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2009年9月の2件の記事

2009年9月11日 (金)

特許無効審決の効力を遡及効から将来効へ?(ダブルトラックの弊害の解消策)

ダブルトラック(特許の有効性判断が侵害訴訟と特許庁での無効審判との2つのルートで行われ得ること)の弊害の解消策が、特許法改正の重要論点となっている。

この問題は、手続の進行段階により、

裁判所で侵害訴訟を行っている段階において、それと並行して特許庁での無効審判請求がなされると、2つのルートから特許の有効性を攻撃できる被告と比較して原告(特許権者)が不利であり不公平ではないか(また、原告としては特許侵害訴訟を提起しただけなのに、被告の出方によって特許無効審判やその審決取消訴訟などまで戦線が拡大してしまい、弁護士費用などが予想外に膨れ上がってしまう)という問題と、

侵害訴訟の原告(特許権者)勝訴判決が確定した後の段階において、その後に被告が無効審判請求を何回も繰り返した結果、無効審決が確定したら、現行法では再審により確定した勝訴判決が覆ってしまうが、それは原告(特許権者)に酷ではないかという問題と、の2つがある。

これらについて、知財高裁判事などもメンバーとなっている特許庁の特許制度研究会(第4回)で高度な議論が展開されている。

①については、特許侵害訴訟を行っているときは、特許無効審判請求を禁止したらどうかという意見が有力のようだ。

例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理の下、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能とすべきという意見。あるいは、侵害訴訟で特許庁の知見を活かすにも、求意見制度などによれば足り、わざわざ無効審判を並走させる必要はないという意見。

②については、無効審決の効力を現行の遡及効から将来効に変更したらどうかという意見が有力のようだ。将来効にしたら、無効審決の前に確定した侵害訴訟の判決が覆ることはなくなるからだ。

例えば、侵害訴訟では特許の有効性を判断できなかった過去の制度を前提とすれば、事後の審決確定が再審事由となるのは自然。しかし、特許法104条の3が導入され、侵害訴訟で特許の有効性が判断できる現在の制度を前提にしても、事後の審決確定が再審事由に該当すると考えるべきか、または、特許の有効性が判断された侵害訴訟の確定判決は事後の審決確定によっても覆らないとすべきかという問題だという意見。また、侵害訴訟とその後の無効審判での結論が異なる原因には、1)公知技術に関する新たな証拠の発見と、2)侵害訴訟ルートと無効審判ルートとの純粋な判断齟齬による場合が考えられる。最終的には、1)については後出しであるとして、また、2)については侵害訴訟で無効の抗弁を主張する機会が与えられていたとして、蒸し返しを制限するかどうかという価値判断の問題という意見。

以下は私見。

もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正するなら、無効審決の対世効の規定が憲法違反ではないかという問題は解消されるだろう。憲法違反の主張は、対世効が遡及効を含むからこそ問題にしていたのだろうから。将来効だけなら、無効審決も、通常の行政処分の一つに過ぎない。

また、もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正しても、侵害訴訟での無効判断は遡及効を有するまま、とする必要がある(まぁ当然だけど)。なぜなら、差止め請求だけなら将来効だけでよいのだが、損害賠償の問題を判断するには遡及効が必要だから。だから、もし無効審決の効力を遡及効から将来効に法改正して、その後に特許庁での無効審決(将来効)が確定したという場合でも、特許侵害に基づく損害賠償請求訴訟が提起されたら、その裁判の中で特許の無効判断(遡及効)を改めて行う必要がある。差止め請求だけの訴訟なら、無効判断は不要(というか、そもそも、特許無効審決が確定した後に差止め請求をする人はいないだろうけど。これに対して、特許無効審決(将来効のみ)が確定した後でも損害賠償請求する人はかなりいるだろう)。

以下に、特許庁ホームページより、特許庁の特許制度研究会(第4回)の議論の一部を引用しておく。

①についての議論の一部の引用

○ キルビー最高裁判決2及び特許法104条の3は、紛争を一回的に解決することが望ましいという理念に基づく。しかし、侵害訴訟の被告の多くは無効審判も請求するため、2つのルートの利用により紛争処理の結果の予測が困難になり、侵害訴訟が紛争解決システムとして機能しなくなっている。現行制度は同じ証拠・理由であっても侵害訴訟の被告に特許を無効とするチャンスを二重に与えており、特許権者に一方的に不利な状況。侵害訴訟か無効審判かのどちらかに絞るのではなく、104条の3によって生じる特許権者のリスクを軽減させる立法措置を講ずるべき

○ 制度としては、特許権の有効な権利範囲の迅速な確定とともに、シンプルで正確かつバランスの取れたシステムが望ましい。例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理の下、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能とし、侵害訴訟における特許無効の判断には対世効を持たせるべき。特許無効の判断の効果は将来のみに及ぶとすれば問題ない。

○ 当事者は、無効審判よりも侵害訴訟の方に力を投じていることが多い。また、特許の有効性の判断は侵害訴訟に集約した方が効率的であると考える。死力を尽くした侵害訴訟での結果については、現状よりも強い効力を当事者間に及ぼしてもよい。

○ 無効審判制度に存在意義はあるが、侵害訴訟で有効性判断をしている場合も敢えて全件について無効審判をやることに意味はあるのか。侵害訴訟で特許庁の知見を活かすにも、求意見制度などによれば足り、わざわざ無効審判を並走させる必要はない。

②についての議論の一部を引用

○ 最終的に決め手となるのは再審の在り方をどうするかである。事後の審決確定が侵害訴訟の再審事由に当たることを認めるかどうかにより、今回議論している他の問題も全て影響を受ける。特許無効の審決の遡及効の考え方を徹底するのか、既存の紛争解決の結果を尊重するのかという現実的な問題であるのみならず、理論的には、特許の効力をどのように考えるべきかという問題である。侵害訴訟では特許の有効性を判断できなかった過去の制度を前提とすれば、事後の審決確定が再審事由となるのは自然。しかし、特許法104条の3が導入され、侵害訴訟で特許の有効性が判断できる現在の制度を前提にしても、事後の審決確定が再審事由に該当すると考えるべきか、または、特許の有効性が判断された侵害訴訟の確定判決は事後の審決確定によっても覆らないとすべきかという問題。制度利用者はどちらを望むのか。

○ 侵害訴訟とその後の無効審判での結論が異なる原因には、1)公知技術に関する新たな証拠の発見と、2)侵害訴訟ルートと無効審判ルートとの純粋な判断齟齬による場合が考えられる。最終的には、1)については後出しであるとして、また、2)については侵害訴訟で無効の抗弁を主張する機会が与えられていたとして、蒸し返しを制限するかどうかという価値判断の問題。公益的な側面と手続的な側面のいずれを強調するかという価値判断とも言える。

現行制度下においては訴訟で特許無効の抗弁および訂正の再抗弁が主張できるのであるから、侵害訴訟判決確定後に再度争う余地を認める必要はない

○ 無効になる確率は、判断基準のばらつきと、新しい証拠の出現に依存する。後者が大きく影響しているのなら、それを制限するという案もある。特許の質に大きく影響する可能性も懸念されるが、一回の紛争処理手続の中で無効理由が出せなければ、無効理由に関する証拠の後出しは認めないという整理もあり得る

○ 侵害訴訟判決確定後に、被告であった者が無効審判を請求することは日常的にあり得る。確定判決が後に覆る可能性があるということは、侵害訴訟は安心感のない紛争解決手段であることを意味し、紛争解決モデルとして問題があることを意味するため、再審は制限されるべき。

○ 日本の特許権は、侵害訴訟で勝っても後に特許が無効化され、権利行使の結果が覆される潜在的なリスクが高いというイメージから、日本での出願を見送るという国際的な動きもあると聞いている。無効審判を廃止すべきとまではいわないが、侵害訴訟で徹底的に争ったら、それで紛争解決は終結し、再審にはならないとした方が良いのではないか。

無効審決の効果は遡及すると定める特許法125条を改正し、将来効のみとするのはどうか。その場合であっても、過去に命じられた差止めが将来にわたって継続するという問題が残るが、それを無効にするための法律上の手当を行えばよい。権利が無効になっても、過去に支払ったライセンス契約のロイヤルティの返還義務はないとするのが有力説であり、すでに特許が無効となった場合の効果を将来のみに及ばせる考え方は存在。

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拒絶査定不服審判請求の特許印紙代は出願人に返還すべきでは?

特許出願に対して審査官が拒絶査定を出したとき、まだ粘ろうとすれば、不服審判請求をやるしかない。

しかし、特許庁に対して拒絶査定不服審判請求をやるとき、その特許印紙代は、例えば請求項の数が50個なら、「49,500円+請求項の数×5,500円」の計算式から、324,500円となってしまう。

通常の出願は請求項の数が5-10個くらいが多く、その場合は、不服審判請求の印紙代は10万円かそれ以下で済む。しかし、請求項の数が50個くらいの出願も結構あり、その場合は、30数万円の特許印紙代を納付しなくてはならない。

しかし、そもそも、特許庁審査官の拒絶査定という行政処分に対する不服審判請求について、何故、出願人側が特許印紙代を支払う必要があるのだろうか?

不服審判請求をする場合というのは、(a)審査官の処分が実際にも不当であった場合と、(b)審査官の処分は実際には妥当なのに出願人側が不当だと誤解していた場合と、の2つがありえる。

実際にどっちだったかは、後に、審判請求の結果である審決により、又は、この審決に対する取消訴訟の判決(知財高裁による)により、はっきりと、判明する。

少なくとも、(a)のケースだった、すなわち、審査官の拒絶査定が実際に不当であった(審査官が妥当な処分をしていれば出願人は不服審判請求をしなくて済んだはず)という場合は、特許庁は、審判請求の特許印紙代を出願人に返還すきべだろう。

すなわち、行政処分に対する不服審判請求の制度は、税務署や公正取引委員会にもあるが、いずれも、官庁に支払う印紙代などは、全く必要はない。例えば、独占禁止法52条は、公正取引委員会の処分(排除措置命令と課徴金納付命令)に対する審判請求を定めているが、所定の審判請求書を出すだけで、印紙代などは必要ない。

では、なぜ、特許庁の処分に対する不服審判請求だけ、費用が必要だとしているのか。それは、おそらく、特許庁の仕事は、最初に出願人が出願という積極的なアクションを行って(このときも印紙代が必要)、それに対する応答として審査官が審査の処分を下すという構造をとっているため、拒絶査定不服審判請求の段階でも、漫然と印紙代が必要だと定めているのだろう。

これに対して、税務署や公正取引委員会の処分は、国民の側から最初に役所に積極的に処分を要請するのではなく、役所の方が勝手に国民に対して行政処分をするのであるから、それに対して国民の側(国民から見ると不当な行政処分の被害者の側)から不服審判請求をするためには印紙代が必要だとすると、国民は怒り狂うだろう。

そういう違いがあるのだろう。

だから、特許庁の拒絶査定不服審判請求の費用は、裁判と似た構造だと思う。裁判でも、最初にアクションを起こす原告が、まず最初に印紙代を裁判所に支払う。しかし、裁判では、原告と被告とのいずれか負けた方(つまり不当であるとされた方)が、最終的に印紙代などの訴訟費用を負担することになっている(判決でそれも定める)。つまり、印紙代は、最初に原告が支払うが、それは「仮の支払い」であって、裁判で負けた側(悪いことをしたか間違った判断をしていた方)が、印紙代を最終的に負担することになっている。

この裁判における印紙代の支払い義務の分配は妥当・公平と思うが、そうだとすれば、特許庁での不服審判請求でも、審査官の処分と出願人側の判断とのどちらが正しいかを争うのだから、負けた方がその費用を負担するのが妥当・公平のはずだ。よって、不服審判請求で出願人が勝ったときは、負けた側つまり不当な処分をした審査官の側(特許庁)が印紙代を最終的に負担すべきだから、特許庁は、最初に出願人が仮に支払った印紙代(審判請求の費用)を、出願人に返還すべきだと思う。そのように特許法を改正すべきだろう。

以上は、最近、個人的に50個くらいの請求項の出願をしてて、それ対して拒絶査定が来てしまったので、高額の印紙代にびっくりして、じっくり考えたことだ。この件については今もうまい手はないか思案中だ(審判請求時に補正して請求項の数を少なくすれば印紙代も安くできるが、もともと権利を十分に確保するために請求項の数を50個にしたのだから)。

ただ、この個別の件は離れて、不服審判請求の費用負担の一般的な問題として上記のことについては特許法の法改正を検討すべきと思ったので、民主党の議員かどこかに、法改正の話をもって行ってみようと考えている(民主党本部へのメール送信はやっておいた)。議員の知り合いは全く居ないし、こういうことはやったことがないんだけどw

追記: コメントを頂いて考えたことを追記しておきます(2009/9/30)。

A  要するに、審査官の拒絶査定が不当であり、もし正当な審査を行っていれば拒絶査定不服審判を行う必要は無かった(印紙代を支払う必要は無かった)といえる場合は、印紙代の返還はあるべきと思う。
その場合とは、①「審判請求時の補正」が無かった場合、②「審判請求時の補正」はあったが、拒絶査定の理由とは関係ない部分の補正だったなど、その補正があってもなくてもいずれでも特許審決が出ただろうと言える場合、などがあると思う。

B  もし、このような、出願人に印紙代を返還するという制度にするときは、審判請求の印紙代については審判請求時には特許庁は「預かり金(供託金)」として出願人から受け入れておいて、審決で審査官の審査は正当だったと確定した段階で国庫に帰属させるという方法が考えられる(コメントで知ったが、印紙代は、いったん国庫に帰属させると返還の手続が大変なようなので)。

C  それから、もし、このような「印紙代の返還」が制度化されれば、印紙代の返還をも視野に入れる出願人側としては、拒絶査定を受けた後に不服審判請求をするとき、補正をしても余り意味がないと思えるときは、「審判請求時の補正」を全くしないで不服審判請求だけをするというケースが増えるだろう。それは、不服審判の事件を、前置審査(拒絶査定をした審査官が関与するもの)を介すことなく直接に審判官のところに持っていくことになるので、不服審判のためのトータルの期間を短縮させ手間(特許庁と出願人側の手間)を軽減させることに繋がるという制度上のメリットを生むと思う。

D  他方、こういう「印紙代の返還」の制度を作ると、審査官が(印紙代の返還に繋がる拒絶査定を避けて)萎縮して安易に特許査定を乱発するようになるのではないかというデメリットが考えられる。これに対しては、審査官が自信を持って拒絶査定ができない(しかし特許査定もおかしいと感じている)ような難しいケースについては、例えば、(a)審判と同様に3人の審査官のチーム(合議体)で審査するようにする、(b)審査官の裁量で上級の審判官に事件を移したり、審査官が担当したまま審査官が上級の審判官の意見を聴取できるようにする(侵害訴訟の中で裁判所が特許庁の意見を求める「求意見制度」と同じようなもの。できたら、出願人と審判官と直接のやり取りも認める)、などの対策が可能と思う。

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