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2008年9月29日 (月)

無料発明相談の「落とし穴」

この前の記事のコメントで、自治体の起業担当や大学の連携担当に相談でもしたら・・・とエラそうに書きましたが、僕は、そもそも、アイデアの事業化には詳しくないので、あまり助言する資格はないです。

ところで、個人発明家や中小企業が初めて発明したりしたとき、どうしたらよいやら分からなくて、最初に行くところが、発明協会やその他の団体(県などの自治体の関係団体)がやっている無料の発明相談だろう。一般には、当番の弁理士が30分くらい、「無料で親切に」相談に応じてくれる。

しかし、この「無料で親切に」というのには、あくまで一部だろうが、「落とし穴」が潜んでいる。タダほど高いものはない、という「落とし穴」だ。以下は、僕が個人や中小企業の社長などから見聞した複数の話に基づいての、僕の意見である。

弁理士も商売だから、食っていくためには出願をして売上げを上げる必要がある。だから、内心では「くだらない発明だな」と思ってても、そんなことは言わないで「良いと思いますよ、出願して企業に売り込んでみたらいいんじゃないですか」とか「出願して製品化してみたら儲かるんじゃないですか」などと助言するのが多いのではと思う。衣服の売り場でも「(似合ってなくても)お似合ですよ」とテキトーなことを言う売り子が多いのと同じように。もちろん、本当に良心的な弁理士で「そんな発明の商品はどうせ売れないでしょうから、高い金を払って出願しても意味ないですよ」という人も中にはいるだろうが。

また、出願の前に先行技術の調査を行うのは(進歩性の無い発明を出願しても意味が無いから)当たり前なのだが、こういう無料相談に応じている弁理士の一部には、「売上げが大きい、特許出願という仕事」に話を持って行きたいという狙いからかどうか、調査をやることに消極的な人もいると聞いている(もっとも、もともと調査なんてものは、調査者のさじ加減一つで、結果なんてどうとでもなるもので、結局は、調査者の良心に任せるしかないものなのだ。なお、このことは、調査の必要性を否定するものではない。僕は調査は自分でやっているが、自分でやるのが難しい人は、良心的な調査員や調査会社に調査を依頼する意義は大きいと思う)。とにかく、良心的な弁理士も多いと思うが、「用心」は必要だと思う。

また、発明相談で、ひどいなと思った例がある。ある零細企業の社長からの話し。無料の発明相談で弁理士に相談して、出願しようということになったが、実質的には同じ一つの発明なのに、4つの製品が存在しているので4つの出願をした方がよいと言われて、何も知らないまま弁理士だからと信用して任せたら、明細書の冒頭から30%までの部分を除く大部分と図面の大部分は全く同じなのに、4件分の費用を丸ごと請求されたという例があった。僕もその出願書類の内容を見せてもらったのだが、4件の出願書類の70~80%は互いに全く同じ内容で、1件で出願しても全く問題ないよな、と思った(1つの抽象的な発明から4つの具体的な製品ができるとしても、それは、一つの出願の中で、例えば、特許請求の範囲の中に具体的な製品を説明する請求項を4つ追加し、各製品を説明する実施例を4つ入れればよいだけだ)。1件で出願すれば4分の1の費用で済んだはずだった。

まあ、少し考えれば分かると思うが、相談を無料で受けてる中で、どこかで、その「無料の部分」の元を取り戻したいと思う人たちが一部に出てくるのは、事実として、やむを得ないことだろう(弁理士には1回当たり幾らかの謝礼が支払われているだろうが、公的団体の仕事なのでそのような謝礼は極めて低い金額だろうから、実質的には「無料に近い金額」と言えるだろう)。それが、一部の弁理士とはいえ、そういう「あくどい商売」に繋がっているのではと思う。

よく証券会社や先物取引の会社が、無料の投資セミナーをやっているが、これもタダほど高いものはないという結果になる可能性はかなりある。証券会社と弁理士を同列にはできないかもしれないが、商売の基本はみな共通だろう。そもそも、こういうことは商売一般につきもののはずなのだが、無料の相談に行く人たちは、「・・・士」という肩書きに惑わされてしまうのか、用心が足りないと思う。

発明相談を行う公的機関やこれに参加する多くの弁理士は、崇高な理念の下でボランティア精神に基づいてやっていると思う。だから、問題を起こすのはあくまで「一部」の弁理士と思うが、その「一部」とはどれくらいか、僕も分からないが、決して1~2%というような可愛い数字ではないというのが、僕がある程度長期間、見聞して得た実感だ。

「無料」発明相談は無料だし受けるメリットは大きいと思うが、何でもそうだけど完全には信用しないで「用心」はした方がよい、という話でした。

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