カテゴリー「特許侵害訴訟(統計)」の3件の記事

2009年4月10日 (金)

知財高裁への審決取消訴訟の件数などの統計(2007年)

審決取消訴訟(侵害訴訟ではない)の統計(特許のみ)について、少し特許庁ホームページを見たので、纏めておきたい。以下は、特許だけの数字(商標や意匠は含んでいない。ただ、商標や意匠についての審決取消訴訟や無効審判の数は極めて少ない)。

1 「知財高裁への審決取消訴訟」の統計
a.査定系(拒絶査定不服審判、訂正審判など)の審決(請求不成立)取消訴訟
(a1)2007年の査定系(拒絶査定不服審判、訂正審判など)の審決(請求不成立)取消訴訟の出訴件数は、192件
(a2)2007年になされた査定系の審決取消訴訟の全ての判決の件数は、188件、その中の原告勝訴判決の件数は25件で、原告勝訴率は13%(=25件÷188件)。

b.当事者系(無効審判請求など)の審決取消訴訟
(b1)2007年の当事者系(無効審判など)の審決取消訴訟の出訴件数は137件
(b2)2007年になされた当事者系(無効審判など)の審決取消訴訟の全ての判決の件数は、108件、その中の請求棄却(審決維持)判決の件数は79件、請求認容(審決取消)判決の件数は29件。

2 「特許庁審判部への審判請求」の統計
(a)特許拒絶査定不服審判請求の請求件数は、2007年は32,586件。この請求件数の中の半分は前置審査で特許され、残りの半分が審判官による審理に付される。2007年において、前置審査で特許されずに審判官の審理に付されて審判の結果が出た件数は16,725件、その中で請求成立(特許成立)審決が出されたのは前記17,725件中の38%の6,290件、請求不成立の件数は7,963件、審判途中での取下・放棄の件数は2,472件。

(b)無効審判請求の請求件数は、2007年で284件。2007年の無効審判の結果は、請求成立(無効成立)の件数は142件、請求不成立(無効不成立)の件数は82件、審判途中での取下・放棄の件数の35件。

(c)訂正審判請求の請求件数は、2007年で141件。2007年の訂正審判の結果は、請求成立の件数は61件、請求不成立の件数は27件、審判途中での取下・放棄の件数は70件。

3 全ての特許出願(毎年、約40万件程度)の中の審査請求されものに対して最終的に拒絶査定がなされた件数は、2006年は約13万件、2007年は約14.8万件。

以上をまとめると、次のようになる。

1 特許出願に対する全ての拒絶査定は、2006年は約13万件、2007年は約15万件。
 この全ての拒絶査定に対して不服審判請求(査定系・特許法121条)があったのは、2006年は2.6万件、2007年は約3.3万件(割合では、約2.0~2.5%くらい)。

2 また、この拒絶査定不服審判請求に対して請求不成立(拒絶)の審決が為されたのは、2006年は約8千件、2007年は約8千件。
 この全ての請求不成立(拒絶)に対して知的財産高等裁判所への審決取消訴訟(特許法178条)の提起がなされたのは、2006年では217件、2007年では192件(割合では、大体、請求不成立(拒絶)審決の件数全体の約2.5%くらい)。

3 そして、知的財産高等裁判所への「査定系の審決取消訴訟」(2007年の全提訴件数は、192件)における原告勝訴率は、約13%(2007年の原告勝訴判決の件数は、25件)。

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2009年3月 9日 (月)

特許訴訟の提訴件数の日米比較

日経エレクトロニクス(2009/3/9号)の「特許で揺らぐ無線LAN」の記事中の48頁に米国での特許訴訟件数が掲載されていたので、メモしておきたい。

2007年9月期(2006/10/1~2007/9/30)の全米の地区裁判所が受任した知財関係訴訟全体の件数の合計は、1万783件。

2007年9月期(2006/10/1~2007/9/30)の全米の地区裁判所が受任した特許訴訟の件数の合計は、2,896件。

この特許訴訟のみの2,896件は、上記の特許を含む知財関係訴訟全体の件数である1万783件の中の約26.9%(ちなみに、著作権関係の訴訟は同約40.8%、商標関係の訴訟は同約32.3%)。

なお、この日経エレクトロニクスの記事によると、上記の全米の特許訴訟2,896件の中の12.4%の359件がテキサス州東部地裁に提起されているらしい(知財だけでなく全ての民事訴訟についてみると、全米の提起件数の25万7507件の中では、テキサス州東部地裁は全米の1%を占めるに過ぎないにも拘わらず! ちなみに、カリフォルニア州北部地区裁判所には、全米の地区裁判所が受けた特許訴訟2,896件の中の159件が提起されている)。

このようにテキサス州東部地裁に特許訴訟が集中している理由は、①特許権者が判決で勝つ確率が8割程度と非常に高いこと、②裁判所が特許訴訟に慣れているため審理期間が短いことなどから、特許権者の多くがこの地区での裁判を選ぶためだ(このような訴訟戦術は「フォーラム・ショッピング」と呼ばれている)。テキサス州東部地区において、特許訴訟のためにやってくる特許弁護士(金持ちが多い)や企業担当者への宿泊や飲食などのサービス産業など、特許訴訟がその経済活動に貢献している部分はかなり大きいらしい。

この特許訴訟件数2,896件は、特許侵害訴訟だけでなく審決取消訴訟も含まれているのかどうかは、この記事の中では、はっきりしない(米国でも、拒絶審決などに対する審決取消訴訟はある)。ただ、米国では、拒絶審決に対する取消訴訟は、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)への直接提訴が行われているらしい(ワシントンDCのコロンビア地区連邦地方裁判所への出訴も可能のようだがこちらは少ないらしい)。したがって、上記の2006/10/1~2007/9/30の期間に全米の地区裁判所が受けた特許訴訟件数の2,896件は、仮にその一部に審決取消訴訟も含んでいるとしても、そのほとんどが特許侵害訴訟と考えられる。

一方、日本では、このブログの2009/1/13の特許訴訟の提訴件数が減っている件(日経の記事より)でも述べたとおり、2007年の地裁レベルの特許侵害訴訟の提訴件数は156件となっている。これは「特許侵害訴訟」のみ。これとは別の特許関係の「審決取消訴訟」が日本で何件あるかだが、(詳しい件数は今調べている時間がないので)仮に300件とすると、日本での特許訴訟(侵害訴訟と審決取消訴訟との双方)の合計の件数は年間450件程度となるだろうか。

(※特許庁によると、実用新案・商標・意匠を含む全て?の審決取消訴訟は2007年で約430件とのことなので、特許のみの審決取消訴訟は多くても年300件かそれよりかなり低い件数と思われる。)

上記のとおり、米国の特許訴訟の件数は2,896件だから、日本の特許訴訟の件数(上記のように約450件程度と仮定する)は米国の約15%程度ということになる。この約15%というのは、米国の上記の2,896件が審決取消訴訟を含んでいると仮定したときの数字だ。もし含んでないと仮定すれば、米国の特許訴訟(特許侵害訴訟のみと仮定)の件数は2,896件に対して、日本の特許侵害訴訟の件数は156件だから、米国の約5%程度ということになる。

上記のように15%か5%かのいずれにせよ、特許出願件数は日米で大きな差はない(特許出願件数の正確な数字は今はみてないが、最近は米国の方が少し多いが、数年前までは日本の方が多かった)ことから考えて、日本の特許訴訟が「米国に比較して余りに少なすぎる」ということは明らかだ。

他方、米国が「異常に多すぎる」のだという見方もあり得る。米国では、特許弁護士の数が多い、訴訟1件当たりの特許弁護士の費用が数億円以上と高額になっており特許訴訟が一大産業化している、着手金ゼロで引き受ける成功報酬弁護士が存在するので訴訟提起のハードルが低い、パテントトロールが多い、3倍賠償など特許訴訟のインセンティブが働きやすい、ゴールドラッシュの歴史などに見られるように一獲千金のアメリカン・ドリームを夢見る人たち(そういう冒険家的な気質の人たち)が多い、などの特殊要因があるから。

日米の特許弁護士数の比較、日米の特許出願件数・特許登録件数の比較などもやってみたいが、今は時間がない。まあ、分析としては少し尻切れですが、この辺で。

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2009年1月13日 (火)

特許訴訟の提訴件数が減っている件(日経の記事より)

追記(2009/6/7): 2006年から2008年の3年間の東京地裁及び大阪地裁の特許侵害訴訟の判決125件の中で、原告(特許権者側)が勝訴した割合(勝訴率)は24%、同125件の中で、判決で特許権が無効とされた割合は49%。要するに、原告(特許権者側)の敗訴率は約75%、原告の特許が無効だと判断された率は約50%(ということは、原告が敗訴した理由としては、特許が無効とされたことによるものが、敗訴全体の約67%ということになる)、ということ。

特許訴訟の提訴件数が減っている件について、2009年1月12日付け日経新聞に特集記事が出ていた。要約すると、次のとおり。

1 2007年の地裁レベルの提訴件数は、156件で、3年前より3割減った。

2 その原因は、特許権者にとって特許訴訟が割に合わない、使いずらい制度になっていること。すなわち、裁判所が特許の有効性判断をできるとした2000年のキルビー最高裁判決、これを受けての2004年の特許法104条の3の「権利行使制限の抗弁」の創設により、特許権者は侵害訴訟を提起すると、裁判所の訴訟と特許庁の無効審判との双方で特許の有効性を認めてもらわないと勝てないという不利な制度、逆にいうと被告にとって非常に有利な制度になった。

3 しかも、特許権者は、侵害訴訟を提起したために、敗訴するだけでなく特許が無効とされてしまうリスクも大きくなった。以前から、原告の敗訴率は8割(勝訴率は2割)のままだが、原告が敗訴したときの「敗訴するだけでなく特許も無効とされてしまった率」は、ここ2-3年で従来の3割から6割に上昇した(※これは、つまり、もし侵害訴訟を提訴したら、原告は、8割は負けるし、約5割は負けるだけでなく特許も無効にされて踏んだり蹴ったりの状態になりますよ、ということだ)。

4 また、いったん勝訴判決が確定しても、その後、被告は何回でも無効審判請求を繰り返しできるので、それが成功して無効審決が確定すると、再審請求をして、確定勝訴判決を覆すことが可能になっている(※もし確定判決が覆ったら、原告はいったん獲得した損害賠償金を年利5%の金利を付けて返還しなくてはならない!)。

5 特許の有効性判断の争点の中心は進歩性判断だが、進歩性判断は従来より厳しくなっている(※ここが最大の問題だろう)。

6 知財高裁の飯村敏明判事は、「今の制度は被告にとって非常に有利な制度(原告にとって不利な制度)になっている」として、バランスを取り戻すため、「裁判所と特許庁とのダブルトラックによる紛争解決制度を見直すべき」、「紛争を1回の手続で解決し、いたずらに繰り返される無効審判で特許権者が疲弊しないようにすることが必要だ」として、次の2つを提案している。(1)無効審決の効力は既に確定した侵害訴訟の被告には及ばないようにすること、(2)一定期間後の無効審判請求を制限すること。

7 この記事では、2000年10月に確定した「生のりの異物分離除去装置」の特許侵害訴訟で原告勝訴判決が確定した後に敗訴被告が何回も無効審判請求を繰り返して、特許無効が確定し、再審請求が認められて確定勝訴判決が覆ってしまった事件が紹介されてて、これは、現在、原告側が最高裁に上告受理申立て中とのこと。

※私見として、上記6(1)の原告勝訴判決確定後の特許無効による再審請求を制限することは、特許法104条の3第2項の趣旨(訴訟遅延を防ぐ)から考えて解釈論として可能ではないか、と思う。最高裁でどういう判決が出るかは分からないが。

ただ、最高裁は、最近、原告敗訴判決の確定後に敗訴原告が何回も訂正審判請求を繰り返して訂正が確定した後、その訂正の確定を理由として再審請求をした事件で、特許法104条の3第2項の趣旨(訴訟遅延を防ぐ)から再審請求を制限する判決を出している(最判平成20年4月24日平18(受)1772「ナイフの加工装置事件」)。

この最高裁判決は被告側に有利な判決であるが、これとのバランスをとるためにも、原告勝訴判決確定後の特許無効の確定を理由とする再審請求を制限する最高裁判決がもし出れば、この日経の記事も大きな意味があったということになるだろう(ただ、上記の最高裁判決は、訂正が確定した場合は特許無効が確定した場合とは異なって・・・というような言い方をしているので、あまり期待できないかな)。

追記(2009/5/7):最近の統計:

2006-2008年の3年間の東京地裁及び大阪地裁の特許侵害訴訟の判決125件の中、特許権者の勝訴した割合(原告勝訴率)は、24%(約4分の1)。また、

2006-2008年の3年間の東京地裁及び大阪地裁の特許侵害訴訟の判決125件の中、特許権者が敗訴し且つ特許が無効とされた割合は、49%(約半分)

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