個人発明家も「パテントトロール」なのか? 特許法の目的は「産業発達」だけなのか?
個人発明家も「パテントトロール」なのか? 特許法の目的は「産業発達」だけなのか?
1.個人発明家が大企業を相手に裁判をしたら産業発達を阻害するのか?
「パテントトロール」(特許の怪物と翻訳されている)という言葉の定義ははっきりしていないが、自己実施していない(自分で製品を製造販売していない)企業体(個人発明家・街の研究所・大学など)が大企業を相手に特許訴訟することを一律に「パテントトロール」だと見做して、そのような訴訟は制限すべきだという意見がある。
確かに、個人発明家が大企業を訴えて差止めや損害賠償が認められたら、その大企業とその下請けの中小企業は困る。その限りでは、産業発達、特に「大企業とその下請け企業の発展」を阻害する。
2.特許法が目的とする「産業発達」とは何か?
しかし、「自己実施していない個人発明家は産業発達に寄与していない」というが、そもそも特許法の目的は「産業発達」だけなのか? また、その「産業発達」とは「現在の大企業中心の産業発達」だけなのか?
そもそも、特許法は、憲法の立場から見れば、憲法の理念を実現するために、民法の特別法として認められた「多くの駒の中の一つ」に過ぎない。
憲法の理念、つまり、社会全体の福祉の増進(社会を構成する個々人の幸福の追求と実現)という目的(憲法13条)から見れば、産業発達などはそのための「多くの手段の中の一つ」に過ぎない。
ましてや、「大企業(及びその下請企業)の発展」だけが産業発達ではない。「大企業・ガリバー企業中心の発展」だけを望むなら、独占禁止法など無い方がよい。
特許法が目的とする「産業発達」とは、「現在の大企業中心の産業発達」だけを意味するのではなく、いやむしろ、「これから個人や小企業が創り出すかもしれない将来の産業の発達」をこそ意味しているのではないだろうか?
3.特許法は社会の中に突然変異や下克上を誘発させるための手段・仕掛け(特許法の目的は「産業発達」だけか?)
これは僕の昔からの仮説なのだが、そもそも特許法は、憲法の理念をも踏まえて見るなら、社会の中に突然変異や下克上を誘発させて、社会のダイナミズムを引き出す仕掛けを内包させるためのものではないだろうか。
この仕掛けを有効に活用することにより、社会全体の発展と社会を構成する個々人の幸福増進を図ること、社会の中に突然変異や下克上を誘発させて、社会のダイナミズムを引き出す仕掛けを用意することをも、特許法が憲法から期待されているのではないだろうか。
青色発光ダイオードの発明の対価で出身企業(日亜化学)と裁判で争った中村修二さんの件は、確かに出身企業を初めとする企業に対してはマイナスを与え、近視眼的意味では「産業発達を阻害した」と思うが、日本の社会全体やその将来の産業(金融やサービスなどを含む全て)にとっては、1つの風穴を開けたという意味でプラスになった(巨視的な意味では「産業発達に貢献した」)と思う。
個人が大企業と裁判をすることは、日本社会に風穴を開ける効果はあるし、それがひいては「産業発達」に対して巨視的な意味でのプラスを与えることもあるのではないだろうか。
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