カテゴリー「個人発明家のビジネスモデル」の5件の記事

2008年12月14日 (日)

特許はハイウェイの関所

今年も後少しですね。

今年は、特に良いことは無かったけど、今年の初め頃は手持ちの特許は10件だったけど、今年の間に11件増えて、今は計21件になりました。来年もこのペースで行くだろうから、多分、来年の後半には30件を超えると思います。

今の僕の手持ちの特許は、ほとんどが未だ実用化されてないもので、実用化にはあと2年から5年くらい掛かるものが多い。だから、今は、企業へのライセンスより先に、手持ちの特許の数を増やして行く時期なのだと思っています。

手持ちの特許が30件くらいになってくる頃になれば、そのうち、徐々に大企業から声が掛かってくるのではないかと予想(期待)しています。

大企業が僕の特許を意識しているかどうか、サッパリ分かりません。意識しててチェックしているのかも知れないし、全く眼中になく僕の一人相撲なだけかも知れません。

僕の個人発明家のビジネスモデルは、ハイウェイの関所を目指す、ということです。例えば九州から東京を目指して車で行くときを考えると、一般道路を通るだけではまず無理で、必ず高速道路を通らざるを得ない。そのとき、網の目状の一般道路のどこかに関所を設けててもスルーされるので全く意味ありませんが、高速道路のどこかに関所を設けておけば必ずその関所を通らなくてはならない。製品化の道筋が高速道路とすれば、そのために必ず通らなければならない部分に特許(必須特許)を取っておけば、大企業は必ずライセンス契約を結ぶしかなくなります。

まあ、僕はそういう戦略で今までやってきましたが、どうなるかな、その答えは早ければ来年中にも出るのでしょう。

なお、「大企業へのライセンスを目指す発明家」とは、大企業と発明分野が競合している発明家という意味です。「大企業へのライセンス型発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえますが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえます。その意味でも、「大企業へのライセンス型発明家」は、通常のパテント・トロールとは違うと思います。

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2008年9月21日 (日)

発明活動のレベルアップ

僕が本格的に発明と特許出願に取り組み始めたのは約10年前からなのだが、その頃と今とでは、発明活動のレベルが様変わりという気がする。「発明を取り巻く環境」ではない。「発明を取り巻く環境」が、IT、特許データベース、検索技術、英語環境、国家の知財政策などの社会のレベルアップと一緒に様変わりしたのは当然だ。

そういう「発明を取り巻く環境」だけではなく、「発明活動」そのものも様変わりしたと感じる。
僕自身は特に様変わりしていなくて、今でも10年前と同じように発明して調査して進歩性がありそうなら出願しているのだが、そういうことをしている中で、企業の発明活動そのものが相当レベルアップしたと感じる。

かなり昔からもあったようだが、最近は、中堅以上の企業で、ブレインストーミングを行って、自社の事業とは関係ないものまで色々なアイデアを捻り出して、その中から良さそうなものは調査した上で出願するということを行っている企業がかなりあるらしい。企業に対してこういう活動を提案・コンサルティングして特許明細書作成の仕事の受注に結びつける特許事務所も最近はあるようだ。

昔は、特にメーカーの多くは、特許出願を自社の事業ドメインに限定していたと思う。それが、最近は、自社の事業とは関係ない特許を取ろうとして、そのための発明会議まで開いている。このような、企業が自社の事業と関係ないものまでアイデアを探して出願するというのは、要するに企業が個人発明家と同じことをやり始めたということで、競争が激しくなるはずだし、レベルアップもするはずだ。

しかし、これは企業の活動として妥当だろうか? 企業は、「自社が事業化しようとする商品・サービスの特許」を取るのと、「(自社はやらないが)他社が事業化するであろう商品・サービスの特許」を取るのと、どちらが得なのか?

この問題は、個人発明家についてもそのまま当てはまる問題だ。個人発明家は、「自分が事業化しようとする商品・サービスの特許」を取るのと、「自分は事業化しないが企業(特に大企業)が事業化するであろう商品・サービスの特許」を取るのと、どちらがよいか?これは、僕が以前に「個人発明家のビジネスモデル」で書いたテーマだ。僕は後者(個人発明家のビジネスモデルの2番目)を狙っているが、自分で事業をやりたい人や経営が向いている人は前者の方がよいと思う。

企業も同じだろう。企業の中には、本業よりも不動産などの財テクで儲けたり、知財で儲ける方が得意だという企業もあるので、そういう企業は後者の発明を狙うのもよいと思う。そうなると、完全に個人発明家のビジネスモデルの2番目を企業が採用していることになり、そういう知財で儲けることを狙う企業と、個人発明家と、ライセンス料の収奪を狙われる大企業との3者が、正面から発明競争をすることになる。

もう一つ、考えたことがある。特許の本質とは何か、ということだ。

個人発明家のビジネスモデルの2番目の戦略は、より特許の本質に即した戦略だということができるだろう。

なお、「大企業へのライセンスを目指す発明家」とは、大企業と発明分野が競合している発明家という意味だ。「大企業へのライセンス型発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえるが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえる。その意味でも、「大企業へのライセンス型発明家」は、通常のパテント・トロールとは違うと思う。

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2008年8月31日 (日)

最近の発明(発明の方法論)

最近は発明を思い付くことが少なくなったが、それでも、1か月に1個くらいは思い付く。しかし、最近は、出願することが極めて少ない。というか、出願に値する発明が極めて少ないのだ。それだけ発明のカンが鈍っているのだろう。そういう、自分のダメな発明の一つを、今回は書いてみたい。

今年の初め頃、親戚の通夜があって行ったのだが、そこは本当の山奥だった。僕も田舎育ちだが、通夜から帰る時の夜9時頃の、そのあたりの「漆黒の闇」は経験したことが無かった(子供の頃はあったかもしれないが、全く忘れていた)。通夜のあった家から車を置いてある場所まで約100mくらいを移動するとき、月も星も出てなくて、周囲に全く照明がないので、道が全く見えない。自分の手も見えない。通夜に来たときはまだ少し明るかったので、道の側に溝があったと記憶していたが、その溝がどこにあるのか、道がどこにあるのか、全く見えなくて、慣れている近所の人に先導してもらったが、すごく怖かった。

このときの経験が元で、緊急の場合など何時でもでも使える懐中電灯が欲しい、携帯電話に内蔵させれば良い、と思い付いた。「携帯電話+懐中電灯」、これで発明は完成だ。付加的要素として、LCD(液晶表示装置)のバックライトの光の一部をある部分に集中させて照射させるようにしてもよい。このくらいは、20~30秒で思い付いた。

それで、IPDLで先行公報を検索してみた(キーワードは「携帯電話」と「懐中電灯」のみ)。そしたら、既に日本電気グループが出願していた。

ただ、この調査をやる前に、自分では、「出願しても市場性・ニーズはないのでは?」と思っていた。なぜなら、僕は上記の山奥での経験で懐中電灯が欲しいと思ったのだが、そんな山奥に住んでいる人はどのくらい居る? 今の日本では人口の半分以上は首都圏・近畿圏・東海圏の3大都市圏が占めているというし、地方都市でも24時間化は進んでいる。とすると、あえて懐中電灯を必要とする場面は極めて限られているように思われた(まあ、外国、特に発展途上国などでは需要はあるだろうが、外国出願は費用の点で難しい)。それで、あまり調査には気が乗らなかったのだが、類似の先行公報は直ぐに見つかった。

検索して得られた先行公報は20~30件あった。普通はここで、ああダメかで終わることが多いのだが、今回は、これらの先行公報を少し検討してみた。そして、先行公報の中の一番古い埼玉日本電気の出願(特開平10-215302号)と、同じ日本電気のグループ会社(NECアクセステクニカ)の出願(特開2004-153571号)の2つに注目した。前者は審査請求をして拒絶査定となっていた。後者は、拒絶査定になった後に拒絶査定不服審判請求(不服2006-15655)をしてなお特許化しようとしつこく頑張っている(現在進行形)。

このように、審査請求や拒絶査定不服審判請求などのコストを掛けても権利化を目指していることから考えると、日本電気側の知財部や事業部は、この「携帯電話+懐中電灯」の発明は市場性・ニーズがあると考えているようだ。それは何故か。

後者のNECアクセステクニカの出願(特開2004-153571号)の公報を見ると、暗所中での動画撮影を可能にすることを中心としているが、携帯電話のストロボを連続点灯させることにより懐中電灯代わりにすることもポイントにしており、「暗部での鍵穴の確認や探し物などに便利だ」とある。また、地震のときも懐中電灯は必要。そういうニーズは、田舎だけではないというか、都会の方にこそあるのかもしれない。

僕の場合、自分が発明したとき、気になった先行公報は、このように、IPDLで、その出願経過などまで見ることが多い。特にそれが大企業の場合は。そして、出願経過を見ながら、その大企業の知財部や事業部(勝手に自分のライバルと見立てている)がどのようなことを考えてそういう手続をしたのか、推測してみる。

僕は前に書いたように個人発明家のビジネスモデルの2番目を目指しているのだが、そのためには、つまり大企業と同じ技術分野で発明して競り勝っていくためには、「方向性」と「スピード」が最も大切だと思っている。「方向性」については、今回のように、自分の発明と類似のものをIPDLで検索して、大企業も自分と同じ発明をしているかどうか、審査請求もしているかどうか、で検証できる。

つまり、自分の発明と同じ発明を自分の前にも後にも大企業が出願していない場合、又は出願していても審査請求はしないで見做し取下で終わらせている場合は、大企業はその発明は市場性・ニーズが無いと見ている(市場性はあるがコストなどで実現できないとか進歩性がないと見ている可能性もある)と予測できる訳で、もし自分がそういう発明(市場性・ニーズが無い発明)をしていたなら、自分の「方向性」が間違っている可能性が高いのだから、自分の発明センス(方向性)を修正して行く必要がある。

他方、自分の発明と同じ発明を自分の前か後に大企業も出願しており且つ審査請求などのコストも掛けている場合は、大企業もその発明の市場性・ニーズはあると見ていると予測できるから、少なくとも方向性は正しい。しかも、もし、その発明について大企業よりも自分の方が早く出願している場合は、その発明は大金星となる可能性が高いので、何としても特許化すべきだろう。

また、自分の発明と同じ発明を大企業が自分よりも早く出願していた場合は、自分の発明は少なくとも「方向性」は正しかったが「スピード」で負けたということだから、スピードを上げるように頑張れば良い訳で、頑張ればスピード勝負でも勝てる可能性はあるということだ(とはいっても、今回の発明では、埼玉日本電気は12年前の出願で、僕の方が遅れたといっても12年はダメすぎだが)。

このように、僕は、自分の発明をするとき、自分の仕事の専門などは考えないで、日常生活の中でのニーズの発見を重視している。そして、そのニーズによる発明の「方向性」が正しいかどうか、「スピード」はどうか、を常に検証するようにしている。それが、僕の発明の方法論なのである。

なお、前述のような「大企業へのライセンスを目指す」とは、大企業と発明分野が競合している発明を目指すという意味だ。「大企業へのライセンスを目指す発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえるが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえる。その意味でも、大企業へのライセンスを目指す発明家は、通常のパテントトロールとは違うと思う。

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2008年4月 6日 (日)

個人発明家のビジネスモデル(2)

昨日、個人発明家のビジネスモデルについて書いた続きです。

第2のビジネスモデルについては、「紙とエンピツによるアイデアだけで、試作品も作らない発明で儲けようとするのは邪道だ」という意見もあると思います。これは、米国などで、パテント・トロール(個人などから特許を買い取って大企業を相手に訴訟などをしてライセンス料をふんだくる企業)に対して、よく言われることです。日本でも、パテント・トロールが跋扈すると特許法の目的とする産業の発達に反するという意見があります。

そこで、このような意見に対して、僕の考えを述べます。

昨日述べた第1のビジネスモデルは、よく、テレビなどでも、個人の趣味の延長として、「微笑ましい」という感じで紹介されています。これに対して、第2のビジネスモデルは、大企業などから批判があります。それは、第2のビジネスモデルは大企業にとって都合が悪いという事情もあると思います。

しかし、第1のビジネスモデルも第2のビジネスモデルも、どちらも、発明をすることそのものは全く同じなのです。違うのは、(a)発明が属する技術分野、(b)発明を収益化するための方法、の2つだけです。

(a)発明の属する技術分野が違うのは、単に、発明家が興味や関心を持っている分野が、ニッチな分野(第1のビジネスモデル)か大企業と競合するメジャーな分野(第2のビジネスモデル)か、という違いから生じるものに過ぎません。しかも、発明には偶然性が大きく左右しますので、どういう分野の発明を思いつくかは、実際に、発明が生まれてみなければ、分かりません。子供だって、スポーツが得意な子か文学が好きな子かなどは、実際に生まれてみなければ分かりませんが、それと同じです。

実際、僕の発明でも、80%はメジャーな分野ですが、20%はニッチな分野です。だから、当面は第2のビジネスモデルで行こうと思いますが、資金がたまったら、ニッチな分野の発明の特許を利用して、自分で商品化・事業化するのも面白いな、と思っています。

また、(b)発明を収益化する方法が違うのは、偶然性などに基づいて生まれ落ちた発明を収益化させるためには、第1のビジネスモデルでいくか第2のビジネスモデルでいくか、どちらがより効率的かという問題に過ぎませんし、それはひとえに、その発明の特性によって決まるものです。子供でも、スポーツの分野が得意な子とか読書が好きな子とか、いろんな子がいて、親は、そういう一人一人の子供の個性をみながら、どの方向に育ててやればいいかな、と考えると思いますが、それと同じです。

以上より、第1のビジネスモデルか第2のビジネスモデルかは、発明することからみれば、本質的な違いではないと思います。

しかし、個人発明家が経済的に成功しようと思う場合は、第1のビジネスモデルか第2のビジネスモデルかを常に意識できるかどうかで、結果が大きく違ってくると思います。

つまり、個人発明家は、自分の興味や自分が得意な分野などを見極めて、その分野を中心に研究して発明をすること、そして、発明が生まれたら、その発明の特性(ニッチな分野かメジャーな分野か、自分で製造できるものかどうかなど)を見て、その発明に適した収益化の方法は何か、つまり第1のビジネスモデルでいくか第2のビジネスモデルていくかを決める、というのが経済的に成功するための道だと思います。

つまり、第1のビジネスモデルと第2のビジネスモデルとは、発明を収益化させるために必要となる知識・ノウハウなどが大きく異なります。

だから、実際のところは、個人発明家は、自分の向き不向き、すなわち、経営者が向いているかどうかなどをも考えて、自分が第1と第2のビジネスモデルのどちらが向いているかを考えて、自分の発明をニッチ分野を主体にするか、メジャーな分野を主体にするかを考えてもよいと思います。つまり、予め、自分自身の個性や得意・不得意などを考えて、第1のビジネスモデルと第2のビジネスモデルのどちらが自分に向いているかを考えて、どちらかのビジネスモデルに適した技術分野の研究・発明をしていく、というのが成功するコツではないかと思います(ただ、前述のように、予めそう考えてても、実際に生まれる発明は、自分が狙った技術分野ではなかったりすることは、多いことです)。

「大企業へのライセンスを目指す」とは、大企業と発明分野が競合している発明をするという意味です。「大企業へのライセンスを目指す発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえますが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえます。その意味で、「大企業へのライセンスを目指す発明家」は、通常のパテントトロールとは違うと思います。

この個人発明家のビジネスモデルについは、また、別の機会に述べたいと思います。

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2008年4月 5日 (土)

個人発明家のビジネスモデル(1)

個人発明家には、自分の「発明」をどのように収益化させるかに関して、大きく2つの戦略、ビジネスモデルがあると思います。

第1のビジネスモデルは、自分の発明を自分で商品化・事業化するという事業家・ベンチャーを目指すものです(「エジソン型」といえます)。日本では、多くの個人発明家はこれを目指していると思います。婦人の方々の「なるほど展」のように自分の自作の商品を展示・販売するのがこのモデルです。

このタイプの成功例は、外国では、エジソン(今の米ゼネラル・エレクトリック社の前身の会社を設立)、グラハム・ベル(電話機を発明して電話会社を経営)、独のベンツとダイムラー(いずれも自動車を発明)、フォード(自動車の分業による大量生産方式を発明)、英国のダイソン(サイクロン式掃除機を発明して事業化)などがいて、日本でも、即席ラーメンを発明した日清食品の創業者の安藤百福さんなど、多くいます。

しかし、こういう人は、「発明の才能」と「経営の才能」との両方を併せ持ってる訳で、ある意味、スーパーマンですよね。こういう人は、めったに居ないでしょう。

現実的には、自分は発明だけを担当し、経営は他人に任せるというやり方の方がうまく行くでしょうが、発明家にはプライドが高い人が多いので自分でやりたがるとか、他人に任せたいが適当な人がいないなどから、このパターンで大成功したという例は少ないと思います。

しかし、大成功=大企業に成長ということでなく、中くらいの成功=中小企業としてやっていくというのなら、かなり成功率は高いのかもしれません。この方向で成功するための条件としては、ニッチな分野で事業化していく、ということではないかと思います。つまり、大企業が踏み込んでこないようなマイナーでニッチな技術分野、しかも自分で製造できるような分野で発明をして特許を取っていくというのがポイントではないかと思います。ここで、「自分で製造できるような分野」とは、例えばテレビや自動車の発明をしても、自分で製造販売できませんから、この第1のビジネスモデルは使えません。テレビや自動車に後付けする外装品の発明なら、自分で製造販売できるから、この条件を満たします。

第2のビジネスモデルは、自分で発明をしたものを、特許出願して特許を取得し、事業化は企業(特に大企業)に任せて、ライセンス料収入の取得を目指すというものです(米国の成功した個人発明家にちなんで「レメルソン型」といえます)。この方向の成功例は、日本ではまだ極めて少ないと思います。

このタイプの成功例は、主に米国に多く居ます。レメルソン特許と言われる画像処理関連の特許などでトヨタなど世界中の多数の大企業と交渉・裁判を繰り広げて数百億円かそれ以上の賠償金を獲得したレメルソン、マイコンの発明者としての名誉を裁判などで勝ち取ったハイアット、間欠ワイパーの特許でフォードなどから数十億円の賠償金を獲得したカーンズ、最近では、ブラウザーのプラグイン関連の特許侵害でマイクロソフトと訴訟をして現在和解交渉中のドイル氏(Eolas社)、その他、多くのパテント・トロール(特許の怪物=個人などから特許を買い取って大企業を訴えて賠償金をふんだくる企業)を含めると、米国では、成功例は山ほどあります。

何故、米国でこれほどの成功例があるのか。それは、米国の特殊事情があると思います。すなわち、米国では、エジソン、ベル、ライト兄弟などのように個人発明家の発明から大きな産業が育ったという歴史や西部劇のように自立した個人を尊敬する土壌があるため、昔から個人発明家を尊重する雰囲気や世論があること、レメルソン財団などのように個人発明家やその団体は多額の資産を有しておりロビー活動なども展開するなど政治的社会的にかなりの力をもっていること、企業より個人に有利な評定を出す傾向のある陪審員制度があること、特許を故意で侵害した場合における3倍額賠償の規定があること、着手金なしの成功報酬のみで動いてくれる弁護士がいること(日本ではまずいないでしょう)、成功報酬弁護士と似た機能を果たすものとしてパテント・トロール企業が多いこと(シリコンバレーのベンチャーなどでも、ベンチャーの出口としてIPO(株式公開)ではなくグーグルなどに買収されることを目標とすることがありますが、個人発明家でも、パテント・トロールに特許を買い取ってもらうことを目標とすることもあってよいと思います)、などです。

これに対して、日本では、成功例は、まだ少ないというか、ほとんど無いでしょう。パテント・トロールを一つの業務とする会社として、名古屋のADCテクノロジーがあり、ある程度の収益はあるようです(報道による)。しかし、このADCテクノロジーは、以前、2画面ケータイ特許でNTTドコモなどを訴えましたが敗訴しています。他に、松下昭さんという学者さんが、電子マネー関連の特許の侵害でソニーとJR東日本を相手に約20億円の損害賠償を請求する訴訟をされています(報道による)が、これも、報道を見る限りでは楽観できない状況と思われます。

米国の多くの成功例をみますと、多数の大企業を相手に契約交渉や裁判をする、というのがポイントのようです。少数の中小企業を相手に契約や裁判をしても、得るものは少ないからです。

つまり、大企業が多数の特許出願を行っている技術分野(例えば、テレビ、パソコン、自動車、電子部品、冷蔵庫などの家電製品、インターネットを使用したサービスなど)を選んで特許出願をする、というのがポイントです。自分で製造する必要はないので、その意味では、ほとんど紙とエンピツで作れる発明です。米国のレメルソンの発明も、ほとんど、このような「試作品なしの発明」だったそうです。

このように、大企業と同じ技術分野に分け入って、その中で、大企業の多数の研究者よりも早く発明・特許出願して、大企業が使わざるを得ないような基本的な特許を取得する、という獣道(けものみち)を通ることが必要です。つまり、「大企業の多数の研究者に競り勝てる発明の才能」が必要だということです。

また、この第2のビジネスモデルで成功するための条件は、上記の「発明の才能」だけではありません。こちらは、第1のように「経営の才能」は必要ないですが、特許出願、ライセンス契約交渉、特許侵害訴訟などが避けて通れませんので、特許法などの法律の知識とノウハウが必要になります。これらを弁理士と弁護士に任せることも考えられます。しかし、全部任せてたら、費用がバカ高なので、成功する前に破産するでしょうから、十分な資金を手にするまでは、自分で勉強して自分でやるというのが原則でしょう。

米国のレメルソン(故人)も、数億円?かどうかは知りませんが、ある程度の資金をためるまでは、特許出願も契約交渉も、全部、自分一人でやっていたようです。

このように、2つのビジネルモデルは、全く違います。ですから、個人発明家は、まず、自分の興味、タイプ、能力を考えて、どちらを採るのかを最初に決めた方がよい、その方が成功への近道だと思います。そうすれば、自分がどのような分野で発明をすべきか、どのようにして発明を収益化すべきかについて、目標と戦略が早い段階で明確になります。

僕自身は、昔から、ニッチな分野よりも、テレビや自動車などの大企業が研究開発しているメジャーな分野の発明に、より興味がありました。だから、僕自身は、自分の興味のある分野、自分のタイプ・能力などから考えて、第2のビジネスモデル(契約交渉と訴訟)で成功することを目指しているのです。そのために、この13年間、静かに暮らしながら、発明と特許出願に明け暮れてきました。そして、特許が十数件、特許出願が数十件と、ある程度、タマ数が揃ってきたので、そろそろ、仕掛けていこうか、と思ったのです。

なお、上記で、日本では第2のビジネスモデルの成功例がほとんど無いと書きましたが、実は、「職務発明」訴訟で多額の賠償金を得た「元の企業内研究者・発明者」の人たちは、広い意味では、この第2のビジネスモデルの成功例に含めてもよいかもしれません。

特に、青色LEDを世界で始めて実用化させた中村修二さんなどは、日亜化学という会社に勤めていたとは言っても、その当時から社長の命令などを無視して自分で勝手に研究していた(本人の著作の「怒りのブレークスルー」による)そうなので、広い意味では「個人発明家」と似た状況で発明したと言えます(ただ、実験設備などは数億円かかっているようで、それを考えると純粋な個人とは言いがたいかも)。そして、中村修二さんが多額の収入を得た方法は、契約交渉と裁判という第2のビジネスモデルそのものです。

なお、上記の「大企業へのライセンスを目指す発明家」とは、大企業と発明分野が競合している発明家という意味です。「大企業へのライセンス型発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえますが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえます。その意味でも、「大企業へのライセンス型発明家」は、通常のパテント・トロールとは違うと思います。

この、個人発明家のビジネスモデルについては、次回も触れたいと思います。

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