個人発明家には、自分の「発明」をどのように収益化させるかに関して、大きく2つの戦略、ビジネスモデルがあると思います。
第1のビジネスモデルは、自分の発明を自分で商品化・事業化するという事業家・ベンチャーを目指すものです(「エジソン型」といえます)。日本では、多くの個人発明家はこれを目指していると思います。婦人の方々の「なるほど展」のように自分の自作の商品を展示・販売するのがこのモデルです。
このタイプの成功例は、外国では、エジソン(今の米ゼネラル・エレクトリック社の前身の会社を設立)、グラハム・ベル(電話機を発明して電話会社を経営)、独のベンツとダイムラー(いずれも自動車を発明)、フォード(自動車の分業による大量生産方式を発明)、英国のダイソン(サイクロン式掃除機を発明して事業化)などがいて、日本でも、即席ラーメンを発明した日清食品の創業者の安藤百福さんなど、多くいます。
しかし、こういう人は、「発明の才能」と「経営の才能」との両方を併せ持ってる訳で、ある意味、スーパーマンですよね。こういう人は、めったに居ないでしょう。
現実的には、自分は発明だけを担当し、経営は他人に任せるというやり方の方がうまく行くでしょうが、発明家にはプライドが高い人が多いので自分でやりたがるとか、他人に任せたいが適当な人がいないなどから、このパターンで大成功したという例は少ないと思います。
しかし、大成功=大企業に成長ということでなく、中くらいの成功=中小企業としてやっていくというのなら、かなり成功率は高いのかもしれません。この方向で成功するための条件としては、ニッチな分野で事業化していく、ということではないかと思います。つまり、大企業が踏み込んでこないようなマイナーでニッチな技術分野、しかも自分で製造できるような分野で発明をして特許を取っていくというのがポイントではないかと思います。ここで、「自分で製造できるような分野」とは、例えばテレビや自動車の発明をしても、自分で製造販売できませんから、この第1のビジネスモデルは使えません。テレビや自動車に後付けする外装品の発明なら、自分で製造販売できるから、この条件を満たします。
第2のビジネスモデルは、自分で発明をしたものを、特許出願して特許を取得し、事業化は企業(特に大企業)に任せて、ライセンス料収入の取得を目指すというものです(米国の成功した個人発明家にちなんで「レメルソン型」といえます)。この方向の成功例は、日本ではまだ極めて少ないと思います。
このタイプの成功例は、主に米国に多く居ます。レメルソン特許と言われる画像処理関連の特許などでトヨタなど世界中の多数の大企業と交渉・裁判を繰り広げて数百億円かそれ以上の賠償金を獲得したレメルソン、マイコンの発明者としての名誉を裁判などで勝ち取ったハイアット、間欠ワイパーの特許でフォードなどから数十億円の賠償金を獲得したカーンズ、最近では、ブラウザーのプラグイン関連の特許侵害でマイクロソフトと訴訟をして現在和解交渉中のドイル氏(Eolas社)、その他、多くのパテント・トロール(特許の怪物=個人などから特許を買い取って大企業を訴えて賠償金をふんだくる企業)を含めると、米国では、成功例は山ほどあります。
何故、米国でこれほどの成功例があるのか。それは、米国の特殊事情があると思います。すなわち、米国では、エジソン、ベル、ライト兄弟などのように個人発明家の発明から大きな産業が育ったという歴史や西部劇のように自立した個人を尊敬する土壌があるため、昔から個人発明家を尊重する雰囲気や世論があること、レメルソン財団などのように個人発明家やその団体は多額の資産を有しておりロビー活動なども展開するなど政治的社会的にかなりの力をもっていること、企業より個人に有利な評定を出す傾向のある陪審員制度があること、特許を故意で侵害した場合における3倍額賠償の規定があること、着手金なしの成功報酬のみで動いてくれる弁護士がいること(日本ではまずいないでしょう)、成功報酬弁護士と似た機能を果たすものとしてパテント・トロール企業が多いこと(シリコンバレーのベンチャーなどでも、ベンチャーの出口としてIPO(株式公開)ではなくグーグルなどに買収されることを目標とすることがありますが、個人発明家でも、パテント・トロールに特許を買い取ってもらうことを目標とすることもあってよいと思います)、などです。
これに対して、日本では、成功例は、まだ少ないというか、ほとんど無いでしょう。パテント・トロールを一つの業務とする会社として、名古屋のADCテクノロジーがあり、ある程度の収益はあるようです(報道による)。しかし、このADCテクノロジーは、以前、2画面ケータイ特許でNTTドコモなどを訴えましたが敗訴しています。他に、松下昭さんという学者さんが、電子マネー関連の特許の侵害でソニーとJR東日本を相手に約20億円の損害賠償を請求する訴訟をされています(報道による)が、これも、報道を見る限りでは楽観できない状況と思われます。
米国の多くの成功例をみますと、多数の大企業を相手に契約交渉や裁判をする、というのがポイントのようです。少数の中小企業を相手に契約や裁判をしても、得るものは少ないからです。
つまり、大企業が多数の特許出願を行っている技術分野(例えば、テレビ、パソコン、自動車、電子部品、冷蔵庫などの家電製品、インターネットを使用したサービスなど)を選んで特許出願をする、というのがポイントです。自分で製造する必要はないので、その意味では、ほとんど紙とエンピツで作れる発明です。米国のレメルソンの発明も、ほとんど、このような「試作品なしの発明」だったそうです。
このように、大企業と同じ技術分野に分け入って、その中で、大企業の多数の研究者よりも早く発明・特許出願して、大企業が使わざるを得ないような基本的な特許を取得する、という獣道(けものみち)を通ることが必要です。つまり、「大企業の多数の研究者に競り勝てる発明の才能」が必要だということです。
また、この第2のビジネスモデルで成功するための条件は、上記の「発明の才能」だけではありません。こちらは、第1のように「経営の才能」は必要ないですが、特許出願、ライセンス契約交渉、特許侵害訴訟などが避けて通れませんので、特許法などの法律の知識とノウハウが必要になります。これらを弁理士と弁護士に任せることも考えられます。しかし、全部任せてたら、費用がバカ高なので、成功する前に破産するでしょうから、十分な資金を手にするまでは、自分で勉強して自分でやるというのが原則でしょう。
米国のレメルソン(故人)も、数億円?かどうかは知りませんが、ある程度の資金をためるまでは、特許出願も契約交渉も、全部、自分一人でやっていたようです。
このように、2つのビジネルモデルは、全く違います。ですから、個人発明家は、まず、自分の興味、タイプ、能力を考えて、どちらを採るのかを最初に決めた方がよい、その方が成功への近道だと思います。そうすれば、自分がどのような分野で発明をすべきか、どのようにして発明を収益化すべきかについて、目標と戦略が早い段階で明確になります。
僕自身は、昔から、ニッチな分野よりも、テレビや自動車などの大企業が研究開発しているメジャーな分野の発明に、より興味がありました。だから、僕自身は、自分の興味のある分野、自分のタイプ・能力などから考えて、第2のビジネスモデル(契約交渉と訴訟)で成功することを目指しているのです。そのために、この13年間、静かに暮らしながら、発明と特許出願に明け暮れてきました。そして、特許が十数件、特許出願が数十件と、ある程度、タマ数が揃ってきたので、そろそろ、仕掛けていこうか、と思ったのです。
なお、上記で、日本では第2のビジネスモデルの成功例がほとんど無いと書きましたが、実は、「職務発明」訴訟で多額の賠償金を得た「元の企業内研究者・発明者」の人たちは、広い意味では、この第2のビジネスモデルの成功例に含めてもよいかもしれません。
特に、青色LEDを世界で始めて実用化させた中村修二さんなどは、日亜化学という会社に勤めていたとは言っても、その当時から社長の命令などを無視して自分で勝手に研究していた(本人の著作の「怒りのブレークスルー」による)そうなので、広い意味では「個人発明家」と似た状況で発明したと言えます(ただ、実験設備などは数億円かかっているようで、それを考えると純粋な個人とは言いがたいかも)。そして、中村修二さんが多額の収入を得た方法は、契約交渉と裁判という第2のビジネスモデルそのものです。
なお、上記の「大企業へのライセンスを目指す発明家」とは、大企業と発明分野が競合している発明家という意味です。「大企業へのライセンス型発明家」にとっては、自分の発明を世の中で商品化する道として、主として大企業へのライセンスを通じて大企業に商品化してもらうことが効率的だといえますが、資金が貯まれば自分で事業化することも当然に在りえます。その意味でも、「大企業へのライセンス型発明家」は、通常のパテント・トロールとは違うと思います。
この、個人発明家のビジネスモデルについては、次回も触れたいと思います。
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