デジタル放送のみを受信できるDVDレコーダに関する私的録画補償金の問題
マイコミジャーナルの「関係者の合意がないまま課金できない - DVDレコーダ補償金訴訟で東芝が見解」(末尾に引用)などの記事によると、DVDレコーダは、もともと文化庁の省令に「補償金の対象機器」として規定されていたが、これが「ダビング10で複製が制限されたデジタル放送のみを受信できるDVDレコーダ」をも含むかどうかについて関係者間で論争があったところ、最近、文化庁の著作権課長が「含まれる」という文書を出したため、補償金を徴収しないとする東芝を権利者団体が訴えた、という経緯らしい。
文化庁の著作権課長が「含まれる」という文書を出したのは、もともと、文化庁は権利者側に立っていることから、そうなったのだろう。
東芝の主張は、補償金は私的な複製を(無制限に)我慢するしかない権利者のために認められたものだから、ダビング10で複製が制限されている機器は、補償金の対象機器に含めるべきではないということだろう。
逆に、権利者側の主張は、たとえダビング10があるとしても、9回までとはいえ、私的な複製を我慢しなくてはならないのは同じだから、他のDVDレコーダと同じように補償金を徴収すべきということだろう。
補償金の根拠規定は、著作権法30条2項(メーカーによる補償金の徴収は別の規定)。
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
裁判所としては、もし東芝を勝たせる結論が妥当と思っても、文化庁の著作権課長の「含まれる」という政令の解釈を問題にしたくはないだろう。なぜなら、裁判所が文化庁の政令の解釈が間違いだいう判決を出しても、文化庁が新たに政令を改正すれば容易に判決をすり抜けられるので面白くないからだ。だから、裁判所は、著作権法の解釈でいくと思う。
そこで、著作権法30条2項は上のとおりだが、この文言からは、東芝はかなり苦しいのでは。
消費者として心情的には東芝に勝ってほしいが、著作権法30条2項の文言からは、権利者側の解釈になるのが自然で、東芝の主張に沿うような結論にするためには、相当、文言を限定的に解釈するしかないが、かなり苦しい。
また、権利者側の、ダビング10があっても9回までとはいえ私的複製を我慢しなくてはならないのは同じなので、他のDVDレコーダと同じように補償金が必要だという考え方も一理ある。これが1~3回くらいの複製に制限されているなら話はかなり違ってくると思うけど。
以下、マイコミジャーナルの「関係者の合意がないまま課金できない - DVDレコーダ補償金訴訟で東芝が見解」の記事の一部を引用。
「東芝は11日、私的録画補償金管理協会(SARVH)が同社に対し、アナログチューナー非搭載のDVDレコーダへの「私的録画補償金」の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴した件について、同社の見解を発表した。
私的録画補償金の支払いの根拠となっている私的録音録画補償金制度は、私的使用を目的とした個人または家庭内での著作物の複製について、一定の割合で録音録画機器のメーカーから補償金を徴収し、著作権権利者への利益還元を図ることを目的とした制度となっている。この補償金を巡り、文化庁では「私的録音録画小委員会」で議論してきたが、iPodなどの携帯音楽プレイヤーやHDDレコーダ、PCといった現行の補償金制度外の機器についても対象に含めるよう求める権利者側と、著作権保護技術の進歩を理由に同制度の縮小を求めるメーカー側の主張は大きく異なり、結局、結論は得られなかった。
今回問題になっているのは、デジタル放送のみを受信できるDVDレコーダに関する私的録画補償金。メーカーが消費者から徴収した補償金の支払いを受け、権利者に分配する団体である私的録画補償金管理協会(SARVH)は10日、補償金の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴した。
東芝ではこれに対し、11日に同社の見解を発表した。同見解ではまず、従来のアナログ放送においては、「著作権保護技術が施されておらず、無制限にコピーが可能」(同社)なことから、アナログチューナーを搭載するDVDレコーダーについては、補償金の対象にすることで関係者間の合意がなされていたと説明。
だが、「現在のデジタル放送においては著作権保護技術(ダビング10)が施されてコピーが制限されているため、デジタル放送の記録に特化したアナログチューナーを搭載していないDVDレコーダーが補償金の対象か否かについては、消費者、権利者、製造業者など関係者の合意にいたらず、結論が得られていない」とし、アナログチューナー非搭載のDVDレコーダへの補償金課金は、関係者の合意が得られていないとの認識を示している。
同社ではこうした認識にもとづき、同社が販売しているアナログチューナー非搭載DVDレコーダー5機種については、発売当初から現在にいたるまで、購入者から補償金を徴収していない。(中略)
同社は、これらの機器において補償金を徴収していないことについて、「補償対象か否かが明確でない状況で補償金の徴収を行ない、その後、当該機器が補償金徴収の対象外とされた場合は、商品の購入者に対する補償金の返還が事実上不可能であることから、現状の下では、当該商品の購入者から補償金を徴収できないと考える」と、その理由を述べている。」
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