82件、審判途中での取下・放棄の件数の35件。

(c)訂正審判請求の請求件数は、2007年で141件。2007年の訂正審判の結果は、請求成立の件数は61件、請求不成立の件数は27件、審判途中での取下・放棄の件数は70件。

3 全ての特許出願(毎年、約40万件程度)の中の審査請求されものに対して最終的に拒絶査定がなされた件数は、2006年は約13万件、2007年は約14.8万件。

以上をまとめると、次のようになる。

1 特許出願に対する全ての拒絶査定は、2006年は約13万件、2007年は約15万件。
 この全ての拒絶査定に対して不服審判請求(査定系・特許法121条)があったのは、2006年は2.6万件、2007年は約3.3万件(割合では、約2.0~2.5%くらい)。

2 また、この拒絶査定不服審判請求に対して請求不成立(拒絶)の審決が為されたのは、2006年は約8千件、2007年は約8千件。
 この全ての請求不成立(拒絶)に対して知的財産高等裁判所への審決取消訴訟(特許法178条)の提起がなされたのは、2006年では217件、2007年では192件(割合では、大体、請求不成立(拒絶)審決の件数全体の約2.5%くらい)。

3 そして、知的財産高等裁判所への「査定系の審決取消訴訟」(2007年の全提訴件数は、192件)における原告勝訴率は、約13%(2007年の原告勝訴判決の件数は、25件)。

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2009年4月 9日 (木)

「ダブル・トラック」解消のための方策(特許無効審判の制限など)

前回の記事で、NHKの番組の中で、特許の有効性に関する「ダブルトラック」の問題が指摘されていた、ということを書いたので、ついでに記しておきたい。

このダブルトラックについては、政府の知財戦略本部で特許法の改正が議論されており、2011年予定の特許法の抜本改正に含める方向らしい。2009/4/5付け日経ネットの記事を次に一部引用。

「特許権紛争、裁判所処理に一本化 特許庁との対立解消へ

政府は特許を巡る紛争の処理迅速化に向けた法改正の検討に入る。特許権の有効性に関し、裁判所と特許庁の判断が対立しかねない現行制度を改め、無駄な紛争の回避につなげる。知的財産戦略本部が6日に決定する2009年度から5年間の「第3期知的財産戦略の基本方針」で二重構造の問題点を明記。特許庁の無効審判制度の制限と、裁判所の判断への一本化を11年に予定する特許法抜本改正に盛り込みたい考えだ。」

 現在の制度では、特許侵害訴訟で原告勝訴の判決が確定して被告から原告に損害賠償金などが支払われても、その後に、敗訴した被告は、原告の特許について特許庁に何回でも無効審判請求を繰り返すことが可能であり(無効審判は理由が異なる限り同一特許について何度でも請求できる)、その結果、特許庁で特許を無効とする審決が確定すれれば、被告は、今度は裁判所に対して「特許庁が特許を無効にしたこと」を理由として再審請求をして、自分が敗訴した確定判決を取り消してもらって、さらに、その確定判決の取消に基づいて自分が既に支払った損害賠償金とその金利(年5%!)を、不当利得などとして原告に返還請求することも可能となっている(原告としては踏んだり蹴ったりになってしまう)が、それを防ぐための方策が入れられるのは、ほぼ間違いないだろう。

方策としては、①判決確定後に原告の特許が無効になっても再審事由にならないとする、などが考えられる。

さらに進めて、②無効審判請求を制限して(特許成立後何年以内というように請求できる期間を定める、回数を定める、などして)、少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を確定させる(少なくとも特許庁との関係では特許の有効性を争えないようにする)、これにより特許の安定性を高める、ということも考えられる。

僕の意見としては、そもそも、当事者対立構造の手続、つまり当事者系の審判(現状では、特許では無効審判のみ)は廃止して、その機能は全部、裁判所に移せばよいのでは、と思う。

なぜなら、当事者対立構造の手続(特許庁審判官が裁判官役になる)は、特許庁審判官は慣れていない(特許庁審判官の多くは、もともとは理科系の学位を持つ審査官から出世した人たちであり、例えば弁論主義や自由心証主義などの教育を十分に受けているようには見えない)と思われるから。こういう手続や考え方は裁判官の方が慣れているし適性があるはずなので、裁判所の方がよい。

他方、査定系の審判(拒絶査定不服審判と訂正審判)は、今までどおり、特許庁でやればよいのではないだろうか。また、査定系としての特許付与後の第三者異議申立ても、昔のように復活させてもよいと思う(知財戦略本部でも議論されている)。この第三者異議申立ては、査定系の手続、つまり、第三者がトリガーを引くことができるが、その後の手続はあくまで特許庁と特許権者との間だけで行う、というものだ。つまり、この第三者異議申立ては、特許後は第三者は誰でも申立てはできるが、いったん手続が始まったら、その手続は、当事者が対立する構造(特許庁審判官は裁判官の役割)ではなく、審査と同じ特許権者と特許庁との間の手続という構造(査定系。第三者はタッチできない)、というものだ。こういう査定系の手続ならば、特許庁は慣れているのでよいと思う。

ダプルトラックによる不都合は、主には3つあると思う。第1は、いつまでも特許の有効性が宙ぶらりんのため、侵害者との関係で特許権者が不当に不利になっている(特許権者が最終的に勝ち抜くことが極めて難しい)ということ。第2は、いったん裁判所に特許侵害訴訟を提起した後は、原告としては、その訴訟への対処だけでなく、被告が提起した特許庁での特許無効審判請求への対処も必要になってしまう、つまり、提訴したら直ぐに、裁判所だけでなく特許庁へも戦線が拡大してしまうので、特に中小企業や個人にとっては、弁護士費用や手間などで過大な負担になってしまう、ということだ。以上の2つは特許権者にとっての不都合だが、第3に、裁判所などを含めての不都合として、紛争が長引いてしまうということもある。

追記: なお、上記のように、(a)原告勝訴判決が確定した後に特許庁による特許無効審決が確定したことは再審事由にならないというように法改正をするのなら、(b)原告勝訴判決が確定した後に特許訂正審判が確定した結果として特許請求の範囲が前の確定判決における被告製品をカバーしないものとなってしまった場合でも、そのことは再審事由とはならない、ということも法改正に含める必要がある。なぜなら、特許無効と特許訂正とで、同じように扱わないと、バランスがとれないからだ。

なお、上記と逆のケース、つまり、(c)原告の特許が訴訟において無効と判断されて原告敗訴判決が確定した後に原告による特許訂正審判請求が認められて訂正審判が確定した結果として特許が有効と判断されるようになった(しかも、訂正後の特許請求の範囲も以前として被告製品をカバーしている)場合でも、そのことは、特許法104条の3第2項の趣旨から原則として再審事由とはならない(正確には、再審事由が存在するとしてその判断を争うことは許されない)、というのが最高裁判例だ(最判平成20年4月24日平18(受)1772「ナイフの加工装置事件」)。

また、2009/3/2付けの「社内弁理士のチャレンジクレーム」にこの問題に関する記事があったのを発見したので、その一部を次に引用しておく。

「「特許侵害訴訟後に無効審決が確定した場合、再審事由となるか」という問題は、日本で「海苔異物除去装置事件」などに関連し活発に議論されている。この状況は米国でも同じなのだろうか。なぜなら米国でも訴訟と再審査の両方で特許の有効性を争うというダブルトラックが存在しているためである。

この問題について聴講者の方から質問がなされ、セミナー講師の工藤敏隆弁護士は「米国では訴訟において特許の有効性を争うのが基本であるため、特許訴訟後に無効審決が確定した場合であっても再審事由にはならない」と回答された。ただし、この点が実際に争われた事件は未だないという。

このように米国では訴訟の優位が明確であるため、ダブルトラック問題が生じないのだろうか。この点に関連し聴講者の方が「日本では特許権者による訂正審判・訂正請求の多用がダブルトラック問題の要因となっている。米国では訂正のための再発行などはあまり用いられていない。これが米国でダブルトラック問題が生じない理由ではないか。」という旨の発言をされた。」

このブログでは、訂正審判が、ダブルトラックが問題となる大きな要因だと主張している。確かに、裁判所などを含めての紛争の長期化という面では、それはあるだろう。

しかし、ダブルトラックの問題の本質(最大の不都合)は、特許権者と侵害者との間で特許権者が不当に立場が弱くなっているということだ。つまり、特許権者・原告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での訂正審判があり、被告側の武器としては①訴訟での攻撃防御、②特許庁での無効審判があるが、特に、訴訟の中で被告側による特許の無効主張が可能になった結果(また、一般に、訂正審判よりも無効審判の方が強力である結果)、原告と被告との間で、武器としてのバランスが取れていない、ということが本質的な問題だと思う。

そして、訂正審判は原告側がイニシアチブを取ってやれることなので、原告は、弁護士費用なども考えて、戦線を訴訟以外には拡大したくないと思えば、特許庁への訂正審判をしなければよいし、それは自由に選択できる(被告による訴訟中での無効主張に対抗するために、つまり「再抗弁」を主張するために、特許庁への訂正審判請求をすることも当然にあってよい)。被告としては、特許庁への無効審判請求ができなくなっても、裁判の中で特許無効の主張はいくらでもできるのだから、特に不利になることは全く無い、と思う。

以上より、「被告側の無効審判請求は制限する、原告側の訂正審判はそのまま制限しない」としても、両者の武器のバランスを考えると、ちょうどよいのでは、と思う。

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NHKの「特許が危ない 知財高裁5年目の課題」を見て

2009/4/9深夜のNHKの「今日のニュース&スポーツ」の中の「特許が危ない 知財高裁5年目の課題」を見たが、その内容は次のようなものだった。

1 知財高裁が発足して5年目になったが、特許侵害訴訟の事件の中で、知財高裁(あるいは知財高裁を含めた裁判所?)により特許を無効と判断した判決は、2005年は31.9%、2006年は51.4%、2007年は42.1%、2008年は46.4%となっている(テレビを見ながらメモしました)。

要するに、特許侵害訴訟を提起したら、原告の特許は、だいたい50%くらいの確率で、無効と判断されてしまうようだ。

2 知財高裁が特許を無効と判断した事件の例として、携帯電話のマナーモードでの着信時のバイブレーション機能について、モーターにより回転する回転板?をわざわざ真円状にしないで偏って回転させることによりブルブルと振動させる発明について、それは自明だから進歩性がなく無効だとした例があるが、そもそも「自明」というのは何かが疑問だ、と解説委員が話していた。

私見としては、これだけで裁判所の判断が不当と決めることはできない、例えば、「モーターにより回転する回転板?をわざわざ真円状にしないで偏って回転させることによりブルブルと振動させる」という技術は既に公知で、「その公知技術を単に携帯電話に適用したこと」が発明の本体であるならば、それは容易・自明だから進歩性がないと判断したのかもしれない。

※この番組の内容を示すブログ(開設委員室)が開設されていたので、一部を引用しておく。

「・・・例えば、携帯電話をマナーモードにすると、呼び出し音が鳴らない代わりに、電話機がブルブルと震えて着信を知らせますが、ブルブルッと震えるのは、モーターに円盤を付けて回転させる際に、わざと不完全な円盤を組み込んで回転を不均衡にさせて振動を起こしています
しかし裁判所は、完全な円盤で振動しないなら、円盤を変形させれば振動が起きるのは自明のことだとしまして、特許庁が認めた特許を覆したという事例があります。特許を巡る裁判は様々な要素が絡み合って極めて複雑なので、余り単純化するのは危険ですが、こういう事例を見ると、「自明のことである」という判断そのものがどこかおかしいと思わざるを得ません。
新しい技術や見たこともない新製品のすべてが、100%新しく革新的なわけではありません。現実のものづくりの世界では、業界の常識をちょっと変えてみるとか、発想を少し転換させることによって、世の中に役に立つ技術が生まれることの方が多いのです。

アメリカ大陸を発見したコロンブスが、「いずれ誰かが見つけていたことだ」という皮肉に対して、「この机の上に卵を立ててみろ」と言い返したといいます。
そしてコロンブスは、誰も立てられなかった卵を立ててみせました。
実際には卵の底を潰して立てたのですが、この話の教訓は、あとから種明かしをされれば、「何だ」ということでも、発想を転換させて最初に立ててみせる事こそが重要なのだという点にあります。しかし携帯電話の事例に見られる裁判所の判断には、コロンブスの卵をそもそも認めない姿勢が窺えます。

もう一つ重要なのは、どんなに素晴らしい発明も、多くの場合、時間が経てば、当たり前のことと見做してしまう傾向がある点です。いわゆる「あと知恵」です。だからこそ特許の有効性を判断する立場にある特許庁や裁判所は、あと知恵という罠があることを常に自覚する必要があります。」(太字は当ブログによる)

上記の引用のように、解説委員は、知財高裁の進歩性判断について批判している。しかし、進歩性はかなり専門的な内容なので、学者や専門家に聞いたりして調べたのだろう。

また、上記の「コロンブスの卵」(あとから種明かしをされれば、「何だ」ということでも、発想を転換させて最初に立ててみせる事こそが重要)と、「後知恵」(どんなに素晴らしい発明も、多くの場合、時間が経てば、当たり前のことと見做してしまう傾向がある)とは、僕は同じことを言ってる問題だと思ってたが、この解説委員は別の問題だと捉えて、話していたようだ。

3 解説委員は、コロンブスの卵のような発明も大切、後智恵で考えれば簡単に思えてもなかなか思い付かないアイデアもあり、そのようなアイデアは保護されるべきだ、というような発言もしていた。

4 特許侵害訴訟が提起されたら、特許の有効性が裁判所と特許庁の双方で争われる「ダブルトラック」により特許の有効性がいつまでも宙ぶらりんのままになってしまうという問題も指摘していた。

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